第12日目 好感度、少し下げさせて頂きます―後編

「俺が頼んだんだよっ!」


勢いよく扉がガラリと開かれ、そこに姿を現したのはなんとアベル・ジョナサンだった。

え?何?一体どういう事なの?訳が分からず目をぱちぱちさせていると、アベルはズカズカと生徒会室の中に入り、私とエリオットの間に入り込むと机をバンッ!!と叩いた。

私はチラリとアベルの好感度をさり気なくチェックする。・・・好感度は・・60のままか。ここ数日学園で会ってもいなかったから好感度が下がってると思っていたが・・・どうやら顔を合わす、合わせないではこのゲームでは好感度に影響されないことがこれで実証されたかな?


「何だ、アベル・・・。お前が・・・この女に男子トイレの掃除を命じたのか?」


エリオットが椅子に座ったままアベルを見上げながら言った。


「その命じた・・・・って言い方が気に入らないな・・・・。ああ、そうだよ、俺がエリスに頼んだんだよ。男子トイレの掃除をしてくれってな。何せ・・・エリスは掃除がすごく上手なんだ。この間は俺の部屋の掃除をお願いした位だからな。」


「エリス・・・?お前・・・ベネットの事をそう呼んでるのか?おまけに命令では無く頼んだとかお願いしたとか・・・随分この女に減り下ってるんだな?いいか、この女はもう伯爵令嬢では無い。俺達が身分を剥奪して・・・行き場を無くしたベネットにメイドとして働けるように配慮してやったのだろう?もう少し、このメイドには自分の立場を分からせるべきだと思うが?」


言いながらエリオットはジロリとアベルを睨み付ける。

とうとう私の呼び方が「ベネット」から「メイド」に格下げされてしまった。

ううう・・!や、やはりエリオットは・・。このゲーム中のキャラで一番の塩対応だ!鬼キャラだっ!オリビアもこのエリオットを陥落させるのには苦労してたしな・・。ましてや私は悪役令嬢のエリスだ。このエリオットとは・・・一生かかっても好感度をマックスに出来る自信が全く無かった。


「煩い・・・。お前・・そこまでオリビアに肩入れしてるのか?・・・初めはあんなに軽蔑してたのに?・・俺うは正直驚いたよ・・・。あの時お前が婚約者を捨ててオリビアを選んだ時には・・・。オリビアを選んだ決め手は何だったんだ?俺は後悔してるよ。オリビアの話ばかり鵜呑みにして・・・もっとエリスの・・言い分も聞いておけば良かったって反省してる。」


 アベルは真剣な表情でエリオットを見つめている。・・・どうやらアベルは私をエリオットの追求から・・庇おうとしてくれているようだ。でも何故?好感度はまだ60しかないのに・・・。でも・・・よし!頑張れ、アベルッ!負けるなアベルッ!

私は心の中でアベルを応援する事にした。


「・・・何が言いたいんだ、アベル。」


エリオットは何やら不機嫌モードに入って来た。ひょっとすると・・・・元婚約者の話を出されて気分を害してしまったのかも??


「真実はな・・・自分で確認しないと見えてこないって事を言いたかったんだよ。お前の元婚約者のサラ・・・。オリビアにお前と別れるように脅迫されてたらしいぜ。この間・・サラの友人から聞かされたよ。」


「馬・・・馬鹿な事を言うなっ!オリビアにむしろ嫌がらせをしていたのはサラだったと彼女から聞いてるぞ。」


エリオットは椅子から立ち上がり・・・わざと背の低いアベルを小馬鹿にするように上から見下ろしてきた。

・・・ムカッ!・・・何て嫌みな男なのだ・・・。うん、やはりエリオットの好感度は・・・上げる気にもなれない。・・エリオットだけスルーしても大丈夫かなあ・・?


「・・・・。」


そんなエリオットを負けじとアベルは下から見上げる。


「・・・。」

アベル・・中々見所ある男性かもしれない・・・。やがてアベルはエリオットから視線を逸らすと言った。


「真実は・・・自分の目で確かめなくちゃ分からないって事を言いたかったんだよ。エリオット・・・。後で男子トイレ見てくる事だな。本当にエリスの掃除の腕は・・最高だって事が分かるからな。取りあえずエリスは悪くない。だから連れていくぞ。」


そう言うと、アベルは私の左手を掴むとさっさと生徒会室から連れ出したのだった・・。



「助けて頂いてありがとうございました。アベル様。」


生徒会室を後にして、校舎の外へ出たところで私はアベルに声を掛けた。


「・・・・。」


アベルは繋いでいた手を離すと、私の方を振り返る。


「エリス・・・おまえなあ・・・ どういうつもりだったんだよ。本当に痴漢しようとしていた訳じゃ無いんだろうな?」


アベルは前髪をかきあげ、ため息をついた。


「当たり前じゃないんですか。私には男子トイレを覗き見するような趣味はありません。所で・・・何故私が男子トイレに居た事で痴漢呼ばわりされて、生徒会室へ連れていかれた事・・・ご存知だったのですか?」


「う・・・・。」


すると何故か途端に顔を赤く染めるアベル。


「?どうしたのですか?」


「い、いや・・・。2日前・・・毎月恒例の害虫駆除作業が行われたって事を昨日耳にしたんだよ。・・それでその駆除作業を行ったのがエリス、お前だって聞かされて・・。だから驚いて・・試験の終わったた後にお前の様子を伺いに行ったら今日は特別休暇を与えたって・・お前達のリーダーが教えてくれたんだ。」


「ええ。そうです。昨日私はお仕事休み頂いたんですよ。」


「それで、今日掃除に来たお前の様子を確認しようと思っていたら、女子トイレの掃除を始めたもんだから、一度教室に戻ったんだ。そして少し時間を空けてから見に行くと・・お前が男子トイレの掃除をしていたのを見つけて、慌てて連れ出そうとしたら、痴漢呼ばわりしたあの2人の学生がお前を先に見つけて・・それで・・エリオットに尋問を受けていたんだろう?」


「まあ尋問て程の尋問では無かったですけどね。でも・・・危ない所を助けて頂いて有難うございます。」


ペコリとアベルに頭を下げる。


「べ、別にそこまで大した事はしてないけどな。しかし・・やっぱり実際に目にしてみないと見えてこない物って沢山あるよな。俺は・・オリビアのせいでお前の事すっかり誤解していたし・・・。」


アベルは申し訳なさそうな顔で私を見る。


「ああ、その事なら全然いいんですよ。アベル様は悪くないですから。」


私は手を振って否定した。そう、アベルはちっとも悪くない。悪いのは・・・全てこのゲームシステムのせいなのだっ!


「そ、そうか?俺の事・・恨んでいないって事で・・いいんだな?」


明るい笑顔で尋ねて来るアベル。


「はい、勿論です、それではアベル様。掃除の続きがあるのでこれで失礼しますね。」


お辞儀をして、掃除用具を手に立ち去ろうとしたところで・・・。


「ちょっと待て!エリスッ!」


背後から右腕をムンズと掴まれ、引き戻されて気付けば私は壁に背中を押し付けられる様にアベルに壁ドンされていた。アベルの顔は・・何故か怒っているように見える。


「あ、あの・・・まだ何か・・・?」

え?え?え?さっきまで笑顔だったのに・・・今度は何故怒っているのよっ?!


そこへ・・・ピロリンと音が鳴る。

あ・・・まただ。また選択肢が出て来るのね・・・いいわよ、受けて立とうじゃ無いの!幸い?アベルの好感度はまだ60。

彼は元々攻略キャラだからいきなり、元・モブキャラのように好感度が急激に高くなる恐れは無いだろう。


『攻略対象者が何やら怒っています。彼のご機嫌を取りましょう。』


そしてアベルが口を開いた。


「今の俺・・・お前から見てどう見える?」


え?何?いきなりの質問スタイル?アベルは・・・何を言いたいのだろう?



1 突然どうしたのですか?

2 今日も素敵に見えますよ

3 ・・・怒っているように見えまが。


う~ん・・・ここは素直に3を選択だ。


「・・怒っているように見えます・・・が・・?」


「・・・やっぱりお前にも・・・そう見えるのか・・。」


アベルが溜息をつきを付き・・・好感度が65になったっ!な、何故?!


「あの・・・さ、お前達のリーダーを名乗ってるトビーって男の事・・・お前どう思ってる?」


おおっ!まさか続けて2連発の質問がっ!


1 ウフフ・・・秘密です

2 私の事好きらしいですよ

3 変わった人です

4 ただの仕事仲間です


うん、1は論外だな。よし・・・ちょっと変わり種で・・・3を選んでみよう


「変わった人ですよ。」


「な、なにがどう変わっているんだっ?!」


アベルが距離を詰めてくる。あ、しまった・・・こんな選択肢選ばなければ良かった・・・。

何て答えよう・・・。その時、何故か私の目にダンが飛び込んできた。え?何故いるの?

壁際に追いつめられて壁ドンされてる私は・・ダンからはどんな風に見えてるのだろう?


「おい、エリス!答えてくれっ!」


しかしダンには気付かないアベルは返事をしない私に業を煮やしたのか。ますます距離が近くなる。


「あ、あの・・・距離が近いんですけど・・・。」


するとアベルはその事に気が付いたのか、途端に顔を真っ赤にし・・・再び好感度が上がり、70になった!な・謎だ・・・?


「あ・・わ、悪かった・・・。つ、つい頭に血が上って・・・。そ、それじゃ・・・またな、エリス。」


アベルはそう言うと・・何故かダッシュで走り去って行く


そして一方のダンは・・何やら誤解を招いたのか、私に背を向けて歩いていた。そして・・・頭に浮かんでいる好感度は・・・110に下がっていた。


「白銀のナイト」の好感度を上げる事が成功し・・・モブキャラの好感度は下げる事にしたけれども・・・何か釈然としない。


だけど、ダンに誤解を解くわけにもいかない。そんな事をすれば、又好感度が上がってしまうかもしれないからだ。



「まあ・・・いいか。さてと、残りの仕事も頑張らなくちゃ。」


そしてこの日も私はメイドの仕事を馬車馬のように働いてこなし・・・。

ついにメイドのレベルが20に達していた!




「ふう~・・・。今日もよく働いたわ。」


共同シャワールームでシャワーを浴びて部屋に戻ると首や肩をコキコキと回す。

・・・それにしても今日は精神的に疲れた・・・。

したがって・・・まだ消灯時間前だけど・・今夜の私は寝る事にしますっ!


テーブルランプを吹き消すと、ベッドに入る。


「おやすみなさいぁい。」


そして私は眠りに就いたー。




一方日付が変わる頃・・・新たなメッセージが表示される。



『お疲れさまでした。第12日目が無事終了致しました。おめでとうございます!

メイドレベルが20に達成致しました。よって明日からメイドのお仕事に<ダンジョン探索>が追加されます。手にいれたスキルを使い、効率良くダンジョンを攻略して下さい。尚、ダンジョンは危険が一杯ですので命を守る事を最優先に行動して下さい。健闘をお祈り致します―。』














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