第24日目 史上最悪のピンチ ①

『お早うございます。24日目の朝が始まりました。<オリビア>によって『白銀のナイト』の1名の好感度を下げられてしまいました。ウィルス<オリビア>から彼の好感度を奪い返して下さい。コンピューターウィルスが出現しています。今後地図情報を毎日更新しますので、駆除して下さい。

本日のウィルス発生場所は学園が管理している牧場です。お仕事メニューに『暴れ牛の制圧』が加わりました。この牛にウィルスが取りついています。駆除をお願いします。それでは本日も頑張って下さい。』



 いつもとは違う、フカフカのベッド、いつもとは違う広い天井。そして・・いつものように浮かび上がっている液晶画面・・・・。


「・・・・。」


今、私は朝っぱらからショックのあまり絶句している。

な・・・何なの・・・?<オリビア>によって、攻略キャラの好感度が下げられたって・・・。誰?一体誰の事なのだ・・?相手は誰だ?どの位変化したのだろう?マイナス50?それともマイナス100?しかも好感度を奪い返せって・・・それはいわゆる『ミッション』の事で、今日中に奪い返せと言ってるのだろうか・・・?


「無・・・無理言わないでよーっ!!」


ついに我慢しきれず、ベッドの中で絶叫してしまった。メイドの仕事だってあるのに、業務中に好感度を下げられた攻略キャラに接近して好感度を奪い返せと言うのか?しかも今日は只でさえ、牧場に行ってウィルスを駆除しなくてはならないと言うのに・・・・。

非常に重たい気分でベッドから起き上がると言った。


「せめて、お給料位・・・上げて貰おう。あ、そうだ・・・。今、自分のポイントは幾つ溜まってるのかな?」


腕時計をピッピッと操作して自分のステータスを表示させてみる。

「え・・と・・・今の私のポイントは・・・え?嘘っ!3万ポイントもたまってる!い、いつの間に・・・?それともノッポのお陰かな?そ、そうだ!ついでにこの操作パネルで攻略キャラのステータスを表示させれば・・!」

しかし、いざ操作しようとしても『error』の文字が表示されてしまう。

ま、まさか・・・!

「攻略キャラのステータスがブロックされている・・・?!」


まずいまずいまずい!

今私は非常に大ピンチに晒されている。攻略キャラの好感度が表示されないとなると、誰の好感度が下がっているのか確認のしようが無い。唯一、確認できる手段と言えば・・・・。


「全員に会って・・・・一番塩対応をしてくる相手を探し出すしかない・・?」

だけど少々好感度が減ったぐらいでは相手の態度に変化は見られないだろう。これがよほど・・例えばマイナス100位とか減らない限りは・・分かるはずも無い・・・。


「ど、どうすればいいのよ!」

グシャグシャと髪を掻きむしり・・・。


「仕事行こ。」

そうだ、身体を動かしていれば何か良いアイディアが浮かぶかもしれないし・・・。

うん、ウジウジ悩むのは私らしくない。何事も前向きで行かないと!



「おはようございます!ガルシアさん!厨房のお手伝いにやってきました!」


ビシッと敬礼をしてガルシアに朝の挨拶をする。


「お、おうっ・・お。おはよう。しかし・・・一体何だ?今朝のエリスはいつも以上に気合が入っているな?」


ガルシアが厨房の奥から顔を出すと言った。


「はい、今朝はいつも以上に気合十分でやってまいりました!それで今日は何をお手伝いすればいいですか?」


「ああ。それじゃ今朝は学園のハーブ園に行ってハーブを摘んで来てくれるか?ほら、これと同じハーブだ。」


そう言ってガルシアが持って来たのは3種類のハーブであった。


「いいか、それぞれの袋一杯に摘んで来てくれよ?摘んでくるのは「ローズマリー」に「パセリ」「バジル」だ。これが植物の見本になるからな?間違えないで摘んで来てくれよ?ハーブ園はこの建物を出た真正面にあるからな。看板が立ててあるから分かるはずだ。後でアンを手伝いに行かせるか?」


「いえ、多分1人でも大丈夫ですよ。一昨日はアンにお世話になったので、少し休ませてあげてください。それじゃ行ってきますね!」


ガルシアに手を振ると、元気よくハーブ園へ向かった。


ハーブ園は良い香りで満たされていた。空気ごとハーブの香りを思い切り鼻で吸い込んでみる。

す~っ・・・。


「う~ん!なんて素敵な香り!何だか元気が出てきた気がするな。さてと、早速摘んで行こうかな?」


ガルシアから受け取ったハーブを頼りに同じ種類のハーブを鼻歌を歌いながら摘み取っていると、ふと異変に気が付いた。

何やら風に乗って男女の話声が聞こえて来るでは無いか。


「うん?こんな朝早くから・・誰か私以外にもハーブ園に来てるのかな?」


ヒョイと立ち上がって、キョロキョロ辺りを見渡し・・・・私は度肝を抜いた。

何とハーブ園にエディとオリビアの姿があったのだ。

咄嗟にしゃがみ、姿を隠す私。・・・幸い2人には気付かれなかったが・・・・。

一体、こんな朝早くから2人は何をしにこのハーブ園にやってきたのか・・・?

好奇心旺盛?な私はオリビアとエディの様子が気になって、仕事の手が止まってしまった。

よ、よし・・・少しだけ・・・ほんの少しだけなら近付いて行っても構わないよね・・・?な、何。もし仮にバレたとしても、私は仕事でハーブを摘みに来ていましたと言って胡麻化せばいい。と言うか、事実なんだけどね・・・・・。

それでは、行ってみよう。


音を立てないように、身をかがめながらソロリソロリと2人の間の距離を近づける私。

よ、よし・・・。この位近付けば声が聞こえるだろう・・・。

グッドポジションの位置におさまると身を縮こませ、咲き乱れるハーブの隙間から顔を覗かせる。

うん、姿もばっちり見える。さてさて・・・2人はどんな会話をしているのかな・・・?



「ほ・・・本当にいいのか・・?こんな幻のハーブとも呼ばれる希少なハーブの種を貰っても・・?」


「ええ、エディ様。こんな事位・・・・私の手にかかればお安い御用ですわ。それに・・エディ様が望まれるのであれば私ならどんなものでも手に入れる事が出来ますよ?」


「オリビア・・・・。あ、ありがとう・・・。」


エディが嬉しそうに少しだけ頬を染めてオリビアを見つめている。そんなオリビアもじっとエディを見つめ・・・って・・ひょっとして・・・オリビアが好感度を下げた相手って・・・エディだったのだろうか?そう言えばアンディと一緒に温泉へ行った時もオリビアと一緒にいたのはエディだった・・。


だけど・・・好感度が分からないから本当に相手がエディなのかどうか定かでは無い。

う~も、もどかしい・・。もっとあの2人が接近してくれれば分かるのだけど・・。

すると、私の願い?が通じたのか、徐々に見つめ合っている2人の距離が近付いて行き・・おおっ?!ついにキスでもするのか?!

野次馬根性で覗き見をしていたその矢先・・・。


ざわざわと人の話し声が聞こえてきた。はは~ん・・・・どうやらエディの所属する

『ハーブ研究所』の学生達がこのハーブ園にやって来たらしいな・・?


慌ててパッと離れる2人。

チッ!惜しい!もう少しで2人がキスするシーンを目撃する事が出来たのに・・・。

ってあれ・・そうなるとヤバイ立場に追い込まれるのはこの私じゃないの。

オリビアはペコリと挨拶するとエディの元から小走りに走り去って行く。

そしてその後ろ姿をじっと見送るエディ

・・うん、間違いない。恐らくオリビアの狙った相手はエディだ。

そして・・・好感度を私から奪ったに違いない。

おまけに騒ぎ声はいつの間に遠く離れて行ってしまった。なんだ、ここに用事があったわけじゃ無かったのか・・・。・


 それにしても・・・すごい偶然だ。

私が今朝、ここのハーブ園に来ていたお陰で好感度の下がった相手が誰なのか知る事が出来たなんて。

やはりゲームの神様?は私を見捨ててはいなかったようだ。


しかし・・・1つ課題が出来た。

それは・・・どうすればオリビアからエディの好感度を奪う?事が出来るのか?


「う~ん・・・・。困った・・・・。」


あまりに頭を悩ませていた為、私は背後からエディが近付いてきている事に気が付いていなかった。



「・・ット・・・。おい、ベネット。」


不意に真上から名前を呼ばれて、上を見上げた私は思わず悲鳴を上げそうになった。

何とエディが私を見下ろして立っているでは無いか。


「お・お・おはようございます、マクレガー様。」


「ああ・・・。お早う。ところで・・ベネット。お前・・・こんな所で何をしていたんだ?」


エディが腕組みをしながらじろりと私を見た。その態度・・・そして名前の呼び方がエリスからベネットへ変化・・・うん、間違いない!オリビアが狙った相手はエディだ!こんなにも早く相手が分かるなんて、私って何てラッキー!

思わず笑顔になってしまった。



「な、なんだ?突然笑顔になるなんて・・・?え・・・?」


突然エディが表情を変えると、私の両肩をガシイッと掴んできた。

ヒイッ!い、一体何?!


「ベ、ベネット・・・・お、お前・・・い・一体何を身体につけて・・・・。」


「???」

え?何?一体エディは何を言ってるのだろうか?さっぱり訳が分からない。

そして私の足元に生えているハーブをエディは見下ろしている。


「ま・・・まさか・・・ダ・ダミアナ・・・ッ!」


え?ダミアナ?このハーブの事かな?私も何気に視線を下に落とし・・突然視界が薄暗くなった。

え?何だろう?

不思議に思って顔を上げると、眼前にエディの顔があった。


「マ・マクレガー様・・?」

何だろう?色々・・・ヤバイ気がしてきた。すると突然エディが私の頬に両手を添えると言った。


「エリス・・・今日も一段と可愛らしいな・・・・。」


妙に色気のある顔で囁いて来た。な・・何?突然・・?!

エディの突然の豹変ぶりに頭が追い付かない。そうこうしている内に徐々にエディの顔が迫って来る。


そして気付けば私はエディにキスをされていた―。




























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