第20話 蹂躙
それから二時間ほど休んだ一行は、オークの集落を後にする。
まるで厄介者を追い出すような態度であったが、突然邪魔をしたのはこちらの方なので仕方がないと思った。
「ねえローザリンデ。そういえば魔物がレノンに襲撃してきた件、誰かに聞かなくて良かったの?」
「ああ。たとえ他意がなかったとしても、魔物の流出を止められなかったと問い詰めているようになりかねないからな」
「ああ、そうか。確かにそうだね」
もしもオークとの仲が良好であれば、情報共有も簡単だっただろう。
だがしかし敵対しているような間柄であれば、ただの疑問ですら相手の神経を逆なでしかねない。
とはいえ、異常事態を放っておくのも不味いのではないかと思っていると、それが顔に出ていたのかローザリンデは苦笑する。
「心配するな。この後向かう白狼族の集落なら色々情報も持っているだろうし教えてくれるさ」
「仲がいいんだ」
「まあ、向こうがどう思っているかはわからないがな」
そう軽口を叩きながら、ローザリンデは魔物を串刺しにしていく。オークの集落で取り乱した姿はもはや影もなく、精神的にも持ち直したらしい。
「もうすぐ夜になる。それまでにはたどり着けるが、油断は禁物だ」
「おいシズル! 魔物はどっちだ!?」
「あっち」
「オッシャー! ちょっと行ってくるぜぇ!」
「おいこら! 待て! 一人で勝手に行くなこの馬鹿!」
突撃していくホムラを追いかけるローザリンデ。そんな二人を見ていると、昔見た子供向けのアニメを思い出して笑ってしまう。
「ん?」
くい、くい、と軽く裾を引っ張られ振り向くと、イリスが不思議そうな顔で首を傾げていた。
「ああ、なんで『魔物のいない方向を指したのか』って?」
コクコクと頷くので、シズルは悪戯をした子供のように笑って答える。
「だってあっちが獣人達の集落でしょ? 兄上は単純だからあんな感じで誘導しないと、ずっと魔物と戦っちゃうしね」
イリスはそれが可笑しいのかクスクス笑っていた。そんな年相応の笑顔を見て、シズルもまたつられて笑う。
きっと彼女は何かとても重い使命を背負っている。きっとそこには部外者である自分達は入り込めないものだろう。
だがこうして『仲間』として一緒にいる間くらい、笑っていてほしい。
たとえそれが偽善的な思いであっても、そう思うシズルであった。
フォルセティア大森林は第一層よりも第二層、第二層よりも第三層と森の奥へ行くほど魔物達の脅威度は上がってくる。
それは単純に魔物の強さが上がるだけではなく、より厳しい環境下で生き延びるために知恵を絞り始めるからだ。
そんな危険地帯に於いて、シズル達は第二層の半ばまで足を踏み込んでいた。
オークの集落を抜けた先に存在するその区域は、もしレノンの冒険者が迷い込めば、死を覚悟しなければならないほど危険な場所でもある。
しかし――
「はっ、こんなもんかよ! 歯ごたえねえなぁ!」
「馬鹿! そうやって油断してお前はさっき怪我しかけただろうが!」
「大丈夫だって! そうなる前にお前かシズルがフォローしてくれんだからよ!」
「このっ! フォローにされる前に自分で気を付けろ!」
そんな危険な森へと踏み入れたシズル達四人は、しかしその歩みを止めることなく無傷のまま魔物達を蹂躙していた。
その勢いは第一層を進んだときと比べても変わらず、本来なら手出しできない凶悪な魔物達も、まるで狩られる獣のようにその命を散らしていく。
魔物達が弱いのではない。シズル達が強すぎるのだ。
そうしてしばらくして、木々が無くなり開けた場所にたどり着く。その先にはオークの集落で見たような強固な森の木々で囲まれた砦が目に映った。
「おっ! 着いたっぽいぜ!」
「ふう、なんとか暗くなる前に辿り着けたか」
ローザリンデは安心したように息を吐く。彼女の想定していた以上に魔物達が現れ、オークの集落で彼女から聞いていた話よりも時間がかかっていたのだ。
空を見上げると青かったはずの空は夕暮れに染まり、あと少しすれば暗闇が森を支配する頃だろう。
「今から入る白狼族は比較的穏やかな種族だ。我々エルフとの仲も良好でな、今日はここで宿を借りるぞ」
パーティーリーダーであり、土地勘を持ったローザリンデの意見に反対する者などいるはずもなく、そのまま白狼族の集落へと向かっていく。
良好、という言葉を聞いたとはいえ、先のオーク達から敵意を受けた身としてはそこまで安心できなかった。
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