第37話 由紀子の味方 岩手の母

 由紀子がAM12;00を過ぎても、下宿に帰ってこないので、商店街

の外れにある松の湯まで迎えにゆくことにしました。

 小さい路地を抜けて駅前に続く商店街・・・街灯の明かりと時折通過する車のヘッドライトに街並みが浮かび上がります。


1台の大型のトラックが通過して行きます。その時に、前方50メートル先を歩く由紀子を発見しました。


 ライトに照らされた、赤のマンシングのスタジャン・・・由紀子のお気に入りの

ジャンパーでした。右手にお風呂SETを下げています。間違いありません。


たぶん 由紀子も俺を確認したと思います。2人の歩幅が早くなり、接近しました。


「ねー貴方・・・迎えに来てくれたの?」

「だってさ・・・約束どうり、PM11;00に帰ってきたのに、AM12;00過ぎても、待ちぼうけ・・・さすがに遅すぎると思って心配になったんだ・・・」


「ごめんなさい・・・今夜、実家に電話したの・・松の湯の前にある公衆電話から・・・湯冷めの心配があったから、お風呂に入る前に電話したのよ・・・20分以上話していたから、お風呂に入ったのが、11時近くだったと思うの・・・」


「そうなんだ・・・解ったよ・・・」詳しい話は部屋ですることになり、急ぎ

下宿に戻りました。

 1度、自室に戻った彼女がこの部屋のきた時には、AM12;30を

過ぎていました。

 炬燵に入り由紀子が持参したミカンをむきながら、電話の様子を聞くことになりました。

 丁度・・お父さんは同級生達との飲み会があって不在・・・

お母さんにすべて打ち明けたようです。


「お母さん・・・私が夏休みに帰省した時から、うすうす感づいていたみ

いなの?・・・あの頃、貴方によく手紙を書いていたでしょ・・・貴方からは

たった2通しか返事が来なかったけど・・・山梨の男の人から手紙が

2度来たのをはっきり覚えていたわ・・・そして貴方の名前もちゃんと記憶しているのよ・・・妹からも私の様子を聞いたりして、今回の引越しも

たぶん、そんな理由じゃないかな?と思っていたんだって・・・」

・・・お父さんは・・・

 「大屋さんから娘の引越しの理由を言われ時には、ずいぶん

ショックだった見たいだけど、今はずいぶん落ち着いてる様子だって」


 何も知らない免疫がない父親がいつも損な役回りなのです。

母親は方々にアンテナを張り巡らして、娘の動向を探ろうとします。

場合によっては、俺からの手紙も読まれている可能性もあります。

読まれて困るようなことは、書いていませんが、やっぱり母親強しです。

俺達の事で父親と母親のちいさなバトルもあったようです。


 父親はおまえの躾が悪いから、こんなことになるんだ・・・一方、我が娘を

何故、信じてあげようとしないと迫る母親・・・詰まるところ軍配が

母親に上がったようです。

 「ねー貴方・・・お母さんが・・最後に言ったことがあるの?何だと思う?」

「そんなの・・・解るわけないじゃん・・・」

「そーよね・・・解る訳ないよね・・・私もほんとにびっくりしたんだ・・・」


 「お母さんの話しって、お父さんとの事なの・・・お母さん、お父さんの

事が本気で好きで、どうしても一緒になりたかったの・・・でもお父さん

との事をおじいちゃんが物凄く反対して、勘当寸前だったのをおばあちゃんが助けてくれて、晴れて結婚できたんだって・・・私もはじめて聞いた話し

なんだ・・ウチの両親も結構やるなー」

 「お母さん・・21年前の事を話したら、お父さん、急におとなしくなって、最後には娘を信じるしかないとう結論になったみたい・・・」


「ねー貴方・・・なんかボンヤリしてるけど

ちゃんと聞いてる・・貴方の存在は実家では既にオープンなのよ・・・

それでお父さんが25日に上京した時に、貴方に逢いたいだって」


 えーと言う感じでした。由紀子の親父さんが逢いたい・・・勘弁してよ・・・

まだ20歳前なのに・・どうしてこうなるの?頭の中が混乱していました。

なにを話せば、何を聞かれるのか?そんな思いがグルグル回ります。


「ねー貴方!・・もう逃げられないでしょ・・25日は夕方6;00からの

バイトでしょ・・とにかく、お父さんに逢ってね!」

「ねー貴方・・さっきから、ずっと黙ってるけど、貴方らしくないわ・・

いつもの調子で・・なるようになりますように・・・でしょ」


 完全に由紀子のペースでした。心の乱れを隠そうすれば、直ぐ

見ぬかれます。仕方ありません。どんな展開になってもいいじゃん!

開きなおるしかありません。

「解ったよ・・・親父さんにきちんと逢って挨拶もするし、話もするから、心配しないで・・・」

「ねー貴方・話しがついたから・・・今夜は貴方のとこに泊まってく

わ・・・いいでしょ」

 勝手にすればいいじゃん・・・本来ならば父親

に責められて、今夜も泣き虫由紀子になるかもしれなかったのに・・・

 なんか立場が逆転しています。母親という強い理解者を味方

につけた由紀子・・・笑顔がこぼれています。

   人生・・・やっぱり「なるようになりますように・・」

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