第2話:CONSPIRACY THEORY(この街は仕組まれている! 何者かによって!)

PART-A

Q1.街の外には何がある?


 A.何もない。レフトフィールドの外郭から先は荒廃した世界が、廃墟と砂漠が広がっている


Q2.それを見た者はいる?


 A.さあな。俺が知った事じゃない。誰もそんな事には興味ないし、知ろうとも思わないだろう


Q3.それは何故?


 A.レフトフィールドはそういう街だ。全てがこの街の内側で完結する、理想的な未来都市だぜ? 寧ろ、どうして街の外に注意を向ける必要があるのか聞きたいね


Q4.ところで、これは何問目?


 A.4問目。ていうか、お前はだれ?


Q5.この世界の真実について知りたくはないですか?


 A.……お前、一体だれなんだよ?


お疲れ様です。ありがとうございました。


「お、おい!――」



***



 パイドラの襲撃から一週間が経過した。俺は今――、


「さて。ヴィンセント・マッコイ――27歳、質問を続けようか。どうして君はあの日、パイドラでカイジュウの襲撃があったあの時。

 当局が行方を追っていた、ショーン・ハントと会っていたんだ?」


 アフター・サーヴィスの局員、名前は確かアーヴィングとか言ったな。

 街には監視カメラが至る所に仕掛けられている。足が付くのも時間の問題だった。

 だが、任意の取り調べだと言っておきながら部屋の中に銃で武装した兵士を二人も連れ込んでやがる。さも俺をテロリストだと言わんばかりに……。


「ですから、さっきも答えた通りです。事件を追っていて、その調査でパイドラに行ったら――」

「確かにさっきも聞いたよ。それで君はタイトゥンアップ・タイムズの記者だったね。ショーンの失踪について追っていたとか。なるほどね……」


 アーヴィングは窓の外を見る。顔から上半身にかけて日の光りが照らし、綺麗に整えられた金色のオールバックが輝いた。

 ――眩しい。無駄にイケメンだな、こいつ。

 それからアーヴィングはこちらに向き直り、爽やかな顔で困った表情を作った。


「タイトゥンアップ・タイムズか……。その他のインディペンデント独立企業ならいくらでも探りを入れられるんだけど、がウチと同じ雷電ライディーンだからねぇ……。参ったな」


 ――雷電ライディーン

 この街でその名前を知らない奴はいない。

 中央執行政府・ファイアクラッカーよりも上位――いや、このレフトフィールドで頂点に君臨する存在こそ、レフトフィールドを建造した世界最大級のコングロマリット・雷電ライディーンだ。

 俺たちタイトゥンアップ・タイムズはその傘下にあり、政府機関であるアフター・サーヴィスも体裁を保つために「政府」という肩書を雷電ライディーンから与えられているに過ぎない。

 レフトフィールドにおいて雷電ライディーンなんだ。誰も逆らう事が出来ない、絶対的な神だ。


「仕方がない、これ以上何も出てこなさそうだし今日はここぐらいにしておこう。もしかしたらまた君を呼ぶかもしれない、が。タイトゥンアップには僕らから掛け合っておくよ。貴方達の部下に変な疑いをかけてごめんなさい、悪者じゃないみたいだから変な目で見ないでね――今のところは。ってね」

「ああ、はい。よろしく頼んます……」


 ちょっと頼りなさげだが信用できる人間かもしれない。そう思った。


 程なくして聴取が終わり、半休という形で午前を消化した。

 時刻は正午前、出社予定時間までは一時間弱の余裕がある。


「気晴らしに、ちょっと寄り道してから会社に行くか」


 ハーフヘルメットと防塵ゴーグルを付けて駐車場に停めたスクーターに乗り込んだ。

 現在地は中央特区・タンジェリンエリアだ。

 一般的な犯罪を働けばその管轄内で処理されるが、今回のような街を揺るがしかねない大事件――即ちカイジュウ関連は所轄を通さないのがアフター・サーヴィスのやり方だ。

 だから直々にタンジェリンエリアのアフター・サーヴィス本部に呼ばれ、アーヴィングのようなエリート連邦捜査官による事情聴取を受けた形になる。

 まぁ、タイトゥンアップも同じくタンジェリンエリアに居を構えている訳で、わざわざ11番ドーム・パイドラまで足を運ばなくてよかったと内心助かってはいる。


 だが、プラスだったのはそれだけだ。


 アーヴィングはああは言っていたものの、アフター・サーヴィスに目を付けられたことには変わりない。彼らから見れば、俺は既に立派なテロリストなんだろう。


【この世界の真実について知りたくはないですか?】


 俺は知りたいと思ってしまった。今となっては後悔している。

 だがこうなっては後戻りも出来ない。


 あの手紙の主は誰なのか。ショーン・ハントか?


『駄目だよママ、ものだ。誰かに渡しちゃいけないな』


 ――いや、違う。あの口ぶりは、ショーンもまた俺と同じようにから手紙が届いた事を意味している。


 じゃあ、残る可能性は……。


「少年探偵、遊馬太郎。あいつか」


 冷静に考えればあんなに怪しい存在はない。

「ありえない」ほどに馬鹿げた巨大ロボットを操り、光に姿を変えてテレポーテーションしたり、やりたい放題だ。

 にも関わらずアフター・サーヴィスは明らかにあいつを野放しにしている。ヘヴィーウェイトの所有者・ブリッジビルダーという存在は、それほどまでに謎に包まれているのだ。

 というか、どうしてまだ少年なの? マジでこれ如何に……。


「ッチ、タイミング逃したな」


 寸前のところで信号待ちに掴まり、思わず舌打ちが出た。考え事をしていた為かタイミングを逃してしまったらしい。

 ふと左に視線を流すと、そこには同じく信号待ちをする一台のバイクがあった。


「うわ、すげぇなこれ……」


 それは見た事もない形をした「イカした」バイクだった。

 アールデコ調と言うべきか、丸みを帯びた光沢のある黒い車体に愛嬌のある大きな一つ目のライト。車高は極めて低く、ライダーの目線の高さは俺の腰ぐらいの位置にある。

 茶色い革張りのシートに跨り、ハンドルを握るライダーは防塵ゴーグルだけ付けたノーヘルの――。


「あ、遊馬太郎ぉォオ?!」


 ――少年探偵、遊馬太郎だった。


「あれ? あなたはこの前の――シューベルトの足元にいたおっさんですね。どうも、また会いましたね」

 すっ呆けた小悪魔的な童顔が、笑っていない瞳で表情だけの笑顔を作った。「また会いましたね」じゃねぇよ……! てか誰がおっさんだ!!


「ど、どうしてお前がバイクなんかに乗ってるんだ? どう見たってまだ十二、三歳だろ? あとなんでノーヘル……」

「ああ、僕は人一倍頭が固いからヘルメットしなくても大丈夫なんです」

「いやそういう問題じゃないだろ!」

「政府公認の探偵なので特別捜査許可ライセンスを持ってますから。バイクの運転も許されています」

「それが本当ならますますこの街が嫌いになりそうだよ……」


 そうこうしている内に対向車線の信号の点滅が始まった。やがて青信号に変わる頃、遊馬太郎は「あ、そうだ」と呟き、


「勘違いしているようなので、ここで訂正させてもらいますね。僕の名前は遊馬太郎じゃなく、遊馬太郎です」

「―—え?」


 信号が青に変わる。「それじゃあ、またどこかで」


 そうしてあいつは道の先に消えて行った。

 俺は去って行くバイクのリアを見つめたまま言葉を奪われていた。

 だってあいつ――。


「もしかして、遊馬太郎じゃないの……?」



***



「あらら? もしや貴方はテロリストのヴィンセント・マッコイさん? さてはオフィスに爆弾でもセットしに来たの?」

「やめて下さい係長、マジでシャレになんないっすから。こう見えてメンタル大分きてるんすよ?」

「ふーん。そう。まぁ爆弾を仕掛けるならデボン課長の席にどうぞ。――さ、午後から働くわよ」

 茶化されたものの係長――ダコタは相変わらずの調子でホッとした。

 そうだ。俺は一介のサラリーマン、新聞記者に過ぎないのだ。少しばかり非現実的な体験をしたところで、その現実が変わる訳がない。

 俺の様な一般人にとっては、この何もないいつも通りの毎日こそが尊くも相応しい現実なのだ。


 ――……のだ。


「……着やがったな、手紙……!」


 定時退社して家に戻ってみると、俺の元にまた差出人不明の例の手紙が届いていた。

 パイドラでの一件があった後、パタリと途絶えていたが。

 一呼吸置いて、冷静に考えてみる。


「いや、まずは先にシャワー浴びて飯を食おう」


 それが賢明だ。

 部屋に着き、身の回りの事を済ませる。俺には俺のルーティンがあった。

 このボロアパートは家賃が低いだけで後は何の取り柄もない。入居者も少なく、お隣りは両方とも空き部屋だ。

 だからこそ逆転の発想というものはあるもので、夜にスピーカーから音楽を流そうともクレームの入る恐れがないのだ。

 勿論、だからと言ってゴリゴリのメタルなんかを流そうって訳じゃない。俺の趣味は――ジャズだ。


 ルーティン1。レコードラックの中からアルバムを選ぶ。


「マイルスのトランペットは夜に響く……。しっとりと、アダルトにな」


 ルーティン2。選んだらジャケットから取り出し、盤面をクリーナーで軽く拭いてからターンテーブルにセットする。


「弾けるようなノイズも醍醐味の一つだ」


 ――そして、テーブルに置いた手紙と向き合う。


「こっからが本番だ。鬼が出るか、蛇が出るか……!」


 心して封筒を開いた。中に入っていたものは……――。


「なんだこれ? アンケート用紙か?」


 それは一枚のアンケート用紙だった。

 Q1からQ5まで、それぞれ回答欄が設けられている。

 これに答えたところで何の意味があるのか……。疑問は積もったが一問づつ回答して行くことにした。



Q1.街の外には何がある?

Q2.それを見た者はいる?


 街の外? そういや、レフトフィールドの外には何があるんだっけ?

 外郭から先を自分の目で見た事なんかなかった。


Q3.それは何故?


 何故って、いきなり聞かれても……。機会がなかったからとしか。


Q4.ところで、これは何問目?


 4問目。正解ってこれで合ってるのか……?


Q5.この世界の真実について知りたくはないですか?


 ……知りたい。そう思ってしまっている。だがそれ以上に今は、の正体が知りたい。


お疲れ様です。ありがとうございました。


 ッチ。結局、分からず仕舞いか……。


「一体誰なんだよ、お前は一体……」

「――ショーンだよ。名前は知ってる筈でしょ?」


 ――ッ?!


 咄嗟に掛けられた声に俺は顔を上げた。テーブルの向こう側にはフードを被った少年の姿が。それは、


「やほっ」

「ショーン・ハント……! どうして俺の家を……?!」

「あれれー? 知りたいのはそんな事? 答えてあげるけど質問は一回だけだよ。いいのぉ?」


 フードの内側からニタニタとした笑みが透けて見える。俺の事を揶揄からかっているようだが……。今すぐに俺をどうこうしようという気は無いようだ。


「なるほど……」


 他に誰もいないこの状況、むしろ千載一遇のチャンスかもしれない。


「……わかった。じゃあ俺の質問に答えて貰おう。この手紙を送ったのはお前か? もしも違うのならそれは誰だ?」

「ダブルバーレルぅ? 一つに見せかけた二つの質問はフェアじゃないよね? ズルする気?」

「良く知ってるな。満更アホでもなさそうだ」

「人のこと試すんだ。ふーん。でもいいや、答えてあげるよ。――まず一つ目、答えはノー。二つ目、それは秘密ぅ」


 首を横に傾げ、影になっていた顔に室内の明かりが差し込む。人を喰ってかかるような嫌らしい笑みだ。

 ならこっちも出方を変えよう。話を逸らしつつ、別の情報を引き出すんだ。


「フェアじゃないのどっちだ。それが答えになるものか。――お前は俺の事を一度殺そうとしている。そんな奴が俺に何のようだ?」

「殺そうとした? でもあのクソ探偵がアンタの事を助けてくれた訳でしょぅ? じゃあ、僕はアンタの事を殺そうしてないね」

「……? 屁理屈はいい。さっさとここに来た要件を言ったらどうだ?」


 屈しない、臆しない態度を示してみせたが……。次はどう来る?


「そうだね。じゃあ――」


 そう言いかけると、ショーンは勢いよくテーブルの上に乗って顔を近づけてきた。こうしてまじまじと見ると女みたいな顔してるな、こいつ――。


「――僕も譲歩したんだから、アンタにもおんなじ事を要求するよ? それがここに来た目的」

「だからそれは――」


 瞬間、「シッ」と俺の口元に右手の人差し指を立てて言葉を止め、そして顔をグッと近づけた。

 それは狂気を孕んだ目。俺は「ヤバさ」を思い出して息を飲んだ。


になってもらうから。キャハハハハハハッ!!」


 劈くような高い声が部屋に響く。

 次の瞬間だった、窓の外――通りからサイレンの音が鳴り響いた。アフター・サーヴィスの車両が発するサイレンだが……?


「もう来たみたいだね。もう少しおしゃべりを続けてもよかったけど。まぁまた今度の機会にとっておこう。もしも逃げきれたら――だけどね?」

「弱音を吐いているのか……? テロリストらしくもない」

「ばーか、逆だよ。逃げるのはアンタの方だ。あの無能連中には僕から垂れ込んでおいたの。テロリストのショーンと密会するようだ、ってね。現場を押さえに来てるんだよ。ね? 状況飲めたぁ?」


 ふざけた語尾は俺に対する挑発。だがこの部屋には俺がテロリストであると断定できる程の証拠がある。そう、この手紙だ。

 これの存在はアーヴィング達に話していなかった。――マズい……!


「ご名答ぉー。さーどうするの? あ、勿論僕は帰らせてもらうよ」

「ま、待て!」


 おれは咄嗟に手を伸ばす。だが掴もうとしたショーンの右腕――それが、寸前のところで光に包まれて消失し俺の指は空を掴んだ。これは、遊馬太郎が消えた時と同じ現象……?!


「またまたご名答ぉー。僕も同じを与えられたんだ。からね」

って……?」

「さっきも言ったでしょ? それは秘密ぅ」


 光に姿を変え、消えていく体。いくら手を伸ばそうがそれを捕まえる事は出来ない。


「ま、待て! どうして俺を付け狙う?! その目的はなんだ?! 一問くらいまともに答えろよ!」

「――うっさいな。じゃあ逆に聞くけどアンタがを知りたい理由ってなに?」

「ッ?!」


 ――俺が「この世界の真実にを知りたい」理由……!


「好奇心。それだけ。まったねー」


 そう言い残し、ショーン・ハントは光の中に消えた。

 ただ呆然と立ち尽くしそうになったがぼさっとしている場合じゃない。――逃げなければ、今度こそ俺は表の世界じゃ生きていけなくなる――!


「今度は、手紙は持っていく……! クソ、こいつをどこかで始末しないと……!!」


 ハンガーに掛けていた緑色のミリタリージャケットを羽織い、ポケットに手紙を突っ込む。

 だがどこに逃げればいい? 考えろ、考えろ――。


「――ッ! 一か八か、あいつに助けを求めてみるか……?!」


 ヴィンセントは急いで部屋を出ると、裏口に繋がる階段を下りて通りとは反対方向の路地へと走り出した。冷たい夜風と生暖かい蒸気を潜り、街の闇の中に消えていく。

 ほどなくして部屋にはアフター・サーヴィスの局員が乗り込んだ。

 既に蛻の殻——、四人からなる捜査員を束ねるアーヴィングは「一足遅れたか」と吐き捨てた。


「ショーンとの接触の可能性を考えて泳がせていたが、寸前のところで取り逃すとは。しかし、やはりヴィンセント……。テロに加担していると見て間違いないな」

 アーヴィングは捜査員に部屋を調べるように指示し、自分は音楽が流れたままのスピーカー――そのであるターンテーブルに近寄った。


「カインド・オブ・ブルーか――」


 静かなモード・ジャズのトランペットが慌ただしい夜に飲まれていく。

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