人形列車 鉄亜鈴城8

 階段を駆け上がると一番上には地面に刺さった棒にロープがくくりつけてあり、どうやらこれでターザンのようにして向こう側へと飛ぶみたいです。


 向こう側へ渡れるチャンスは1度きり。

 何故ならジャンプする事が出来なかったらロープは池の真ん中で停止するので、後は池に落下するしか無くなるからです。


  ロープを棒から外して体全体でしがみつく様に持ってから、助走をつけてジャンプ!

 水面スレスレをしなるロープが走り、池の向こう側にあるロープで出来た壁がぐんぐんと近づいてきます。


 後はタイミングを見計らって……………飛ぶっ!!!!


 ロープから手を離すと、振り子の原理で得た力で私の体は横に流されながら宙を飛んで行きます。


 ジャンプしたタイミングは完璧!

 角度もじゅうぶん!!

 

 ―――――しかし、ここで予期せぬ問題が発生してしまったのでした。 

 それは……………私の運動能力の無さ!!!!

 

「…………あ、あれっ!?」


 後は手を伸ばして壁のロープを掴むだけだったのですが、伸ばした手は虚しく空を掴み、私は逆さまになりながら池へと落下して行きました。


 目の前に迫る水面。

 水没まで秒読み段階になった瞬間。

 ふいに目の前の景色が静止して、私の体が水の中に沈むのを回避できました。


「――――おや?」


 右足に何かが引っかかっている感触があったので見てみると、逆さまになった時に偶然右足がロープに引っかかり宙ぶらりんの状態になっていました。


「あ、危なっ!? ねえ、これからどうすればいいの?」

「そのままロープを手で掴め!」


 なんとか体をジタバタさせながら両手で網目状のロープを掴み、そのまま上半身が上になるようなポジションに体の向きを変える事にしました。


 そのままゆっくりとロープの壁を降りて行き、なんとか2つめのアトラクションもクリアする事ができました。



「ふぅ。ギリギリセーフでした」

「あとちょっとだぞ~」

「そのままクリアしちゃえ~」


 2個クリアした事でだいぶ自分に自信をつける事が出来、今の私は憧れのミスタータスケになったような気分です。


「えっと次のアトラクションはっと」


 このまま勢いにまかせてクリアを狙う私でしたが、最後に最大の敵が立ちふさがって来たのでした。


「………………こ、これは!?」


 今私の目の前には1つの壁があります。

 ただの壁ならば問題は無いのですが流石に後半に出てくるだけあって、そんなに生易しい物ではありません。


 普通に手を伸ばしただけじゃ届かない高さ。

 そして頂上部分が少しだけクルッと反り返っているので、一番上を掴むだけでも大変そう。


 そもそもここまで来るのに体力を使いすぎているので、走って飛ぶ事すら難しいです。

 

 迫りくる時間。

 残り少ない体力。

 身長の低い私にとって絶望的な高さ。


 全ての状況が私に不利に働きかけて来ましたが、今の私はミスタータスケ。

 こんな壁なんかに負けません!


 ちょっとだけ後ろに下がって助走を付けてから大きくジャンプ!

 そのまま大きく手を伸ばして頂上を掴もうとしましたが――――――駄目っ。

 

 私は壁の前にストンと落下し、相変わらず目の前には高い壁がそびえ立っていました。


「…………これは無理なのでは?」


 諦めようと思った瞬間。


「さくら~。頑張れ~」

「手は届いてたぞ~」


 と、和希さん達の声援に励まされ、ちょっぴりだけ元気が戻った私は、呼吸を整えてもう一回チャレンジする事にしました。


「えっと。確かゲームでは、あの場所からあのタイミングで…………」


 あんまり意味は無いかもしれませんが昔やったTASUKEのゲームを思い出し、それと同じタイミングで飛ぶ事にします。


 ゲームで攻略法を探してる人もいるとか聞いた事もあるので、全く無駄では無いはずっ。


「行きますっ!」


 私は最後の体力を振り絞って走り出し、ゲームと同じタイミングでジャンプ!


「やああああああああああっ!」


 そして、なんとか右手だけ頂上を掴む事に成功しました。


「掴んだっ!」


 後はこの手を絶対に離さないようにして登りきるっ!


 左手を伸ばして何とか両手で掴む事で安定度をアップ。

 そして、腕の力だけで体を持ち上げます。

 

 体重が軽い事が良かったのかギリギリで上半身だけ持ち上がったので、そのまま倒れるようにして何とか上半身が頂上に乗りました。

 後は足を大きくあげて下半身を気合で持ち上げ、私は壁を何とか登りきりました。


「や、やりました。ミスターTASUKEの勝利です!」


 壁の頂上でガッツポーズした瞬間。

 タイムアップのブザーがフィールドに鳴り響きました。


「……………あれ?」


 

 壁の上からステージの先を見てみると、まだいくつかアトラクションが残ってるみたいです。


 ―――――つまり。


「か、壁を登って満足してしまいました…………」


 壁から降りた私はそのままステージの端っこにあるスイッチを押すと、池の底から橋の様な物が浮かび上がって来ました。


 どうやらここを歩いてステージの外に出るみたいです。

 橋を渡り、ステージから出る時に参加賞のタオルを係員さんから受け取り、私は2人の待つスタート地点へと戻る事にしました。

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