千奈美ちゃん。「最終決戦!」
大通りから外れて車が走れないような細い道を歩いて子どもたちから置き去りにされたみたいな寂しい公園を突っ切って、「売却済み」の立て看板の空き地を横目に通っていくと「一本道」の坂道に出ました。
閑静な住宅が一望できて遠くの方には「空」と「陸橋」が同じ高さにあって、ちょうど電車が走っていました。そして、そのうえにお月さまがあるのでした。
「うわー。素敵!」
「でしょ」
ノッコは自慢げに言いました。
住宅街を「あみだくじ」のようにいろいろ歩いていって、「ここ」とノッコは立ち止まって言いました。
ミニマリズムを極めたスタイリッシュな一軒家です。辺りは暗くてよくわからないけれど、シルエットが「四角四角」していました。
「新築だよ」
玄関先に立つとランプが自動で点灯しました。一目で数えきれないぐらいのプランターがあっていろんな花がシャンティに咲いていました。
「押すよ」
「うん」
ノッコは呼び鈴を鳴らして、「ごめんくださーい」とドアを開けて入っていきました。
新築の香りがひろがって、「ぽかぽか」暖ったかくて千奈美ちゃんは目を「しばしば」させました。
キッチンと思われる方から大人の女性の返事がしました。司馬くんの「マム」でしょう。エプロンで手を撫でながら「パタパタ」スリッパを鳴らしてやってきました。
『う!? ……意外……』って顔を千奈美ちゃんはしました。まさかあの司馬くんの家から「宝塚」みたいに美人なお母さんがでてくるとは青天の霹靂だったのでしょう。
「こんばんはー!」
挨拶をしたノッコは、千奈美ちゃんがはじめて見るノッコの「素顔」のようでした。
「あら。「ノッコ」ちゃん大きくなったわねー」
司馬くんの「マム」にも「ノッコ」と呼ばれていることを知って、千奈美ちゃんは目を細めました。
「おばさんそればっかりー」
「だってほんとなんだもの」
すると、階段からは、「とことこ」と足音が。階段は玄関と逆向きにあって手すりから女のコが顔をだしました。「あー! やっぱり先輩だー!」
「よ!」
ノッコは、また千奈美ちゃんの知らない顔をさせて遠慮ぎみに手を挙げました。
女のコはまるで、「恋人」みたいにノッコの腕に絡みつきました。司馬くんの「マム」似の美人さんでした。千奈美ちゃんが圧倒されたのは言うまでもありません。
「接待」は娘に任せた、という感じで司馬くんの「マム」は階段のところへいきました。「りつちゃーん! 「ノッコ」ちゃんきたわよー」
『う!? ……あいつ「りつちゃん」って呼ばれてるのか……』とぼくが千奈美ちゃんの気持を「代弁」しておきます。
「兄ちゃんに何の用なんですかー?」
「うーん。どっちかというとこっちの方かな」とノッコは、千奈美ちゃんを指差しました。
「じーっ」と千奈美ちゃんは女のコから上目づかいで見られてしまいました。
「……もしかして」、女のコは、まだ千奈美ちゃんを見ています。「『チョコ』だー!」
テンションが上がった女のコは、「雨ごい」のようなヘンテコなダンスを踊って、『チョコ』という固有名詞を連呼しました。
千奈美ちゃんは顔が真っ赤です。
「すげえ! 兄ちゃん! 『チョコ』がきたよー!」
女のコは嬉しくなって、いつの間にやら靴箱のうえに寝そべっていた、どことなく頭の大きな丸っこい「猫」にも報告していました。
ノッコは、「ぷ」っと吹き出しそうになって頬を緩めました。
ぼくが千奈美ちゃんの為に「フォロー」しておきましょうか。
『なんか! ロマンチックじゃない!』。
追い打ちをかけるように、司馬くんの「マム」は、「ガールフレンドが『チョコ』よー!」と言いました。
階段を下りてきた司馬くんの腕を女のコがひっぱって連れてきました。朝よりもひどい「寝ぐせ」がついています。「授業中」、「十分休憩」、「お昼休み」とあれだけ寝ておいて、また寝ていたのでしょうか。
「兄ちゃんと付き合ってるんですかー?」
「う、ああ……」
しどろもどろになってしまう千奈美ちゃんです。
「先輩? 兄ちゃんの「恋人」なんですかー?」
女のコは、「指」を千奈美ちゃんに「つんつん」させて甘えた声で言いました。
「どーだろーね。あたしも『チョコ』あげたけどね」
「すげえ! 兄ちゃんってモテるんだ!」
女のコは、目をくるくる回して靴箱までよろけていきました。「猫」は警戒して、「招き猫」の姿勢に変えました。
「どーぞどーぞ」と女のコは、司馬くんを差し出しました。
司馬くんの顔を見て、千奈美ちゃんは
「待っててって行ったのに……」
唐突に沈黙は訪れました。「何か」察した女のコは、司馬くんの腕を揺すります。
「……「五分」って書いてあったから……」
「それにしても……ひどい」
『あれあれあれー……』って、
「……ごめん」
「これ」
千奈美ちゃんの『チョコ』です。それはそれは、「素敵」な包装紙でした。でも、「ラッピング」は素人っぽいです。
「あ、ああ……」
「兄ちゃん、お礼、言って」
女のコは、もう我慢できませんでした。
「あ、り、が、と、お」
司馬くんは、『チョコ』を受け取りました。
「手作りですかー?」と女のコは言いました。
「うん」
「ひえー!」、女のコはまた目をくるくる回してしまいました。「すげえ! 兄ちゃん二個ゲットだあ!」
「さゆ、梨月二個じゃないよ。四つだよ」
「まあ」
司馬くんの「マム」はとても喜ばしそうに微笑まれました。
「すげえ! 兄ちゃんカッコいい!」、女のコは一段と盛大に「雨ごい」ダンスを披露しました。「じゃあ、ママとあたしの入れれば六個だあ! すげえ! 兄ちゃんすげえ!」
ノッコはおかしくて、今度ばかりは吹き出してしまいました。「それじゃあ、そろそろいこっか」
「「ノッコ」ちゃん、これ持っていって」
司馬くんの「マム」は、イマドキめずらしい不二家ネクターの「ピーチ」ジュースをそれぞれに持たせてくれたのでした。
「えへへ」と女のコは嬉しそうです。「兄ちゃん。駅まで送ってったら」
『ドキン!』となったかどうか、は、ぼくにはわかりません。ただ千奈美ちゃんは、司馬くんの家に訪問してからというもの、殆んどずうっと顔が真っ赤でした。
「うん」
あんがい素直に司馬くんは、こくん、とうなずきました。
「兄ちゃん罪滅ぼしのつもりなんだー」
司馬くんは、千奈美ちゃんと同じぐらい顔が赤くなりました。
「それじゃあ、あたしたちはこれで。おばさんお邪魔しました。「さゆ」、またね」
「気をつけて帰るのよ」
「先輩またきてねー」
女のコは、ドアが「バタン」と閉まるまでずっと「バイバイ」手を振っていました。
「ほんじゃ、あたしは帰るね」
「うん。ありがとーノッコ」
ノッコは自転車に跨って、「キコキコ」去っていきました。正面を向いたまま、「バイバイ」と手を挙げて。
『付き合ったら何がしたい?』。
『下校を一緒に帰る』。
今、千奈美ちゃんの隣では、司馬くんが一緒に歩いているのでした。
車が一台、「二人」を追い越していきました。知らない人から見たら「二人」は「恋人同士」に見えるのだろうか。
高二の『バレンタインデー』。千奈美ちゃんは、ちょっぴり「幸せ」なのでした。
司馬のせいで、千奈美ちゃんの『ラブコメ』がなんか違う!? 島村春穂 @shunpo
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