第67話 悲恋の最終章④暁子との出会い

火曜日の昼下がり、昼休憩のあとなので、1時を過ぎていました。

この日のシフトは2人だけ・・・店長の岩村さんと俺だけです。

開き戸の鈴がなります。カウンターで洗い物をしていた俺は大きな声で


「いらっしゃいませ・・・」 視線があいます。


  あれ・・・暁子さん・・・だ!・・・

黒いパンプスに白いフレアが入ったワンピース・・・首もとには薄いブルーの

ストール・・・さすがにOL・・・着こなし上手でとても綺麗なのです。


この場所、田園調布に静かに溶け込むさりげないセンスがうかがえます。


 俺の前のカウンター席に腰掛けました。

「いやーね・・・そんなにジロジロ見ないでよ・・・里中君の視線嫌らしい・・・」でも笑いながらの口調なので、嫌みは感じません・・・「約束したから来ちゃった・・・ずいぶん暇みみたいだわね?・・・」


「そーなんです・・・火曜日の昼下がり1時過ぎなので、いつもこんな感じですね!」


テーブル席に1組の若い二人連れが深刻そうな感じで話をしている様子が見えますが、店内はこれだけ・・・「暁子さん・・・ご注文は・・・」

 「そーね・・・ウインナーコーヒーをお願い・・・」


 「店長・・・いいですか?お願いします・・・」


 「里中君・・・お昼食べちゃったの?」「はい・・・12時から交代で、バイトからです。」


「残念・・・出がけに、実家の母から電話があって少し長引いてしまって、お昼すぎちゃったわね」

「はい・・・差し入れ・・・サンドウイッチとパンの見繕い・・・皆さんで食べてね」


サンジェルマンの手提げ袋にサンド、カレーパン、総菜パンがぎっしりです。

やっぱりOLは違う・・・東横のれん街のサンジェルマン・・・貧乏学生には

縁が薄い代物でした。


「店長・・・いただきました。」

すると岩さんが「あの・・・何度かお見えになったことがありますよね・・・

「はーい これで4回目になります」


 「それで里中とはどんな知り合いなの・・・?」

「私の高校の同級生・・・彼が里中君と親友で、先週渋谷の飲み会で初めて知り合いました・・・」


お待たせしましたとウインナーコーヒーが運ばれます。


 そこからカウンターで四方山話のオンパレードです。中学、高校時代の話で双方が盛り上がります。


 卓也の話になると暁子さんが饒舌になります。「由美子の彼だけど、なんか私ほっとけなくてね・・・」とぽつり・・・ やはりその言葉に哀愁があるし、はかない恋こころみたいなものを感じました。好きなのに親友の彼だから我慢するそのひたむきな情念・・・そこまで大げさでなくとも彼女は卓也に思いを寄せてる・・・

でも親友の頼みを断り切れず橋渡し・・・複雑な思いなのでしょう・・・


 好きなのに・・・好きなのに・・・どうにもならない板挟みにいるのでしょう・・・環境は違うけれど


今の俺に似てる・・・断ち切るために新しい1歩を踏み出す覚悟へと自分を誘導してる感じなのです。


 「ねーーーー里中君・・・やっぱり大友君に似てる!・・・そばに居て時間をもてあそぶこともないし、イライラしない・・・話も上手だし、話してて楽しいの!」・・・


 ・・・卓也の代わりになるなら・・・・


「暁子さん・・・卓也にはなれないけど、俺で暇つぶしになるならいつでもOKです。」


「里中君って優しいのね・・・でも岩手の彼女さんに怒られちゃうわ!・・・」


 「この間も北海で話したけれど、俺たち瀬戸際なんだ・・・俺はやっぱり岩手に行けないし、親にこれ以上迷惑をかけれない・・・」


「そーよね・・・複雑だもんね・・・細い糸と糸がほどけないほどからみあっちゃてるもの・・・私、あの話を聞いて・・・こんなに壮絶な愛のカタチもあるんだ・・・ほんと、自然に涙が流れたの・・・私が由紀子さんだったらどうするのなかな?・・・なーーんか 深いところで

妙につながってしまって・・・もうほっとけない・・・里中君が心配?・・・そんな感じなんだ?・・・」


 いやはや変な展開になってしまいました。なんか袋小路に追い詰められてゆくような感じです。


  時計の針が4時を回り、サークル帰りの田園マダムで店内が混雑してきました。


「ねーー里中君!・・・来週の火曜日は?」「うん・・・バイトなんだ・・・5時まで煉瓦亭!」


「じゃーーーーまた、来週の火曜日・・・今度はお昼に間に合うように、お弁当でも作ってくるわね!・・・」


 店内がざわざわしてます。ほぼ満席になりました。「暁子さん・・・今日はごちそうさまでした。夜のメンバーにも差し入れ渡します。」


 彼女は岩さんに挨拶して階段を下りてゆきました。


 「里中!・・・すごい綺麗な人じゃん・・・センスもいいし・・・いい女!・・・」


「何言ってるんですか?岩さん・・・彼女は俺の親友が好きなんですよ・・・俺はただの代役!・・・」

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