第29日目 好感度を奪え! ①
チッ!
朝から最悪な気分で目覚めた私は思わず舌打ちをしてしまった。宿泊した部屋は最高クラスのお部屋、ベッドはスプリングがきいた抜群の寝心地で、羽毛布団はフカフカだというのに・・・。
なのに私の眼前に表示された液晶画面を見ているだけで、テンションはだだ下がりだ。
『出現場所はここから西の砂漠地帯』
あ~・・・やはり砂漠に足を踏み入れなくてはならないのですね?
『ウィルスの正体は巨大化したアリジゴクです。』
アリジゴクって確かあれだよね・・・。巣穴の中で獲物を待ち受け・・・その穴に落ちた生き物の体液を吸うというあの恐ろしい虫・・。
『罠にご注意下さい。』
罠?罠と言ったらもうあれしかないでしょう?すり鉢状に掘られた巣穴は落ちたら最後。二度と出る事は叶わずに、アリジゴクの餌食にされてしまうというあの恐ろしい罠・・。
『オリビアによって攻略対象1名の好感度が下げられました。』
「そう!これが・・一番の問題なのよっ!」
ベッドから起き上がった私はたまらず、大声で叫んでしまった。
「一体・・・誰なの?誰の好感度が下げられてしまったの?もしこれが学園に残されたフレッドかエディなら今の私にはどうする事も出来ないじゃない。かといって、この討伐隊のメンバーに好感度が下がったキャラがいたとして・・・今からアリジゴクという強敵?を倒しに(正確に言えばコンピューターウィルス)行かなければならないのに、好感度なんかあげる余裕なんかあるはずないじゃないの・・・。クッ・・ここにベソとノッポがいれば・・・ウィルス駆除に協力してもらう事が出来たのに・・・。」
その時、コンコンとドアをノックする音が聞こえてきた。
うん・・?誰かな?
ガチャリ・・・
ドアを開けるとそこには、アンディ・アドニス・エリオット・ジェフリーの4人が目の前に立っていた。そして私の姿を見た途端全員が唖然とした顔を見せた。
「エ、エリス・・・。その姿は・・・?」
アンディが震える指先で私を指さした。
「う。うむ・・・。な・中々斬新なパジャマだな・・・。だが・・彼シャツの方が・・お前には似合っている気がするけどな・・・。」
エリオットが咳払いしながら言う。
「エリス・・・。後で支配人に文句を言いに行こうか?こんな立派な部屋なのに、部屋着が悪趣味なんて許せないよ。」
アドニスが同情の目をして私を見ている。
「い、いやっ!エリス・・。お・・俺はお前なら・・な、何を着ても似合う!俺は可愛いと思ってるぞ?!」
ジェフリーは私の両手を握りしめると頬を真っ赤に染めた。
その時、ある事に気が付いた。アベルがいない・・・?
一体彼はどうしたというのだろう?
アベルの姿が見えないのが何となく引っかかる。だってねえ・・・。
チラリと彼等の頭上に浮かんでいる好感度のゲージはエリオットが350でそれ以外のメンバーは全員300を指している。
ひょっとすると・・・好感度を下げられた人物は・・・アベルなのかもしれない。 私が突然黙りこくってしまったのを見て心配に思ったのかアドニスが声を掛けてきた。
「どうしたの?エリス・・・。突然静かになっちゃったけど。ひょっとすると具合でも悪いの?」
言いながら私の額に頭を付けてくる。ヒエエエ・・・距離が近い・・・・。
「おい?!エリスに何をするんだ?」
そこをグイとアドニスを引き剥がしたのは言うまでない、今のところ一番好感度が高いエリオットだった。
「エリス。俺達はこれから朝食を食べに行くところだったんだが・・・見たところまだ準備が出来ていないようだな・・。待ってるから支度をしてきたらどうだ?」
アンディが尋ねてきたが、私は言った。
「いいえ。どうぞお先に皆さんで行ってきてください。ところでアベル様はどうされたんですか?」
「ああ、アベルなら二日酔いで寝込んでいるよ。食欲もないから部屋で休むと言っていたなあ。・・・しかしあんな調子でこれからモンスター討伐に行けるのか?あいつ・・・。」
ジェフリーが腕組みをしながら言う。
「え・・?二日酔なんですか?それは・・・大変ですね。でも・・・朝食はとりあえず皆さんお先に行って来て下さい。私は着替えたら行きますので。」
そして4人はぞろぞろと朝食を食べにホテルの階下へと降りてゆき・・・私は一度部屋に戻った。
「さてと・・・着がえをしたいところだけど・・もう一度メイド服を着るのは嫌だなあ・・・沙埃で汚れている気がするし・・・。何かポイントで交換出来る服はないかな・・・?」
液晶パネルをタップしながら、洋服のアイテムは無いだろうか・・?
そして、私はあるアイテムが目に留まった。
『アラビアン・ナイトの衣装(女性用)』
「え・・ええ!衣装があったんだっ!何てラッキー。どれどれ・・・どのくらいポイントがあれば交換できるのかな?」
見ると交換ポイントは5000ポイントとなっていた。そしてこのアラビアン・ナイトの衣装には特殊効果として『魅了』の効果有りと書かれている。
「あ~。そう言えばよくRPGなんかで特殊効果がある武器や防具があったよね・・。つまり、これを着れば特殊効果の『魅了』を発揮するって事だな・・。これからモンスター討伐に行くにはちょうど良い衣装かもね・・・。よし、交換っ!」
そして私は液晶パネルをタップして・・・・眩しい光に包まれた後、絶叫した―。
シーツを被り、ホテルの部屋を出た私は辺りをキョロキョロ伺いながら、『白銀のナイト』達の泊まっている豪華客室を探した。恐らく・・・まだアベルは具合が悪くて眠っているはずだ。
先ほど液晶パネルを操作してみたが、彼らのステータスを表示させることが出来なった。と言う事は・・・
「直接この目で好感度を確認しないとならないって訳だよね?多分・・・私の勘が正しければ今回オリビアのターゲットになった人物は・・・アベルだと思うんだけど・・・。」
兎に角、白銀のナイト達に見つかる前にアベルの好感度を確認しなければっ!
「あった!この部屋で間違いないはずだっ!」
その部屋の扉は黄金色に輝いている。そう言えば、この国は金の採掘量が世界一だったはず・・・。いわゆるお金持ちの国なのだ。だからドアの入り口に金箔がはられているのかもしれない。
私はノックもせずに、そ~っとドアを開けて、中へと足を踏み入れた。
その部屋には5台のベッドが並べられ、一番奥のベッドがこんもりと盛り上がっている。うん。間違いない。あのベッドにアベルは眠っているな・・・・?
よし、そっと布団をめくってまずは好感度から確認だ。そしてアベルの好感度が下がっていれば、何か対策を考えよう。
私はばれないようにそっと足音をしのばせてベッドへと近づいた・・・・。
すると布団の中から苦し気な声が聞こえてくる。
「ううう・・・頭が痛い。み、水・・・・。」
アベルが水を欲しがっている!
そっと布団をまくってみるとアベルは目をギュッと閉じたまま、青ざめて苦し気にしていた。そしてアベルの好感度は・・・。
「う・・・嘘っ!たったの・・50?!」
何故だ?いつの間に・・・一体オリビアはどうやって私からアベルの好感度をこんなに沢山奪ったのだろう?いや、その前に・・・。
「ううう・・・み、水・・・。」
アベルがうなされている。
「アベル様、水ですね?今持ってきますからお待ちくださいね?」
こんな状態のアベルを放ってはおけない!彼にお水をあげなくては・・・!
キョロキョロ部屋の中を探すとコップと水差しが見つかった。
よし!お水をあげようっ!
早速コップに水を入れ、アベルの元へ届けた。
「アベル様、お水ですよ、さあ飲んでください。」
そう言ってアベルの口にコップをあてがって水を注ごうとしても口から垂れて飲んでくれない。
う~困った・・・。その時、私はある事を思い出した。
そう言えば・・・スーパー銭湯へ行って酔っ払って倒れてしまった時、私は水を欲しがった気がする。そして・・・何か柔らかいものが押し当てられ・・水が口の中にながしこまれ・・・っ!
「そ、そうだったんだ・・・。あ、あれは・・・キスでは無く口移しでフレッドはお水を飲ませてくれたのか・・・。」
となると・・・。
お水を欲しがり、苦しんでいるアベルをチラリと私は見た。
・・・アベルは一応、寝ている。そして・・・今他のナイト達は食事中。
仕方ない・・。
「アベル様。今お水あげますね。」
私は水を口に含むとアベルの前にしゃがみ、口移しで水を飲ませた。
ゴクンゴクンとアベルは飲み込む。
よし!飲んだ!
「もっと・・・水・・・。」
仕方ない・・・。再度私は水を口に含み、口移しで飲ませているときに・・・
パチッ
え・・・?
突然アベルが目を開けたのだ。
唇を合わせた状態で私とアベルの視線が合ってしまった!
見る見るうちにアベルの顔が真っ赤に染まっていく・・・
ま、まずい!
慌ててサッと身を引き、私は頭を必死に下げた。
「す、すみませんすみません!アベル様がお水を欲しがっていたので・・・つい・・・!」
アベルは顔を真っ赤にしながらベッドから起き上がり・・・
「うわあああああっ?!」
悲鳴を上げた―。
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