人形列車1
ある日の昼下がり。
私はベッドの上で寝転びながら旅行ガイドを読んで、なんちゃって旅行気分に浸っていました。
本には豪華客船でのクルーズや飛行機での世界一周旅行など、様々なプランが載っていて読んでいるだけでもかなり楽しい気分になれます。
「おおっ!? 列車の旅も載ってます!? やっぱり、のんびりとした汽車の旅も憧れますね~」
「別にそんなのに乗らなくても、地下リニアなら一瞬で目的地につけない?」
空想の中でのんびりと汽車に揺られていた私ですが、シャンティの一言で現実へと戻されてしまい、ちょっぴり不機嫌な感じに。
「――――まったく、シャンティは分かってませんね。こういうのは移動してる時間を楽しむ物なのに」
「桜ってゲームでは効率ばっか求めてるのに、ゲーム以外だとあんまりだよね?」
「まあゲームは相手を上回って勝つ事が重要ですが、旅行は過程を楽しんだら勝ちみたいな感じですし」
私は再びパラパラとページをめくると、途中のページに旅行券が貰えるキャンペーンの告知を発見しました。
「こ、これはっ!? シャンティ、早速キャンペーンに申し込みましょう!」
「え~と、なになに。ゲーム大会で優勝した人に、のんびり列車の旅の招待券をプレゼント? ――――ねえ、桜。これ大会で優勝しないと貰えないみたいだけど?」
「だったら優勝すればいいです! なのでシャンティ、早速ゲームの特訓を始めますよ!」
「まったく現金だなぁ~」
―――――数日後。
ゲーム大会で優勝候補だった身内に泣きついて何とか辞退してもらった事で無事に優勝出来た私の元に、見事のんびり列車の旅の招待券が届けられました。
「やりました。ついに、あの! 念願の招待券が!」
「あ~。まあ桜がいいなら別にいんじゃない?」
「…………なんですか、そのやれやれみたいな顔は? それにあの人は仕事が忙しくて優勝しても旅行に行ってる暇がないから、優勝しても景品は辞退するって言ってたじゃないですか!」
「じゃあ何であんな事したのさ?」
「決勝以外で当たったら負けちゃう可能性がありましたからね。それより、もうそんな前の事は忘れて今は旅行の準備をしましょう!」
「そんな前って昨日だった気がするんだけど…………」
「私は現在と未来しか見てないので、過去には縛られないんです!」
――――――それから私は、るんるん気分で旅行の準備を始め更に数日後。
旅客列車が出発する場所へと到着した私とシャンティは、売店巡りをしながら出発までの時間を待っていました。
「やっぱり旅行といえばご当地グッズやご当地グルメは外せませんね。――――そして何より忘れてはいけないのは」
デデン。
「ご当地ガイドブック!!!!」
現在私は早速買ったガイドブックを手に、出発地の駅前を探索中だったりします。
「…………でもすぐに出発するんだし、それ買った意味あった?」
「違いますよ、シャンティ。逆にすぐ出発するからこそ、おすすめスポットが載ってるガイドブックが必要なんです! っと。こんな事してる間にも時間は過ぎていくので、早く次の場所に行かないと!」
「それで、次はどこに行くの?」
「――――えっと、ちょっと待ってください」
私はガイドブックをパラパラとめくり良さげな場所を探すことにしました。
ここで重要な事は、良さげなお店を見つけても遠くだったら見送る事。
列車に乗り遅れてしまったらいきなり今回の話が終わってしまうので、そこだけは注意しないといけません。
「ラーメン屋さんは…………近いけど食べるのに時間が。お土産屋さんは…………ちょっと遠いですね。だったら…………あっ!?」
ガイドブックのある文字を見つけた私は、目的地を即決しました。
「ここのパン屋さんにしましょう!」
「あ~。結構いいかも」
「なんとここは去年の駅前パン屋ランキングで売上1位だったみたいです! やっぱり売上が一番信用出来るのでここしか無いです!」
そうと決まったら即行動。
私はパン屋さんへと急ぎ、そこで一番売れている特製クロワッサンを持ち帰りで購入すると、ちょうどいい感じの時間になっていたので、そのまま食べ歩きをしながら列車に向かうことにします。
買ったのはパンが1個だけなのですぐに食べ終わってしまいましたが、口の中がパサパサになってしまったので、何か飲み物が欲しくなりました。
「あっ!? ちょうどいい所に自動販売機があります」
時間も無かったので、とりあえず目についた紅茶のペットボトルを1つ購入する事にします。
ピッとボタンを押してから数秒後。
キンキンに冷えたボトルが出てきたので、一口飲んで口の中を潤してから再び駅へと向かう事にします。
ちなみに支払いは、私がボタンを押す瞬間にシャンティが会計用の電波を出し、自動販売機とリンクして自動お支払いモードで会計を済ませています。
「では、行きましょうか――――――わわっ!?」
「きゃッ!?」
歩き出そうとした瞬間。
前をよく見ていなかったので誰かにぶつかってしまい、ペットボトルがぶつかった相手の足元へと転がっていっちゃいました。
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