第25日目 恐怖の時計台調査 ④(残り時間57日)

 深夜0時-

下弦の月が黒雲に見え隠れしている。

ホーッ・・・ホーッ・・・・。

しんと静まり返ったフクロウが不気味に鳴いている。

闇夜に紛れて蠢く3つの陰・・・。


「ベソ、ノッポ。ウィルス駆除の装置はちゃんと動くんでしょうね?」


背中に小型タンクを背負った二人に尋ねる。


「だ、大丈夫ですよ・・・。ちゃ、ちゃんと・・・動作確認・・してますから・・・。」


ベソが震え声で答える。


「ええ・・・。大船に乗った・・き、気でいて下さい・・・。」


ノッポの声も震えている。大船に乗った気で・・・と言われても二人の震え声を聞かされると大船どころか、今から泥船に乗るような気持ちで不安でいっぱいだ。


「そ、それに・・いざとなれば・・・エリスさんの・・・必殺技・・『害虫駆除』が・・・さ、炸裂するんですよね・・・?」


前を歩いていたノッポが振り返りながら言う。


「ああ、それね、実はネーミング変えたんだ。今は『害虫駆除』じゃなくて『ウィルス駆除』になったからね。というか・・・ちょっと!私、それについて抗議したいことがあるんですけどっ!」


「ええ~またですかあ~。一体今度は何でしょうか?」


ベソがうんざりしたように言う。


「あのねえ、この間その杖を出した時・・・今までは木で作られた単純な杖だったのに・・・この間暴れ牛の制圧を命じられた時に・・出てきた杖が・・・杖がああッ!」


「う、うわっ!お、落ち着いてくださいよっ!エリスさんっ!」


気付けば興奮のあまり、私はベソの首を締めあげていた。


「あ・・・ご、ごめんなさい・・・。まあ・・・・言葉よりも実際・・・目で見てもらった方が良いかも・・・ね?」


「「は、はあ・・・。」」


ベソとノッポが同時に返事をするのだった・・・。




うっそうと茂った茂みの中に、その時計台は佇んでいた-。


「こ、これが・・・う、噂の幽霊時計台・・・ですね・・?」


ベソが半分鳴き声で身体を小刻みに震わせながら時計台を見上げた。


「ちょっと!幽霊時計台なんて言った事ないけど・・・ねえ!この時計台ってひょっとして幽霊が出るの?ねえ出てきちゃうのっ?!」


私も幽霊が大嫌いなので、ノッポの襟首を掴んで揺さぶりながら質問する。


「お、落ち着いてくださいよっ!わ・・・我々のシステムプログラムでは幽霊なんて組んでいませんからっ!だ、だから・・・幽霊は多分出てきませんよ・・・。一応この世界は女性向け乙女ゲームの世界なんですから・・・・。多分ですけど・・・。」


ノッポのあまりにも頼りない言葉に、一瞬言葉を無くしてしまうが・・・こんなところで油を売っていても仕方が無い。


「そ・・・それじゃ、じゃんけんよ!」


私はグーを握りながら二人に言った。


「はい?じゃんけん?」


「何故じゃんけんなんですか?」


ノッポとベソが交互に尋ねる。


「そ、そんなの決まってるでしょう?誰がこの時計台のドアをあ、開けて・・・中へ入るかじゃんけんで決めるのよっ!」


「わ・・分かりました。」


覚悟を決めたのか、ノッポが頷く。


「うう・・・嫌だ嫌だ嫌だ・・・。負けてしまったらどうしよう・・・。」


ベソはガタガタ震えている。


「そ、それじゃあ・・・い、いくよ・・・。」



「「「じゃんけんぽんっ!!」」」


 

「まさか・・・俺が・・・負けてしまうなんて・・・。」


ベソが足を震わせながらドアの前に立っている。そしてその後に続くのが私、ノッポと続いている。


「往生際が悪いわよ、ベソ。男なら一度決めたことはきちっとやり遂げないとね。」


ベソの背中に隠れるように私は言う。


「何言ってるんですか?じゃんけんで誰がこのドアを開けるか決めたのはエリスさんじゃないですかあっ!俺はこんな事納得していませんからね?!」


ベソはやけくそのように叫ぶが、渋々ドアに手を掛けた。よし!行けっ!ベソッ!


ギイイイイ~・・・・・。


背筋が凍りそうな何ともいえない不気味な音を立てて時計台のドアが開く。


「ヒイイッ!」


ベソが情けない悲鳴を上げる。時計台の内部はほとんど真っ暗で窓から差し込む月明りは何とも心もとないものだった。


「ねえ、は・早く明かりを付けてよ!」


中へ足を踏み入れた私はベソとノッポに言う。


「ええ?何言ってるんですか?そんなもの用意していないですよ?」


ノッポが言う。


「エリスさんが用意してくれるんじゃなかったんですか?」


ベソはガタガタ震えながら私を見た。


「へ・・・?私が用意しないといけなかったの?」

そんな事言われてもこっちは何も用意なんかしてきてない。


「仕方ないですね。エリスさん。ポイントを使って明かりを手に入れてくださいよ。」


ノッポが当然のように言ってきた。


「そ、そうですよっ!は、早く明かりをつけて下さいよっ!お願いしますっ!」


ベソが半べそを書きながら訴えてきた。う~・・・人の大切なポイントを・・・!

しかし・・・背には腹は代えられない。

やむを得ず、液晶パネルを操作する。


「え~と・・・明かり・・明かり・・・・。」


すると背後から液晶パネルをのぞき込んでいたベソが言った。


「あ、エリスさん。これなんかいいんじゃないですか?ほら、このヘッドライとは何と電球が3つもついていてLED仕様になっていますよ?これを3つ交換しましょうよ!」


ベソが指さしたヘッドライトを見て思わず目を見張ってしまった。


「ふ・・・ふざけないでよっ!アイテム1個につき2000ポイントも必要じゃないの!冗談じゃないわっ!これで十分よっ!これを頼むわっ!」


そしてぽちっと注文したのは・・・。




「エリスさん・・。これではあまりに暗すぎですよ・・・。」


「本当ですよ。これじゃ数m先も見えないじゃないですか・・・。」


ノッポとベソがぶつぶつ文句を言ってる。


「い、いいじゃないのよ!と、とりあえず・・・足元は明るいんだからさっ。」


しかし、口ではそう言いながらも内心私は激しく後悔していた。確かにこれではあまりに暗すぎる・・・。こんなことならケチらずにもうワンランク上のランタンを頼めば良かったかな・・・・?


3人でぴったりくっつきながらギシギシなる床に怯えながら螺旋階段を目指していると・・・ガシャーンッ!

突然時計台の窓が激しく割れた。


「「ウワアアアアアッ!」」

「キャアアアアッ!」

3人で悲鳴を上げる。


そして割れた窓から無数の蝙蝠が中へ飛び込んできた。


「ウギャアアアアアッ!コ、コウモリッ!!血、血を吸われるうっ!!」


ベソは完全にパニックを起こして泣き叫ぶ。


「お、落ち着けっ!ベソッ!」


おお!ノッポがベソと呼んでいる。ついに彼らの中でも互いの名前が浸透していたようだ。

そして不思議な事に私は2人が叫べば叫ぶほど、冷静になっていく自分に気が付く。

そう・・・今こそ私の出番っ!


私は目をつぶると叫んだ。


「ウィルス駆除っ!」


すると私の右手に魔女っ子の杖?が現れ、そしてメイド服が変化する!

・・・って・・・えええっ?!これってまさか私・・変身してるっ?!

黒いメイド服のロングワンピースは膝丈に変化し、それと同時にエプロンも短く、フリルの量が倍増されたエプロンへと変化する。

脚は真っ黒なロングブーツを履き、耳には星の形のイヤリングに、髪にはカチューシャが装着?される。


私は杖をコウモリの群れに向けると叫んだ。


「神の裁きッ!!」


すると杖から激しい稲妻が発射?され・・・次から次へとコウモリに命中していく。

いやはや、その威力の激しい事・・・・・


ベソとノッポはギャアギャア叫ぶそばで1匹、また1匹と黒こげになって床に落ちてゆくコウモリたち・・・。


やがてすべてのコウモリを撃ち落とした私は呟いた。


「おとといきやがれ。」


と―。



その後、私たちは螺旋階段をのぼりつめて、最上階まで登ったけれどもその後は一切怪しいものは現れず・・・・任務完了!でいいのかな・・・?




「ベソ。ノッポ。今夜は付き合ってくれてありがとう。」


宿舎まで送ってくれた二人に礼を言った。


「はあ・・・・でも結局何の役にも立ちませんでしたけどね・・・。」


ノッポがうつむいて言う。


「俺なんか・・・腰が抜けて歩けなくなってしまったし・・・。」


ベソが申し訳なさそうに頭をかいた。


「何言ってるの。十分役立ってくれたじゃない。私1人じゃ怖くて中に入れなかったもの。だから・・・これからもよろしくね。


「ええ~ッ!!」


「勘弁して下さいよぉ~っ!!」


ベソとノッポの叫び声が夜中の学園に響き渡った―。



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