モンスターに襲われる美少女!?

 オレの頭の中はというと…怒りと興奮。それだけだった。それらが頭の中を駆け巡ってはオレが今、どこにいるかのさえも分からず終いだった。


「えっ?えっ?…ってあれ?うっ、うわぁーーーー!!」


 オレが進んでいる場所の先は谷底だと知ったのは、体が急降下している今。である。


 「ドカッーン」


 激しい音と共に、オレの体は地面へと打ち叩かれた。ズキッと腰と頭に痛みが走る。


「痛てててっ、オレあそこから落ちたのか?」


 そう呟いては、崖の上を眺めながら我に帰るのだ。


「気付かなかったよ!こんなとこに崖があるなんてさっ!Lv.1でカンストだし…落ちるし…本当ついてねぇよ!!」


 すると自分のHPバーが減って、赤く染まっている事に目がいく。HPは60の内15を指していた。ピコーン、ピコーンとHPが減っている通知音が頭の中で響く。それはなんとも不快であった。


 オレは痛みに負けまいと辺りを隈無く見渡す。次に目に入ったのが小さな祠(ほこら)のような入り口である。その入り口は崖の面に竪穴のようにポカーンと開いていた。


 俗に言う、洞窟である–––。


「あんなとこに隠しダンジョンがあったのかよ?隠しダンジョンって大概強いモンスターがいるって、お決まりだよな?そこに行けば大金をお目にできるかな?でもこのHPでどうするか?だよな…仕方ない、ポーションだって無いし、売ってる街まで戻るのも癪(しゃく)だよな!?」


 オレはその洞窟に入っていく事に決めた。草木を掻き分け洞窟の入り口前にやって来ると、風と土の匂い、そして湿った空気が襲うのだ。


「行ってみるしかないな?HPが気になるけど、金には変えられないよ!」


 そして自分自身に言い聞かす為に叫ぶのであった。


「金が必要なんだ!!」


 自分よりも格上のモンスターがいた場合、1発でも攻撃を受けてしまうと、1発即死は必至の状態である。何しろ、生命力と防御力の源である【VIT】値には、数値は全く振っていないからである。HPが全回復の状態ですらも危ういのだ。


 それは突然の出来事であった。


「キャーーー!!ちょっとこっち来ないでよー!!」


 大きな悲鳴が鳴り響いた。その悲鳴は女性だろうか?高い声で叫ぶのであった。その悲鳴を耳にしてオレは先を急ぐ事にする。ここでも【AGI】760の恩恵があったのだ。


 走るスピードは速い–––。


 未だ女性と思われる悲鳴は続く。その悲鳴を頼りに、先に進むのであった。その悲鳴に応答するように、オレも叫ぶ。


 「おぉーい、どこだぁー?どこにいんだよ?」


 しかし向こうの応答はない。応戦している最中なのであろうか?

 次第にその叫び声は近くなっていく。洞窟の道は長く、一本道で直径で言えばおよそ15メートル程であろうか。

 時折、水滴が染み込み、ピチピチと音を立てて地面に落ちる。


 気味の悪い空間であった–––。


 先程とはとって違って、叫び声ははっきりと耳に響き、その声のする場所の近さを示していた。


 オレの目に、ある光景が映るのであった–––。


 それは少女がモンスターに襲われているところであった。

 モンスターはコウモリの様で、群れになりその少女に襲いかかるのである。

 それを追い払おうと片手剣で振り回すが、それはなんとも無駄な抗(あらが)いである。

 暗い中で目を集中し、凝視する事に神経を注ぐ。


 「あの子どっかで見た事ある気が…」


 オレはそう呟くと、咄嗟にスキルの詠唱をしながら、少女を襲うモンスターの群れの中に突っ走る。


「スキル【電光石火】【無双回避】!!」


 そう詠唱を放つとオレの体は白い光に覆われて、ダガーナイフを右手に握り締める。次第にコウモリの群れと、それに襲われる彼女…の姿が近くなる。

 すると少女の頭上には、黄色く変わったHPバーが見て分かった。いっこうにコウモリは少女への矛先を変えようともしない。付き纏(まと)われているように彼女への攻撃を緩(ゆる)めないのだ。

 そこでコウモリ達の攻撃先を変えようと、群れに向かって叫ぶのであった。


「おいっ、コウモリ!こっちだこっちだ!オレに攻撃して来いよぉー!!」


 少女の視線が"誰だ?"とこちらに向くのが分かった。

 視線が合い、お互い分かったのであろうか。


「あの時の女の子か?【始まりの街】でオレが聞いたあの子だ!」


 そう呟く瞬間だ。コウモリの群れの矛先がオレへと変わるのであった。それは6匹ほどのコウモリの群れである。

 翼をバタバタさせながら、口バシで突き当てる様な攻撃を仕掛けてくる。


「下がれ!」

 と彼女に向かって吐く。


 するとその彼女は1歩、2歩とその場から後退りする。

 それは瞬間の出来事であった–––。


「お前は家賃!それでお前は電気代で…お前はガス代だ!!」


 スキルの性能・効力もあり、自分でも素晴らしいと言える程の回避能力で、全てのコウモリの攻撃から回避しながら攻撃を食らわせる。

 見事に攻撃を回避した後、ダガーナイフを振り被り、刀身をコウモリの翼目掛けて振り下ろすのだ。


 3度、4度……とそれはあっけない程に終わったのである。

 

『スキル【吸血魔(きゅうけつま)】を取得しました』


【吸血魔】

スキル発動時、敵にあらゆる攻撃を与えてダメージを負わした分だけのMPを回復することが出来る。

取得条件

コウモリ4体以上を単独で全て討伐すること。


「【吸血魔】って…コウモリだからか!?らしいって言えばらしいのかな?どちらにしろ、これがあればスキル打ち放題かな!?まぁ、嬉しい誤算…って事で…」


 クロユキにしてはこのスキル【吸血魔】は都合が良かった。なんせレベル1でカンストともあれば、これ以上のレベルアップは望めなくHP・MPの最大量は増えないのだ。その事で安易なスキル連発は出来ず、自ずとスキルの使用回数制限が設けられていたと言っても良い。だが、ここに来ての【吸血魔】は今のクロユキの状況を打破できるスキルである。


「武器のスキルボックスに【吸血魔】装着したら…スキル発動する必要無いし…攻撃するたんびにMP回復してくれると思うけど…もっと良い武器手に入れてからにしよう!?」


 はたまた頭の中で通知音が鳴り響き、パネルが表示される。


『アイテム【コウモリエキス】を取得しました』


【コウモリエキス】

コウモリから採取、またはドロップで取得できる。コウモリのエキス。これを飲むとたちまち精力活性すると言われている。

売価価格『150ジェム』


 それはなにやら小瓶に血のような液体が入っている。


「げっ…!!なんだこれ!?コウモリエキスってコウモリの血じゃねぇかよ!?うわぁー、これ飲んだら精力活性するって…オェェェ!!6本もいらねぇし…こんなもん飲む奴の気が知れねぇーー!!早いとこ売っちまおう!?」


 そそくさと表示されたパネルを閉じてはアイテムストレージに仕舞い込む。


 オレの背後には窮地とも言える、あの状況を救い出した彼女はその場から動かずに、ただ…立ち竦んでいた。

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