隠しダンジョンの先には?

 その雄叫びは耳の奥にまで響く。オレは耳に手を当てて、鼓膜の不快な振動を防ごうとする。

 翼を羽ばたく音は未だに響いているが、モンスターらしき雄叫びは治った。

 

 しかしだ、洞穴(ほらあな)中に響いたその雄叫びと翼の音を聞いて、オレの不安は絶頂にまで達した。

 それと同時に、今までの経験で培ってきたものだろうか。コイツはヤバイ!とオレの勘が答える。


 なんぼ、ダンジョン攻略成功報酬が欲しいと言えども、自身のHPバーがゼロを示し、そしてポリゴンの破片となって散ってしまっては元も子もないのだ。


 後悔の渦に苛(さいな)まれる。


 だが、ここまで来てしまっては後戻りは出来ないのだ。否、戻る手段が見付からない。なんせ地面の亀裂に落ちた末に、この隠しダンジョンへとやって来てしまったのだから。


 自然と身体に力が湧いた。それが覚悟の合図であった。


 そして、残された洞窟を進む事にする。微かに感じる流れる風。その風に舞い踊る火山灰の匂い。地面には匂いと共に流れ込んできた火山灰が散らかる。


「戻ることも出来ないなんて……ここに落ちた奴どうすんだよ!?攻略しか助かる手立てないじゃん!?」


 正にその通りであった。今のところ戻る手段は見当たらない。ここに落ちてしまった者…辿り着いてしまった者は生きるか死ぬかの2択なのだ。

 この先に、何らかの手段で戻れるモノがあれば良いのだが……

 それが見つかるかのが先か、先程の雄叫びの主…モンスターに出くわすのが先なのか……全てはそこに賭けられる。


 恐怖と不安を身に纏って先を目指す。


 先程の事を教訓として、何度か分かれ道が訪れたが、風の流れに沿って進む事にした。まるで迷路のような洞窟だ。左の洞窟とは対照的に、道が入り組んでいるのだ。

 しかし、その度に目的地を教える如く、流れ出る風があった。そして全くと言って良いほど風のない道だ。

 

 次第に流れ込む風は、出口なのではと希望を抱くようになっていた。


「やっぱり…この風に沿って行けば、この洞窟から出れるのかも……」


 それから暫くの間歩き続けた。風が流れる方へと……

 ある一つの疑問が湧いた。それは、ここまでの道中で1匹のモンスターさえも居ないのだ。

 前回の隠しダンジョンでは幾度となくモンスターに出くわしたのにだ。

 そんな筈は無いのだ。通ってきた道にはモンスターの死骸…朽ちた骨が転がっていたからだ。すなわち、ここにはモンスターが湧いていたのだ。またこの『セカンド・ライフ』ではリポップというシステムがあるから、何らかの手によって討伐されたモンスターはまた、一定時間経つと再び湧いて出るのだ。

 しかし、それすらも見当たらなかった。


 もっとも、今まであれば討伐されたモンスターは破片となり散って行く。それがこの『セカンド・ライフ』でのシステムであった。それを大きく異なり、モンスターは骨となり転がっているのだ。

 それも鳥の姿をした骨…胴体が背丈以上にもなる骨もあったのだ。破片となり散っては行かずに、こうして朽ちた姿で残っているのは異様である。


 そして、とうとうこの洞穴の最後へと辿り着いた。


 その光景は……

 

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