第22話 休みの日
城塞都市マテリアにやってきてから、シズルたちは連続してダンジョンに潜っていた。
シズルもホムラもまだまだ余力はあるつもりだったが、マールとローザリンデの判断によってこの日は休養日とすることになる。
そのためシズルは数日ぶりにゆっくりとした時間を過ごすことになるのだが。
「これは中々気が抜けない」
『あやつら、気が付けば姿をくらましそうになるからなぁ』
マールは引き続き情報収集。ホムラとローザリンデは武器屋で色々見るため、二人で出掛けて行った。
ホムラたちには一緒に行くかと尋ねられるくらいだから、二人はそれをデートとは思っていないだろう。
だがしかし、シズルとイリスはそんな鈍感かつ奥手なお互いの兄弟たちを後押しするため、二人きりで出掛けるように仕向けるのであった。
そうして残ったのはイリスと、不思議な少年アポロ。
せっかくの休みなのに宿で寝ているのももったいない思い、こうして三人で街に出掛け始めたのである。
『こ、これお主! どこへ行こうというのだ!』
「ちょっと、アポロ! そっちは暗いからこっち行こう!」
イリスも普段あまり街を散策することがないからか、気が付けば糸の取れた凧のように興味のそそられる場所へと向かっていく。
それをヴリトラが抑えている間に、まったく逆方向にふらふらーと歩いていくアポロをシズルが止めるのが、当たり前となっていた。
だがしかし、イリスはまだ声をかければ止まってくれるのだが、アポロは気付かずそのまま歩き続けるときがある。
そんなときは腕を掴んで引っ張るのだが――。
「ってアポロ止まってってば!」
先日ホムラと二人がかりでも止まらなかったアポロをシズル一人で止められらず、彼はずんずんと進んでいく。
「ぅー?」
とはいえ、振り返りながら『なに?』と首を傾げる少年は、こちらの意図が伝わるときちんと止まってくれた。
「うん、いい子だね」
そんな幼い無垢な子どもを誉めるように、柔らかいクシャクシャの金髪を優しく撫でてあげる。
「ぁーぅー」
アポロは頭を撫でられるのが好きなのか、そうすると嬉しそうに笑うのだ。
「まったく、あんまりあっちこっち行っちゃ駄目だよ。ここで問題なんて起こしたら、ギルドになんていわれるか分かったもんじゃないし」
「ぅー」
言葉にせずに頷くアポロを見て、本当にわかったのかなぁ、と思っていると、頭にヴリトラを乗せたイリスが戻ってきた。
『分かったよー、だって』
「あ、イリスも戻ってきたんだ」
『うん、ヴリトラに怒られちゃった』
『当たり前だ! 言って目を逸らした傍から姿を消しおって!』
「ぅー?」
今のヴリトラの姿は子龍の姿だから、普段は話さないようにしているが、最近はイリスと同じく周囲に聞こえないように話す術を覚えたらしい。
そのためアポロにはヴリトラがなにを言っているのか分からないはずだが、怒っているのはわかるのかじっと見つめていた。
『な、なんだ……?』
そろり、そろりと両手を前に出しながら近づいてくるアポロに、ヴリトラが若干冷や汗を流す。
シズルやヴリトラから見たアポロは、まるで無垢な赤ん坊である。
しかし、その力は魔術で強化したホムラとシズルの二人がかりで止めるのがやっとのほどの怪力無双。
そんな子どもが、もしもヴリトラをぬいぐるみのように掴みでもしたら――。
『わ、我はもう消える! お前たち、勝手に迷子になってシズルを困らせるなよ!』
『あ……』
「ぁー……」
そう言ってシズルの中に消えたヴリトラを見ながら、イリスとアポロは残念そうに声を上げる。
「……まあ、仕方ないか。ほら、二人とももうはぐれないように、手を繋ご」
右手をアポロに、そして左手をイリスに差し出すと、二人はそっと握り返してくれる。
正直アポロに関しては、念のため魔力を全開にして強化した状態で構えているが、どうやら力加減はちゃんと出来るらしく、普通の子どもと同じような力で握ってくれる。
「アポロ、君は……」
二人同時に手を握ると、それぞれの体温が伝わってくる。
イリスはとても暖かく、そしてアポロの手はとても冷たい。まるで、血が通わず生きていないような、そんな冷たさだった。
『ふふふ』
「ぅー」
「まあいいか」
そこまで考えて嬉しそうに笑う二人を見れば、今はそんなことを考える必要はないと思いなおす。
少なくともアポロはこちらに心を許してくれているのだ。なら、そんな彼を訝し気な瞳で見るのも違うだろう。
「さ、どこに行こうか」
「ぅー!」
『あの路地裏行きたいって』
「なんでさっきからそんな暗くて狭いところばっかり行こうとするのかなぁ……?」
アポロの行きそうにしているところはさすがに面白くないだろうと、イリスに説得をしてもらい大通りの方へと向かっていく。
残念そうなアポロだが、イリスの言うことには素直に聞くようだ。
メイン通りに辿り着いた三人が、色々と店を見ながら歩いていると、正面からガラの悪そうな二人組がやってくる。
「おいテメェら!」
明らかに冒険者の装いをしている彼らは、シズルたちを睨みながら近づくと、片方が背中に背負っていた大剣突き付けてきた。
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【後書き】
電撃の新文芸【熱い師弟関係】に応募中の新連載も並行して書いております。
『魔導元帥の弟子~後継者には興味がないが、弟子を育てる生活は意外と楽しく悪くはない~』
https://kakuyomu.jp/works/16816452218433188926
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