食べれば何とかなります!!

 パッと閃いた考えを実行する為にここから逃げる事を……でもな、やっぱり金は欲しい!巨大蜂20匹の内19匹を狩り、1匹の巨大蜂がブンブンと羽音を立てながら飛び回り、勿論矛先はオレへと向けられているのだが、地面に伏せながら辺りを見渡すと、オレが狩った巨大蜂の跡にはドロップアイテムとコインが落ちているのだ。


 早く行動に移さなくては…HPをこの巨大蜂に奪われてしまう。そして行き着くのはHPゼロという悲惨が待ち受けている。攻撃もそうだが、それだけは絶対に回避しなくてはならないと、オレは身体を起き上がらせてはドロップアイテムとコインの回収に走り出す。


『アイテム【ハチミツ】を取得しました』

『金貨【3800ジェム】を取得しました』


【ハチミツ】

巨大蜂から採集、またはドロップで取得出来る。飲むと少しだけHPが回復する。回復薬として使われる。

売価価格『50ジェム』


「おぉ、嬉しい誤算来たー!!ちょうどポーション無かったから…それにこれから≪銀翼のシルバー・毒龍ベノムドラゴン≫と戦う訳だし!あった方が便利だ!!」


 クロユキのHP回復手段…今はスキル【エンジェル・ハート】での回復手段しか無く、この【ハチミツ】は正に願ったり叶ったりであった。

 しかしこれから、これら以外でのHP回復手段を意外な方法で知る事になるのだ。

 巨大蜂19匹を討伐し得たジェムは…【3800ジェム】、1匹あたり【200ジェム】といったところだ。


 全ての狩での報酬を回収し、この場から脱出と言わんばかりに来た道を辿る。

 そして道中、HPが減った事で再度【エンジェル・ハート】が発動され、HPバーの色はグリーンに変わっていく。全回復とまではいかないが、ある程度回復したと木陰に身を寄せるのだ。先程のドロップアイテム回収時に巨大蜂からの多少の攻撃も受けた為、そして【エンジェル・ハート】のオート回復でHP残量は『48』を指していた。


「流石にコーヒー一杯じゃあ腹も減るよな!?」


 木陰に潜む中、オレの腹の虫が鳴る。この『セカンド・ライフ』では空腹というエフェクトではなく、限りなくリアルに近い症状が出る。そして『セカンド・ライフ』内での食事…どんな原理なのかは知らないが、便利な事にリアルでの空腹も免れることが出来るのだ。


 オレが今いる場所……木陰とは言ってもまだフィールドには変わらない。辺りは茂みに囲まれている。こんなところで一休みだなんてモンスターの格好な餌食になるのが落である。この【エンジェル・ハート】はなんらかの方法で自身のHPが減らされなければ、このスキルの恩恵でもあるオート回復がなされない。便利ではあるが、不自由極まりないのだ。その為、HPの全回復は限りなく困難に近い。レアなスキルには変わりないのだが。


「う〜ん、やっぱりポーション欲しいよな!?」


 クロユキはレベル1でカンストの為、HP最大量は初期のままである。その事から高価なポーションなどは必要なく、最下級のポーションで十分事足りてしまう。今となって、ポーションの購入をしとけば良かったと思わされるのだ。


「ずっとここで隠れる訳にもいかないし、でもな…腹も減ったし、ポーションも無いし…これは迷ったぞ!?」


 そう呟く間にだ。茂みをガサゴソと揺らす音。はっとしてその場から立ち上がり音の鳴る方を見渡す。


 なんとも不運でしかない。このタイミングでモンスターと対面とは…あの巨大蜂のレベルは、予想ではあるがスライムレベルだ。だから【VIT】ゼロのオレでもHPの減りが少なく済んだのだと。

 もしここで強力なモンスターに出くわしてしまったら…ここは【エスゴール氷山】の近くなのだ。あのシズと2人での戦いを思い出せば、そんな疑念も引き起こされる。


 しかし、そんな疑念も大きく裏切られてしまう。


 茂みの中から現れたのは……


 以前【森と泉】で対峙したモンスターと同じ、イノシシであった。

 それを前にしてそんな疑念を抱いていたオレ自身、鼻で笑ってしまうのだ。


「なんだよ!イノシシじゃねぇか!?驚かせやがって!ちょうど腹減ってたとこだ…コイツ、食っちゃうか?」


 運営はモンスターをその場で狩って食べる!という事を想定していただろうか。勿論解答は否、である。いや、狩ったその肉をなんらかの手段で火を通して食す。というのは想定済みであろう。しかしこのクロユキはそうでは無いのだ。

 どんな考えを持って、そんな行動を捻り出すのか摩訶不思議である。もっとも、今後今よりも更に、運営はこの「クロユキ」に手を焼く事だろう。


 クロユキに向かって突進を試みるイノシシ…ではあったが軽々しくその攻撃を回避され、クロユキは避け切ったその瞬間にそのイノシシの上に飛び掛かり、大きな口を開けてはイノシシの背中目掛けてガブリっと嚙(かじ)り付いた。


「おぇーっ、生臭い!!でもまぁ、鼻摘めば何とかなるかも!!」


 こうして1時間の決闘……いや1時間の食事がなされ…空腹は治ったのだが、なんともこの血生臭い味はどうする事も出来なかった。イノシシの身体に変化が訪れ、クロユキによって食された肉は消滅し、背中に掛けては骨が見えるのだ。その姿はなんとも不気味でしかない光景だ。流石のイノシシも弱り切ってきたのだろうか。動くこともないまま、クロユキによって肉を食される。

 そして、クロユキの口がイノシシの脚…もも肉を食そうとした時だ、一部の肉が消滅し骨が所々見え隠れしているイノシシは、ポリゴンの破片となり消えていくのだ。


 そこでクロユキはある事に気付く。自身のHPが回復しているのだ。この食事の前ではHPは『48』だったのだが、イノシシが消滅した今、クロユキのHPはというと『56』を指していた。


「あれ?イノシシ食べたらHP回復してる!?モンスター食べたらHP回復するんだ!?」


 言わずと知れようが、この行動と考えは全く持って大いに違うのだ。これは『HPドレイン』という、この『セカンド・ライフ』内でもしっかりとスキルとして認定されている行為なのだが…まだこの序盤でそんなスキルを取得している者なんているのだろうか?

 『HPドレイン』とはスキルを行使して行われる、モンスターからHPを奪い、そして自身のHPに付与させるといった方法だ。ある種の回復方法の一つでもある。


 だがこのクロユキの行動…モンスターをそのまま食すという行動が『HPドレイン』として扱われたのかもしれない。定かでは無いが。


 そして、このクロユキは普通とは大きく違った方法で、自身のHP回復手段を知る事になった。

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