第30話 大部屋
「ガハハ! しかしこれだけのメンツでダンジョン攻略なんて、めちゃくちゃ贅沢なもんだな!」
「確かに。A級パーティーが合同で攻略を進めるなんて、これまで聞いたこともありませんね」
グレイオスとエイルの言葉に、他のメンツも同様なのか頷く。
ヘルメスの大迷宮第二層の攻略は順調だった。
エイルを筆頭に、グレイオスたち『破砕』のメンバーの破壊力、そして他の二組のパーティーもゴーレムや魔物に苦戦することはない状態だ。
とはいえ、シズルたちに役割がないといえばそんなことはない。
ホムラは『破砕』のメンバーと共に先陣を切って道を切り開いていき、ローザリンデはそのサポート。イリスとシズルは変わらず後方支援に専念してダンジョンのマッピングを進めていた。
その結果、第二層における最大の難所になるであろう大部屋の前まで、無傷でたどり着くことになる。
「……さあ、ここからが正念場だね」
第一層であった部屋同様、洞窟のようなダンジョンの中にあって、明らかに人工的な扉。
すでにイリスとシズルの魔術によって内部には大量の魔物が生息していることが分かっている。
第一層のことを考えると、この部屋も普通ではないだろうとことは想像に難くなかった。
「どうするシズル?」
「俺が先陣切ってもいいよな⁉」
「……」
ローザリンデとホムラからそれぞれ尋ねられるが、シズルとしてはこの中で一番強い自分が前に出るべきだと思っていた。
だが――。
「ホムラ様には申し訳ありませんが、ここの一番槍はこの私が」
「おっと、テメェだけに良い格好はさせられねぇな。中にいるのは大量の魔物なんだろ? だったら必要なのは破壊力! つまりこの『破砕』のメンバーだ!」
エイルとグレイオスが競い合うようにシズルの前に来る。
「……第一層も、かなり危険なエリアだったけど、二人共いいの?」
「もちろんです」
「当たり前だろ? 俺たちは冒険者だぜ」
自信満々のエイルとグレイオスを見て、シズルは決める。
「それじゃあ、先陣はエイルと『破砕』のメンバーでお願い」
「おいシズル! 俺は⁉」
「兄上はそのすぐ後ろで、このメンバーのサポート。いざという時は前に出て、一気に魔物を燃やし尽くして後退してください」
自分の采配にやや不満そうな表情をするが、兄はこう見えてもフォルブレイズ家の次期侯爵。
さすがにこのメンバーの中では命の優先度は格別に高いし、なにより他のメンバーが納得しないだろう。
「ローザリンデ、悪いけど兄上が暴走しないように抑えてて」
「ハァ……どうして私の役目はいつもこうなのだ」
「仕方ないよね。そう言う運命だと思って諦めて」
嫌そうな顔をするローザリンデだが、内心満更でないことをシズルは知っていた。なんだかんだで、彼女はホムラの世話をすることが好きなのだ。
「イリスは俺から離れないでね」
『うん。アポロもだよ』
「ぅー」
「うん。そしたら、行こうか」
そして、シズルたちは扉を開けると、まず第一陣としてエイルたちが飛び込んだ。
「っ――」
「こいつぁ……」
グレイオスたちがやや驚いた表情をしたのは、この大部屋が想像していた以上に大きかったこと。そして何より、そこに居座る魔物たちがこれまで見てきたものとは大きく様相が異なっていたからだろう。
「……赤銅色のオーガ。おそらく最上位種のキングオーガですね」
「あっちにいるのはブラックスライムか。武器でも鎧でも溶かしちまうやべぇ奴じゃねぇか……」
さすがはA級冒険者だけあり、そこにある魔物たちの性質は良く知っているらしい。
キングオーガにしても、ブラックスライムにしてもこれまでの魔物たちとは一線を画す強力な個体だ。それこそA級冒険者とはいえ、苦戦は免れないだろう。
それ以外にもこれまで出てきた魔物たちがぞろぞろと部屋の奥からこちらを睨んでくるものだから、相当危険な状況であるのは間違いない。
とはいえ、シズルたちの視線はそんな魔物たちにはない。その更に奥、明らかに一体だけ他の魔物たちとは違う巨躯と威圧を放つ者がいたのだ。
「おいシズル」
「ええ……ちょっと、あれは危険ですね」
この大部屋の最奥。そこには九つの首に一体の魔物がいた。
それは今よりもずっと昔、それこそまだ精霊たちが溢れ、神と呼ばれる存在がいた頃に暴れまわっており、すでに絶滅したと言われる古代の魔物の一匹。
「文献で見たことあるだけですけど、多分あれはヒュドラです」
「へぇ……こいつは中々、ヤバイ雰囲気をひしひしとさせてくれるぜ」
古代の魔物は現代の魔物たちよりもずっと強力である。
さすがにフェンリルほど強力な個体はほとんどいないが、それでも一冒険者たちが相手に出来るレベルを超えていた。
「作戦変更! 冒険者のメンバーは各パーティーで固まってキングオーガの撃破を! 兄上たちは魔術でブラックスライムを倒してください! 悪いですが、その他の魔物は各自の判断でお願いします!」
「おいシズル! それじゃあお前は⁉」
「もちろん、あのヒュドラを相手取ります!」
「そんな! あれを一人でなど無茶ですシズル様――」
エイルが驚いたように声を上げるが、それを聞いていてやれる暇はない。すでに魔物たちはこちらを敵として見ているのだから。
キングオーガにしても、ブラックスライムにしても、ここにいるメンバーがきっちり対策を取ればきっと大丈夫。
そう信じて、シズルは『
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