フォールガールズ 完

 ――――――そして、遂にやってきた最終ステージ。

 ここまで来たら優勝出来るのは、たった1人だけ。

 さっきまでチームとして戦ってた仲間も、今は全員がライバルです。


 目の前には長い長い坂道が続いていて、その坂道を一番上まで登った場所には巨大な王冠がキラキラと輝きを放っていました。


 最終ステージの目的はスタート地点から誰よりも早くこの坂道を駆け上がり、王者の証である王冠を手に入れる。

 それが出来た者が勝者ですっ!!


 最終ステージはスタートラインに横一列に並んでいるので、場所による有利不利はありません。

 ここで必要なのは障害物を乗り越えて進むテクニック。

 ――――と、ちょっぴりの運。


 

 優勝の決まる最終ステージだけあってか、他のプレイヤーからもピリピリとした緊張感が伝わってきます。

 

 空気を1つ吐くと、最後のスタートを告げるカウントダウンが始まりました。


 3―――2――――1――――今っ!


 全員そこそこのスタートダッシュを決め、私達は一斉に坂道を登り始めます。

 坂道の途中にはいくつかの壁が障害物としてプレイヤーの行く手を阻んでいますが、ここまで残ったプレイヤー相手に動かない設置物なんてほとんど足止めにはなっていません。


 だけど、このまま頂上まで何事もなく行ける訳も無く…………。


「な、何ですか!? この音!?」


 ゴロゴロと何かが転がってくる音が上の方から聞こえて来ました。

 それも1つや2つでは無く、沢山――――。


「いったい何が起こって……………ええっ!?」


 ――――私は坂道を見上げると。

 なんと大量の巨大なボールが、私達を通せんぼするかのような動きで転がって来ていました!?


 私は素早く壁の後ろに隠れて難を逃れる事が出来ましたが、避難するのがほんの少し遅れてしまったプレイヤーは、そのままボールと一緒にかなりの距離を戻されちゃったみたいです。


 戻されたプレイヤーもまだじゅうぶん巻き返す事が出来る距離なので油断は出来ませんが、ちょっとだけ優位に立つ事が出来ました。


 とにかく今は慢心しないで、少しでも上に行く事だけを考えたほうが良さそうです。


 ―――――壁の後ろで少しだけ待って、ボールの隙間が空くタイミングを見計らってから1つ上の安全地帯まで全力ダッシュ!!


 2個めの壁はさっきのよりちょっとだけ小さめでしたが、私1人なら余裕で隠れる事が出来そうです。


「これで大丈夫―――――」


 と思ってたら、私に少し遅れてこの場所に向かってくるプレイヤーが見えました。


「こ、このままだと、どっちかがはみ出ちゃいます!?」

 

 さっきの場所だったら2人くらいなら仲良く隠れる事が出来ましたが、この場所にもう1人増えたら必ず片方――――あるいは両方がボールに押し戻される事は確実。


「こうならったら仕方ないです。どの道最後に勝つのは1人だけ―――――だったら!!!!」


 私は後ろ向きになって身構えて、後ろからやってきたプレイヤーが壁に入ろうとした瞬間。


「え~いっ!!」

「え、ちょ、ちょっと何するの!?」


 私は後から来たプレイヤーを羽交い締めにして、壁からその人だけはみ出るようなポジション取りに成功しました。


「離してよ!」

「このままだと2人ともボールに当たっちゃいます。なので貴方だけ落っこちてくさい!」

「い~やぁ~」


 相手が予想以上に暴れてしまっている為、私はぐいぐいと後ろに押されちゃってます。

 

「こ、このままだと本当に2人とも!?」


 そうこうしているうちに、上の方から新しいボールが転がって来ました。

 

「こうなったらイチかバチかです!」


 私は相手が後ろに大きく動いた瞬間に拘束を止め、そのまま横にスッと移動すると、勢いに乗った相手は体制を崩しながら壁の外へと転び、その瞬間落下してきたボールと共に1つ下の壁の辺りまで押し戻されていっちゃいました。


「――――ふぅ。なんとか助かりました」


 周辺を見渡してみると、どうやら他の場所でも似たような事が起こってたらしく、最前線を走るプレイヤーがかなり絞られてしましました。


「あとちょっと!」


 私は壁から出て駆け出して先を見ると、もう前に壁は無いみたいです。


 ――――つまり、今後はボールが来た一瞬で安全地帯を見極めてその場所に移動する。

 その判断力の勝負!


「あそこは駄目…………あっちも駄目…………あっ、あそこならっ!?」

 

 ボールの転がってくる速度、飛び跳ねるタイミング、そして空中での滑空距離を頭の中で瞬時にシュミレート。

 そこから導き出された僅かな隙間にダイブすると、ボールはちょうど私の少し前で飛び跳ねて私の真上を通り過ぎました。


「これでもうゴールまで、私の邪魔をする物はありません!」


 私はすぐに立ち上がり、王冠まで続く最後の道へと駆け出します。

 最後の道は長い階段が左右に2つあり、左側から来た私はそのまま左にある階段を選びました。


 左の階段の先頭は私。

 そして、反対側の階段には――――。

 

「なんだ、やっぱりお前も舞踏会に間に合ったのか」


 予想通り最後には和希さんが立ち塞がって来るみたいです。

 さしずめ今の状況を例えるなら、舞踏会に履いていくガラスの靴を奪い合う2人のシンデレラ。

 

 ――――まあ目標は靴では無く王冠なのですが、シンデレラに例えたほうが可愛いのでそういう事で!


 現在2人の距離はほぼ同じ。

 …………やっぱりちょっと和希さんの方が早いかも。

 いえ。よく見たらこっちの方が、ほんのちょっと有利な気が…………って、そんな事はこの際どうでもよくって。


 横を向いてる暇があるなら前を向いて少しでも速く走るっ! 


 次第に近付いてくるゴール。

 長い道のりもやっと終わりかと思うと気が緩みそうになりますが、まだ決着はついてないので気は抜かないようにしないと!


 ――――と思ってはいたものの。

 心の中ではちょっと気が緩んでしまっていたようで。


「わわわッ!?」


 私はゴール目前で足がもつれて階段で倒れそうになりましたが、何とか右手を床に叩きつけようにしてバランスを取って最悪の事態だけは回避する事が出来ました。


 けど、その数秒のタイムが致命的だったようで、和希さんは私より一足先に階段の一番上まで登りきり、そのまま勢いよく王冠へジャンプ!


「もらった!」

「ああっ!?」


 …………して、和希さんが優勝すると思ったのですが。

 何故か和希さんは王冠をするりと抜けて、下へと落下していっちゃいました。


「……………えっと」


 私が戸惑っていると、後ろから他のプレイヤーが向かってくる足音が聞こえてきました。

 一応まだ距離的に余裕はありますが、あまりゴール前で待っていると煽りプレイだと思われてしまう可能性があります。


「とりあえず終わらせますか」


 私はそのままジャンプして王冠を掴むと優勝者を称えるステージへと移動して、数秒間与えられた時間で軽いパフォーマンスをした後、和希さんの待つロビーへと戻っていきました。


 ロビーに付くと少し不満げな表情をした和希さんが、壁にもたれ掛かりながら私の到着をまってくれてたみたいです。


「最後に掴む必要があるなら、事前にアナウンスとかやるべきじゃないのか?」


 ああ、それで最後にそのまま落っこちていっちゃったんですね。


「一応操作説明みたいなのがありますが、和希さんは確認しなかったんですか?」

「説明書なんて面倒なの見るわけないだろ?」

「ええっ!? 説明書はちゃんと読まないと駄目です! 非常時にロケットランチャーを撃つ時にも説明書だけは読まないといけません!」

「…………その説明書は撃つ方向を間違えるやつじゃないか」


 そんなこんなで私達はその後も何度かゲームを遊び、いい感じの時間になってから解散しました。


 …………えっと、その後の私の戦績ですか?

 ま、まあ、なんというか………ほどほどの勝率ですっ!





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る