第20日目 休暇日なので明日の朝まで学園には戻りません① 

 朝・・・最悪な気分で私は目が覚めた。何故かと言うと、ぱちりと目を覚ました時に目の前に液晶画面が表示されていたのだが、最後の文面に


『攻略対象2名が後少しでマックス値を迎えそうです。ご注意下さい・・・・。』


まるで死刑宣告のような文章が浮かんでいたのだから。



「全く折角のお休みの日なのに朝っぱらから不愉快なメッセージだわ・・・。」


嫌な気分で起き上がり、大きく伸びをする。そしてカーテンをシャッと開けると今朝も清々しいお天気だ。


あれ?そういえば・・確かこのゲームって攻略対象者の好感度が上がれば・・お休みの日にデートに誘われるイベントがあったよね?


「ハハハ・・・・。まさか・・ご注意下さいって・・・そういう意味なんじゃ・・?」


そしてチラリと時計を見る。時刻はまだ朝の6時半だ。

確かゲーム中で攻略対象者がデートの誘いに来ていたのは9時から10時頃・・・。

よ、よし・・・。この学園から逃げるには・・・まだまだ十分に時間があるっ!


「い、急いで準備をして・・・一刻も早くここから逃げなくちゃっ!」


だけど、逃げると言って何処に行けばいいのだろう・・・?

そこでふと私はある場所を思い出した。そうだ!今日も1日スーパー銭湯にこもっていればいいんだ!

あそこは24時間オープンしているし、なにより休憩スペースがあって、ゴロゴロ出来る。


「よし・・・今すぐ出発だっ!」


そしていつものようにクローゼットをバタンとあけて、本日着る服に手を伸ばす・・・・。


 今日の私の服のコンセプトは・・・ずばりチャイナドレス!チャイナドレスと言えばイメージとしては身体のラインがくっきり出てしまうようなぴったりとしたドレスに、きわどいスリットの入ったワンピース・・・なんてイメージがあるかもしれないけれど、私が着ているのは生地こそチャイナドレスのような赤い色のサテン系ではあるけれども、フレアーワンピースになっている。胸元のボタンはチャイナボタンでワンピースのスカート部分には大きな牡丹の花が白い糸で刺繍されているのだ。


「うん。今日のエリスは・・・少し妖艶な大人のイメージだね。しかし・・・我ながら何着ても似合ってるな~。うん、とっても可愛い!」


鏡の中の自分に話しかけて、にっこり微笑む私の姿は・・・傍から見たら、まるきりナルシストのように見えてしまうかもしれないが・・・・。見惚れるなって方が無理でしょう?だって本当にエリスはお人形のように可愛いんだからね~。


「あっ!こんな事してる場合じゃないっ!早くしないと・・・誰かがデートに誘いに来てしまうかもしれない!」


急いで、ボストンバックに着替えやら洗面道具などを詰め込み、日傘をさして・・・まずは「ベソ」と「ノッポ」の元を訪ねてみよう。彼等には色々聞きたい事が山ほどあるし・・・・。


ところが・・・


「え・・・?嘘でしょう?」

私は呆然としてしまった。え?どうして?昨日までは・・・あの2人は留守だったけれども、確かにここに管理事務局があったはずなのに・・。今では『資料室』等と部屋の名称迄変わっている。


「ま・・・まさか・・・に、逃げられた・・・?」


ガクッ!

思わず膝をつく私。あ・・・あいつ等・・・・私だけこの世界に置き去りにして自分達は安全な現実世界へ逃げたな~っ!!

思わず怒りが込み上げそうになるのを、ぐっと我慢。

こうなったら・・・絶対にこのゲームをクリアして・・・現実世界に戻った彼等に一言物申してやるっ!

決意を胸に新たに闘志を燃やすのだった。


「いつまでもここにいても仕方が無いし・・・『クロレンス』に行こうかな・・。」


はあ~と溜息をついた時・・・。

背後で聞き覚えのある声がした。


「変わった服を着ている女性がいると思ったら・・。やはり、ベネット。お前だったのか。」


え・・?も・もしや・・・・?

恐る恐る背後を振り替えると、そこにいたのはアンディ・スチュワート。そして今彼の頭上には好感度50を指し示すハートのゲージが浮かんでいた。


「え・・・?どうして・・・?」


思わず声に出して呟いてしまった。何故?何故何もしていないのに好感度が上がっている?この間まではゼロだったのに・・・。


「ベネット。どうかしたのか?」


アンディが近寄って来ると私の顔を覗き込んできた。


「い、いえっ!何でもありませんっ!」


「そうか?でもこんな所で会うなんて本当に偶然だな?」


アンディはじっと私を見つめながら言った。え・・?な、なんでそんなに私を見つめているのよ・・・。

その時、ピロリンと音が鳴り液晶画面が表示される。

ああ・・・やっぱりね。そろそろ来ると思っておりました。

しかし、次の瞬間私は危うく声を上げそうになってしまった。


『攻略対象であるメインヒーローが現れました。次の選択肢の中から彼の好感度を上げて下さい。ただし、選択肢によっては好感度が50下がります。』


1 こちらへは何をしに?

2 どうぞ私の事はエリスと呼んで下さい

3 オリビア様と一緒では無いのですか?

4 昨夜のパーティーは楽しめましたか?


え・・・?何。この選択肢・・・。1か4が一番無難な選択肢にも見えるけれども・・。3番は違う気がするなあ。となると・・・。

チラリとアンディの様子を伺ってみる。

じっと私を真剣な目で見つめるアンディ。そして、ここは『資料室』の前。

大体祝日なのに、資料室へわざわざ足を運ぶとは思えないしな・・・。

ひょっとすると・・・?よし、こうなったら一か八かだ・・・!


「どうぞ私の事はエリスと呼んで下さい。」

笑顔でアンディに言う。


「!」


するとアンディの顔に驚愕の表情が浮かんだ。しまったっ!選択肢を・・・間違えてしまったのか?!つ、ついに、無敗の女王が・・・やらかしてしまったのだろうか!

しかし・・・次の瞬間アンディは笑顔になると言った。


「本当か?エリス。・・いや。実は・・・仲間の半分はお前の事をエリスと呼んでいたから、俺もそう呼んでみたいと思っていたんだ。それではエリス。お前も俺の事をアンディと呼んでくれ。」


そして・・アンディの好感度は・・100になった!おお~ついにあのアンディの好感度が100に・・って100?!いくら何でも好感度が50も上がるなんて、絶対におかしいでしょう?!こんなに数値がアップするのはモブキャラだけだと思っていたけど・・。これは絶対にバグだ!バグに決まっている!コンピューターウィルスにこの世界が侵されていってるに決まっている。このままではゲームの世界に取り残されたままウィルスにやられてしまうもしれない!


「どうした?エリス。何だか・・・顔色が優れないようだが?」


アンディが私の顔を覗き込んでくる。


「い、いえ。大丈夫です。何でもありませんから。」

慌ててパッと視線を逸らすと、突然アンディは私のおでこに掌を置いた。


「う~ん・・・。熱は無いようだが・・・?」


「ほ、ほら。あれですよ!昨夜・・・野外パーティーのイベントで遅くまで片付けに時間がかかってしまって、少し疲れてしまっただけですから。」


慌ててアンディの手から逃れると私は言った。すると彼の表情が曇る。


「エリス・・・。もしかするとメイドの仕事がきついのか?」


「え?」


「あの時、俺達はオリビアからお前が今迄自分にしてきた仕打ちと・・・物的証拠を突き付けてきたので、お前から強引に爵位を奪うような形でメイドにさせてしまったが・・・。反省してるんだ。あの頃の俺達は・・・今にして思えば普通じゃ無かったんだと思う。何故オリビアの話ばかり鵜呑みにして、お前の話には耳を傾けなかったのかと・・・。」


「アンディ様?」


「だが、最近のお前を見ていて気が付いたんだ・・・エリス。お前はメイドの仕事を一生懸命に頑張っているし、明るく前向きだ。多分お前はオリビアにはめられたんだろうな?勿論それに騙された俺達も悪かったと今では反省している。そして本当の姿を知ったからこそ・・・フレッドやアベルが・・・・・お前の事を好きになったんだろうな・・・?」


「はい?」

え・・?今、何て・・・?


「実は・・・昨夜、寮に戻った後、フレッドとアベルが口論になったんだ。」


「え?何故口論になったのですか?」

何だろう?何か・・・嫌な予感がしてきた。


「勝手にエリスに手を出すなって・・・。危うく喧嘩になりかけた所を俺が2人を止めたんだよ。」


「はあ・・・。」


「それで、2人が明日どちらが自分達の誘いにエリスが乗るか勝負しようと言い出したんだ。俺は・・・・嫌な予感がしたから先にお前に話して置こうかと思って、丁度探していた所だったんだ。良かったよ、あの2人より先にお前に会えて。」


そ、そうか・・。やはり昨夜のメッセージはこの事を言っていたんだ・・!


「アンディ様っ!教えていただき、どうもありがとうございました!」

ギュッとアンディの右手を両手で握り締めると言った。


「あ、ああ・・・?」


「それではこの辺で・・失礼しますねっ!」


荷物を持って慌てて立ち去ろうとする所をアンディに呼び止められた。


「お、おい!エリス!何処へ行くつもりだ?!」


「私は・・・今日1日旅に出ますっ!明日も休みなので・・・朝まで学園には戻りませんっ!」


そして、ペコリと頭を下げて背を向けて歩き出した時・・・・。

アンディにグイッと右腕を引かれた。


「え?アンディ様?」


驚いて振り向くと、至近距離にアンディが立っていた。


「待て。エリス。俺も・・・お前に付き合うよ。」


そしてアンディは笑みを浮かべた・・・。











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