バトロワ編 その19



「そういえば、ここに来たのはキャメルさんに会う為でした」

「ゲームに熱中してて忘れてたけど、確か来た時にそんな事言ってたっけ」

「えっと。リアルでは始めまして、私が桜です。反対側に座ってるのが忍さんで私の前にいるのが忍さんのお姉さんの鳴海さんです」

「よっろしくぅ。なかなか面白いゲーム置いてあるじゃない」

「始めまして」



 私達はそれぞれ挨拶をするとキャメルさんも。


「こちらこそよろしくかもです」


 と、白い歯をキランと輝かせながら笑顔を返してくれました。流石接客業をやっているだけあって、なかなか気持ちのいい笑顔を返してくるようです。


「そういや何で私達って分かったの?」

「一応旅行に行く前日にメールで連絡しておきましたので」

「それにボイチャで会話していたのですぐに解ったかもです」

「なるほど。そういう事」

「そういう事なんです。――――それより気になっている物があるのですが」



 ゲームバーの奥の方には最新のゲーミングデバイスが何台も並んでいるのが見えました。

 私の持っている携帯デバイスとは違いゲームに完全特化したデバイスなので、今ある全てのゲームが最高スペックで動くゲーマーにとって夢のような機械が私の目の前にあって少し興奮してしまいました。

 最初は旅行に来てまでゲームをするのもどうかとも思ったのですが、実際に目にすると私の中に眠る血がゲームをプレイするよう求めて止まりません。


「気になるならやって行くかもです」

「――――いいんですか?」

「それにせっかくだから、ここでしか出来ないとっておきのテクニックを教えてあげるかもです」

「テクニックですか? 少し気になりますが私達にも出来るんでしょうか」

「やれば解るかもです」


 ――――それから私達はしばらくの間、ブレマジをチームプレイで遊びました。

 いっぽう鳴海さんはどうしているかと言うと、いつの間にか他のお客さんと仲良くなっていてカードゲームで遊んでいるみたいです。知らない人とすぐに仲良くなれるなんて、流石のコミュニケーション能力です。


 ――――そして数時間後、ゲームバーをじゅうぶんに楽しんだ私達はお店を後にしてバス停へと向かっていました。


「――――まさか沖縄と本州との回線ラグを利用した、ちゅら戦法なんでテクニックがあるなんて驚いたわね」


「普通なら見てから避けられる攻撃も回線が反応しないので実質ガードや回避が不能な攻撃になるなんて思いませんでした。まだまだ私達の知らない戦略が沢山あってかなり奥が深いです」

「う~ん。それって戦略って言ってもいいのかなぁ……」



 実際には回線のラグはほとんど無く気持ち遅いだけみたいですが、何故かあのゲームバーでプレイした時は対戦相手のガードが間に合わない事が多かったので少しだけ信じそうになってしまいました。もしくは特殊な回線を用意しているのかもしれませんね。


「それより2人はこれからどうするの?」

「――――ちょっと待ってください」


 鳴海さんにこれからの予定を聞かれた私は腕時計で時間を確認すると、もう結構良い時間になっていて後1、2箇所回れるのかどうかと言った感じでした。後1箇所となると最後に回るべき場所は――――。


「では忍さんと私はハブとマングースを見に行くので、後でホテルで合流しましょう」

「そうね。私もちょっと行ってみたい場所があるから、ひとまずここで解散かな」

「それじゃ、ナル姉後でね~」


 私達は鳴海さんを見送るとガイドブックに書かれているショーが行われる場所に向かっていき、数分後ドーム球場のような場所にたどり着いたのでした。


「……ねえ桜。かなり大きい会場みたいなんだけど――――本当にここで合ってるの?」

「はい。観光ガイドに書かれているので間違いありません」

「――――本当にその観光ガイド信用出来るの?」

「忍さん。前にも言ったとおりガイドブックには真理しか書いてありません。たまに誤植もありますがそれはそれです」

「それってどっちなのよ……」

「それにほら、あそこを見てください」


 私はある地点に指をさすと、そこには金色の文字でハブVSマングースと書かれた段幕が掲げられていました。

 弾幕の中央に位置している会場の入り口には人の波が流れ込むように吸い込まれていってます。


「…………本当にここで合ってるんだ」

「では早速チケットを買って入場しましょう」


 会場の入り口から少しだけ離れた場所にちょこんと置いてあるチケット置き場でチケットを買った私達は人の波に紛れ込んで流されるままに会場へと入っていき、チケットに書かれている番号の席へと座りました。


 私達の席は二階席の一番前で、ちょうど中央にあるリングが見下ろせるような形になっているようです。………………リング?


「――――おや? 何かの見間違いでしょうか」


 私は目をぱちくりさせばがら改めて会場の中央を見てみると、確かにそこには格闘競技で使われるような四方をロープで囲まれたリングがでかでかとそびえ立っているのでした。


「ねえ桜。やっぱり何か変じゃない?」

「ちょっと待ってください。今からパンフレットで確認して―――――」


 私はさっき売店で購入したパンフレットを取り出してページを開いた瞬間どうやら会場の熱気も頂点になったみたいで、入場ゲートからドドンと炎の柱が燃え上がり軽快なBGMと共に1人のローブに身を包んだ人物がリングに向かってゆっくりと歩いていきました。


「し、忍さん。あれはハブですがハブじゃありません!?」

「ええっ!? じゃあ何なわけ?」

「あれは―――――羽生さんです」

「はぁ?」 


 私達が驚愕しているとすぐにリングアナウンサーの人が入場者の名前を叫びあげました。


「赤ぁ~、コーナー。はにゅううううう、ゆぅとぉぉおおおおおお」 


 名前を呼ばれた選手は両手を頭上に上げて観客全員にパフォーマンスをしています。


「しかもはぶさんじゃなくてはにゅうさんです!?」

「それじゃあ入り口の垂れ幕は何だったわけ?」

「えっと――――なるほど、発注した時に担当者がミスをしてしまったとパンフレットに書いてありますね」 


 私はその事が書かれているページを忍さんに見せると、忍さんは少しだけ呆れたような顔で。 


「…………誰よそんな間抜けは」

「キャメルさんです」

「アイツかいっ! ってなんでアイツが関わってるのよ?」

「いろんなイベントを盛り上げるのがあの人の趣味みたいですね。パンフレットにもインタビューが載ってます」


「なんで発注ミスのインタビューなんて載ってるのよ!」

「そっちのほうが面白いからでは無いでしょうか。にわか沖縄弁を使っていましたが実は関西人のようですし」

「…………ああそう」


「それより羽生さんと戦うマングースも出てくるみたいです」

「ええっ!? 人間とマングースが戦うの!?」 


 羽生さんが出てきた場所と反対方向にある選手の入場口から炎が燃え上がり出てきたのは――――――。 



「――――マングース山本さんです」 


 耳と尻尾のついたコートを身につけた少し小柄な選手でした。 


「どこから山本が出てきたのよ!!」


 忍さんは納得いかないと顔に出しているようですが、実際に出てきた訳なので納得するしか選択肢はありません。

 私はパンフレットにある選手の紹介がしてあるページを忍さんに見せる事にしました。 


「忍さん。ほらここにちゃんと書いてあります」

「なら何で垂れ幕にマングースとしか書いてなかったのよ!」

「それはですね――――――ふむふむ。文字数が足りなかったのでマングースだけしか入り切らなかったみたいです」

「最初に全部入るか確認しときなさいよ!」


 ――――私に言われても困るのですが、何はともあれ試合が始まるみたいです。

 すでに入場チケットの料金は払ってしまっているので、なんとしてもこの試合を楽しまなければいけませんし。 


「忍さん、とりあえず今は試合を楽しみましょう」

「私こういうのあんまり見た事無いんだけど、大丈夫かなぁ」 


 満員御礼の大歓声の中、ハブVSマングースもとい羽生さんVS山本さんの試合の火蓋が切って落とされたのでした。もうすでに全く原型を留めていない気もするのですが、その事は気にしないようにしておきましょう。 


 ――――試合は静かな組み合いから始まったのですが、次第にコーナーポストの上からの鮮やかな空中戦に以降して、最終的にはお互いの得意技が乱れ飛ぶように繰り出されるようになり終わって見れば40分を超える大熱戦の戦いになっていたのでした。 


「いやぁ~。どうなるかと思ったけど意外と楽しかったわね」

「そうですね。最後のマングース・リベンジャーが決まった瞬間は魂が震えてしまいました」

「私はその前のエクメザイア・ニュートロンがカッコ良かったかなぁ~」

「忍さん、そう言えば売店でグッズが色々売ってたので記念に何か買っていきませんか?」


「そうね。結構楽しませてもらったし何か買って行こっか」

「では売店に行きましょう。案内するのでついてきてください」

「オッケー。それじゃあ案内よっろしくぅ」


 私達が売店に到着すると試合が終わった直後だからか、売店の前には長蛇の列が出来ていていました。 

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