極振りのオレと極振りでヤバイ奴とダンジョン攻略なんてw

 オレとシズがこの洞窟の隠しダンジョンの奥へと進む時だ。


 「このオンナ、遅っ!!」


 それはそうである。シズ(クソど変態オンナ)は【STR】極振りであり、【AGI】には一切数値を振っていない。故に、歩くスピードはリアルでのスピードとなんら変わらないのであった。そんな奴を引っ張って行かなければいけないと、到底苦労が計り知れない。


 「ここに置いていこう」と悟ったが、頑固な事にオレを引っ張り離そうとはせず、その末にパーティーを組む事になってまったのだ。オレはシズを庇(かばう)う形で、先頭になり歩く他無かった。


 すると目の前にモンスターの群れが–––。


 今度は白くプカプカ浮かぶゴーストの群れである。空中に浮遊している様で、微笑みを浮かべている表情が分かるのだった。しかしだ、この状況はシズにとってはご褒美の他無いのだ。

 

「あぁーん、あんなところにゴーストが居るなんて…いゃぁーん、襲わないでー!!」


「それ嫌がって無いだろ?むしろご褒美じゃねぇか!?だが、戦ってもらうぞ?なんたってオレよりもレベル高けぇし!オレはレベル1なんだぞ!?自慢できねぇけど……」


 オレはゴーストに睨みを利かせて様子を探っている。

 その反面、このオンナときたらまた発情に飢えを感じているのであろうか?ハァハァハァと喘ぎ出す。


「発情期ですか?コノヤローー!!お前も戦うんですよ!?」


 次第にゴーストのスピードは早くなり、こちらに気づいたのであろうか、視線が送り込まれる。


「おいっ、構えろ!」


 その声はこの洞窟内に反射し、良く響き渡った。


 2人は武器を構える……


 オレはと言うとコイツを庇いながら、前衛として前に立つ事にした。ゴースト達を見て、これは【AGI】値が高いオレの方が相性が良いとの判断である。飛ぶ様な動きを捕らえられると思ったからである。そしてゴーストの群れはこちらに襲いかかってくる。


 オレはスキル詠唱をしてみせた。


「スキル【無双回避】【電光石火】!!」


 ゴーストの攻撃を待ち、その場でじっと構える。

 その瞬間、ゴーストの口から何やら霧の様な物を吐き出した。色は紫色でガスの様であった。


「うん?これは…変な匂いが…ヤバイ!」


 オレとシズは2人して口元を手で覆う。


『毒ガスだ』


 手を抑えているから声を上手く出せない。オレは小声でシズに向かって言ったのだ。この毒ガスは2人にとっては致命傷である。

 なんせ2人は【VIT】値ゼロであり、もっとも毒耐性と言う、なんとも便利なスキルなんて物は持ち合わせていないのだ。


 少しずつ削られていくHP –––。


「シズ、ヤバイぞ!このままじゃあHPゼロになって2人ともここでさようならだ!!それだけはなんとしても避けたい!良く聞け!今からオレはコイツらの懐に入って刺す!だけど、致命打にできなかったヤツをお前に狩って欲しい!出来るな?」


 先ほどとはとって変わって、シズはなんとも弱々しい声で答えた。


「分かりました!焦らしプレイって事ですね!?私が焦らされ焦らされ、我慢出来なくなったとこにグサりと言う事ですね!?」

「うん?何かが違う気がするが…まぁ良いだろ!?」


 すると、またもやオレの頭の中で通知音が……


『スキル【毒耐性 小】を取得しました』


【毒耐性 小】

状態異常『毒』への耐性が少し上昇する。このスキルには段階があり、その条件をクリアすると段階アップする。段階は【小】<【中】<【大】<【毒完全無効】の順番。

取得条件

状態異常『毒』を受けて一定時間耐えること。


 そのスキルの効果だろうか?少しずつ削られて行ったHPバーの減少がピタっと止まるのだ。


「おぉ、【毒耐性 小】か!?これでオレのHPも大丈夫かな!?…ってお前のそのスキル…なんだよ!?お前だけなんか違くね??」


 シズにも同様に『スキルを取得しました』というパネルが表示されていたのだが、そのスキル名がなんとも不思議であった。オレと同じ条件だったと思うのだが……シズの前に現れたパネルに目を向ける。


【毒に侵されるのはお好き?】ユニーク・スキル

スキル【毒耐性 小】の段階の中で最底段階のスキル。全ての『毒』による状態異常を防ぐ事が出来ず、何らかの状態異常『毒』を吐き出す攻撃を持つモンスターへのヘイトが大幅に上昇する。

取得条件

【責められるのがお好き】のスキルを所有し、またある一定時間状態異常『毒』の攻撃を受け続ける。


 このパネルを眺めるシズの表情は喜びを表していた。


「エヘヘ、新しいスキルゲットですぅ〜!!」

「お前さぁ…なんつぅスキル取得してんだよ!?たっくよぉ…なんでこうも変なスキルばっか取るかなぁ?分かんねぇわ!!」


 この会話を最後にして、オレはゴーストの懐に潜り込もうとする。


「ゴホッ、ゴホッ、このっ、お前は家賃分だ!それから…お前は電気代だぁー!!」


 流石は【AGI敏捷性】760と言ったところであった。

 懐に入るなり、ゴーストの空いた口目掛けて、ダガーナイフを差し込む。


 ゴースト1体、そしてもう1体といったように、次々にゴーストの元へと瞬間移動する様な動きを垣間なく見せ…ゴースト達はオレの背後でガラスの破片になり、消え去っていく。


 全く持って、シズの出番はなく終わってしまった。

 その時のシズの顔は、なんだかガッカリと言う様な表情を浮かべていた。

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