96話【踏み出す一歩、私の一頁】
◇
「そ、それで……どうやって行くの?」
時間は深夜だ。しかも馬車は使えない。歩いて行こうにも、そんな事をすれば時間はあっと言う間に朝だろう。しかし、そんな事は一切気にしていないローザは、手に持った《石》をエミリアに見せつける。
「【消えない種火】……?」
赤い赤い宝石のルビー。ローザの全てとも言える《石》だ。
この城に来てからは、ローザは
その理由は様々だが、ローザ自身が
「私の全て……【消えない種火】。この《石》のお陰で私は生きてこれた。でも、この《石》が
それは、元の世界では絶対に
それが自分の運命だと思っていた。だが運命は、こんなにも簡単に転がるものだと知った。
「私の大切なものが泣いていたら、助けるのは当然なのよ」
「そ、それって……」
「言わせないで。
「う、うん……」
言わせないで欲しかった。
エミリアは心配そうにしながらも、ローザの言う通りに離れ見守る。
赤面しながらも、エミリアが離れた事を確認し、ローザは《石》を右手の甲に着ける。
人生で初めて出来た友人の為に、ローザは再び《石》をその身に着けた。
「……くっ……」
一度
初めて使用した時のように、全身を炎で
「――ローザ!?」
少し離れていたエミリアが、心配そうに
「平気よ。こんなの、初めての時に比べれば……なんでもないわっ!!」
そうは言うが、実際は相当の痛みだった。
初めて《石》を身に着けた時とは違い、《石》は
まるで
「《石》が、ローザの手に……
まるで、一体化していくかのように。
「ぐ……ぐぅ……」
歯を食いしばり、その
痛みに
ポタリポタリと床を汗で
直接的に手の甲に着けていた時とは違い、《石》は
そしてローザも、それを受け入れている。
(……分かってる。
ローザは目を
その《石》の
◇
ローザが目を開けると、そこは炎の世界だった。
誰もいない空間に自分だけが
だが、ローザは意を決して進む。その者が待つ
(昔から、【消えない種火】の中に誰かがいるって……
《石》の奥底から感じる、
ローザを
それを追うと、この世界
――炎を
「あなたが、【消えない種火】の
ローザが
炎を
虹色に
『――
「……フェニックス……」
炎鳥、フェニックスは
『……一度逃げ出したお前が、まさか《石》の
「……」
『しかし、覚悟は見事だ。以前のような
以前というのは、ローザが初めて【消えない種火】を身に着けた時の事を言っているのだろう。
“天使”ウリエルに
「……
『当然だ。
「そう、でしょうね……」
フェニックスは目を細めて、ローザに問う。
『……お前がこの場に来た理由……再度、力を求めるのは何の為だ。まさか、あそこにいる小娘を助けるなどと、
そこには、苦しみ汗を流すローザを心配するエミリアの姿が
「……」
一瞬、
そしてそれは少し前の自分自身と、全くの
「――私があの子を救えたら……それはそれでいいのかもしれない……でも」
ローザはフェニックスの顔に手を
「でも……私ではあの子を救えない。救うべき人物は――他にいるから」
『……では、
「――そんな事はさせないわ……私が、いえ……私たちが」
それでも、
『確かに。
「私にそんな
ローザは炎鳥の言葉に笑みを浮かべながら、答える。
「でももし――その時が来たら……頂にいるのは――」
言わずとも、フェニックスには理解が出来た。
その虹色の
『――フハハハハハッ……そうか、そこまでか!あの者は』
バサリと翼を広げ、炎を舞わせて実に
反動で尾がローザにペチペチ当たっている。どうやら熱くはないようだが。
フェニックスはローザの回答を気にいった。
正確に答えた訳ではないにもかかわらず、その意思をはっきりと理解して、笑ったのだ。
「そこまで笑う?」
ローザは少しムッとしながらも、自分でもおかしな気分だと
『
「そうでしょう?」
『ああ――だがな』
「……え?」
そのフェニックスの言葉を。
ローザは今後の生において、何度も何度も思い返すことになる。
◇
「……」
『……』
理解したくはなかった。しかし思い当たる
聞き終えたフェニックスの言葉を考えながらも、ローザは。
「
『確かにその通りだ……
そう言って、フェニックスは姿を炎と変えていく。
炎はやがて形作り、《石》となった。
【消えない種火】のようであり、しかし違う存在のように、ローザは感じた。
《石》となったフェニックスは、ゆっくりとローザに
「……力を貸してくれるの?」
『貸すのではない。一つになるのだ……よいな。お前は……もう
「……“精霊”として……」
体内に感じる《石》の熱さと、その力の全てを共感し。
格別
それが今、一番必要な力だと分かっているから、だからこそ
『――ローザよ。今よりお前は、“精霊”フェニックスだということを
フェニックスは、満足げに
“精霊”フェニックス。
不死の力を持ち、聖なる炎と魔の炎、両方を
生まれ変わったローザの新たなる力、いや……新しい存在。
『……感謝するわ。さぁ……行きましょう、フェニックス』
◇
《石》は、完全にローザの右手に吸い込まれていった。
「はっ……はぁ、はぁ……」
「――ローザっ!」
ガクリと
心配そうにするエミリアをよそに、ローザは見た事のない笑顔で。
「フフフ……見てたわね?エミリア、私は……進んだわよ。一歩、進んだ!」
「うん!うん!!」
休む間もなく、ローザはエミリアの肩に
「――飛ぶわよっ!」
「うん!……――えっ!?」
突然の
「――すぅー」
深く息を
「【
言葉と同時に一瞬で、ローザの背に
メラメラと燃えているが、熱さは感じなく、どちらかと言えば心地いい感覚に、エミリアは。
「……
ばさりと広がる翼は、炎の鳥のように燃え
それはローザの思いと、《石》に秘められた
「――行くわよ。フェニックス!!」
【消えない種火】。
その
“悪魔”あるいは“精霊”である、フェニックスが封じられた【
この事実を隠して、“天使”ウリエルはローザに
そして今、“
だからこそ、知りもしなかった技を使う事が出来た。
「フェニックス!?何そ――」
「――ふっ!」
「れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
エミリアの疑問は完全スルーし、ローザはエミリアを
二人は、月が
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