第四章 第二十二話「乙女のふれあい」

「シャワー室があいたわよぉ~」


 テントにやってきた先生が教えてくれた。

 シャワー室は個室が四つだけなので、先生と陽彩ひいろさんの後に私たち四人が使うことになったのだ。


「なんか風が強いし、雲行きも怪しい感じ。雨が降る前に行ったほうがいいよー」


 陽彩さんは、ちょっと肌寒そうに腕をさすっている。

 確かにグランドを囲んでいる木々も音を立てて揺れているので、テントの中からでも風の強さが感じられた。


「なんか森がザワザワしててちょっと怖いですね……」


 グランド出て周囲を眺めていると、ほたか先輩がテントの中で不安そうにうずくまっている。


「ましろちゃん。怖がらせないでぇ……」


 どうやら、まだ肝試しの怖さを引きずっているようだった。


「みんな一緒に行けば怖くないっすよ」

「うん。ほたか、行こう」


 美嶺みれいと千景さんに手を引かれ、先輩は重い腰を上げた。



 △ ▲ △ ▲ △



「ましろちゃん……。一緒に入ろ。なんか個室で一人だと怖くって……」


 シャワー室に入った途端、ほたか先輩が私の個室をのぞき込んできた。

 振り返ると、そこには先輩の裸!

 相変わらずの引き締まった体が美しい。

 胸も私より大きくて、くびれも引き締まっているので、余計にスタイルがよく見える。

 髪も下ろしているので、太ももまで伸びた黒髪が濡れて、きれいだった。

 そしてはからずも、ぷるんとした唇に目が行ってしまう。

 先輩の部屋でしてしまったキスを思い出し、まともに先輩の顔が見れなくなってしまった。


「あぅぅ……。は、恥ずかしいです……」


 本当は一緒に背中の流しあいとかしたかったけど、このたるんだお腹や背中をじっくりと撫でられると想像するだけで頭が沸騰しそうになり、とても無理だった。


「そっか……。ごめんね」


 ほたか先輩は残念そうにつぶやき、私の個室を出ていく。

 私は自分のヘタレ具合を呪うしかなかった。

 私の神経がもっと図太いなら、さぞやイチャイチャできたかもしれないのに……。



 するとその時、仕切り壁の向こうからほたか先輩の声が聞こえてきた。

 私はとっさに壁に耳を当てる。

 どうやら千景さんと話をしているようだ。


「千景ちゃん。一緒に入ってもいい?」

「うん」

「あれ、千景ちゃん。またおっきくなった?」

「うん。Gがキツくなってきた。また買い替え」

「肩がこるでしょう。お姉さんが揉んでみるね!」

「いや、しなくていい。……あっ! ん……あぁ……」


 そして、千景さんのつやっぽい吐息が聞こえてきた。

 声だけなのに……、いや声だけだからか、妄想が広がってしまう。


(揉んでるの、肩だよね? ……胸じゃないよね?)


 私はいけない想像に頭を働かせ、音に神経を集中させた。



「ましろ。壁に耳つけるとよく聞こえるか?」


 唐突に背後から美嶺が声をかけてきた。

 私は息が止まりそうなぐらいにビックリして、振り返る。

 そこには――まあ当然なんだけど――素っ裸の美嶺が立っていた。

 髪を下ろしているので、きれいな金髪は肩甲骨に届くロングヘアになっている。いつもと印象がちがい、美人のお姉さんのようだ。

 うっすらと割れた腹筋は、日ごろの鍛錬のたまものだろう。決して鍛えすぎではなく、とても均整の取れたきれいな体だった。

 そして長い手足に程よくついた筋肉は野生のヒョウを思わせる。

 美嶺は自分の胸の大きさを気にしているのか、片腕で胸を隠すように覆っていた。


 美嶺は聞き耳を立てる私をジト~ッとした目でいぶかしげに見つめている。

 私が千景さんと仲良くするだけでもヤキモチを焼いていたみたいなので、この目も私を責めているのかもしれない。


「こ……これはシャワー室の壁を観察してたんだよ! よく隙間から水が漏れないなぁ~って……」

「いや……。別に、苦しい言い訳はしなくていいよ」

「あぅ……」


 美嶺には嘘がつけない。

 私が変態だっていうことはとっくの昔に知られているのだから、変に弁解しても意味のないことだった。

 そして思っていたほどヤキモチで怒っている様子もなく、私の顔を心配しているようにのぞき込んできた。


「頭とか、痛くないか? さすがに肝試しで気絶してたから心配でさ……」

「そ、そっか。……心配かけてごめんね。う~ん……大丈夫かな」


 私は自分の体に異常がないか、首や肩をひねりながら確認する。

 特別に変なところはない気がする。

 あるとすれば慢性的な肩こりだけだった。


「肩、こってるのか?」


 肩を自分で揉んでいる様子で気が付いたのだろう。美嶺が聞いてきた。


「そう言われれば……確かに結構こってるかも」

「揉もうか? アタシよりも肩がこるんじゃないかと思ってさ」


 そう言いながら、美嶺は自分の胸を見つめている。

 やっぱり美嶺は自分の胸が小さめなことを気にしてるらしい。

 背が高くてかっこいいのに、もったいないと思った。


 ほたか先輩に続いて美嶺の申し出までも断るのは気が引けてしまうので、私は提案の通り、肩をもんでもらうことにする。


「じゃ、じゃあ、お手柔らかに……」

「よし。念入りにいくか!」


 お手柔らかにと言っているのに、美嶺は持ち前の馬鹿力で指を肩にめり込ませてきた。


「痛っ!」

「あ、スマン」

「いや、大丈夫だよ。これはこれで、芯にあるコリがほぐれそう。やってみて」

「そうか。じゃあ遠慮なく」


 美嶺は指をポキポキ鳴らすと、肩をグイっとひねった。


「……むんっ」

「ぬっ……あぅっ……あ~~~~!」


 変な声が出てしまう。

 痛いけど気持ちいい!

 千景さんのそふとたっちのマッサージも最高だったけど、美嶺のパワフルなマッサージも別の方向性で最高に気持ちいい。

 私は声を止めることが出来なかった。



「ましろちゃん、大丈夫?」


 ほたか先輩が慌てた様子でやってきた。

 振り返ると、千景さんも心配そうな顔でのぞき込んでいるのが見える。

 すると、美嶺は千景さんの裸体を見て声を上げた。


「おお……。伊吹さんの胸、想像以上にデカいんすね」

「美嶺さん。エッチです」


 千景さんは胸を両腕でとっさに隠す。

 でも確かにおっきくて、千景さんの細い両腕では到底隠し切れずに、あちこちからこぼれてしまっていた。


 いつの間にか、私が入っていた個室がにぎわい始めている。

 気が付くと四人がひしめき合っているのだった。

 狭いシャワールームで肌と肌が触れ合い続け、私はたまらなく恥ずかしくなってしまう。


「あぅぅ~。なんで結局私のところに集まるんですかぁ~?」


 シャワー室の中に私の声が響き続けるのだった。

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