94話【悩みは尽きず】
◇
エミリアは、いつの間にか自室に戻って来ていた。
レミーユは
そう、思っていたが。
ドアを開けて部屋に入ると、そこには
「――お帰り」
「……ローザ。寝てなかったんだね」
「ええ。タイミングを逃したわ」
少しだけ、ほんの少しだけ腹が立った。
「熱いの平気なの?」
「これはアイスティーよ」
フーフーしてたじゃん。とは言えずに、エミリアは「そ」と言いながら上着を
しかし手が
(……手が、
「――エミリア」
「――!」
いつの間にか、ローザが後ろに立っていた。
「な、何……?」
「……何でもないけれど……ほら、後ろを向いて?」
エミリアは、やたらと気にかけてくるローザを
「……」
「……」
無言のまま、エミリアは
「はい終わり」と、ローザがポンポンと肩に手を置く。
その優しさに。つい。
「ローザ。私……戦場に行かなくちゃいけなくなった……」
「……」
ローザは何も言わない。エミリアの言葉を待っているのだ。
「私、
突然の
話は後半だったため、その
だが、ここまでの帰り道、自分がどうやって戻って来たかを覚えてはいない。
「怖くて……騎士学校も、【聖騎士】に成りたかったのも……私は、全部……エドの……」
幼馴染の“不遇”を解消したい。
それが全てだった。
しかしエミリアにはそれが全てであり、何事をするにも動機はエドガーだった。
「
【聖騎士】とは国を守るための
それを変えたくて、ロヴァルト兄妹は頑張って来た。
「初めは……私、エドが“不遇”職業だなんて知らなくて……ただエドを守りたいって、エドは弱っちいから、私が守ってあげなくちゃって、思ってて……」
「……」
暗い室内で、
「理解してるよ。国の為、私は戦わなくちゃいけない……その為に
「怖い……死が、目の前に来て……私も、戦いで死ぬかもしれないって……思っちゃって……」
事前の知識はある。【ルウタール王国】は強くはないと何年も前から頭に叩き込んでいる。
しかし、一度
「怖いよ、ローザ……私、死ぬのが怖い……怖いよぉぉ……」
「エミリア……」
ローザは、エミリアを背後から
ギュッと
「怖い、怖いよぉ……エドぉ……エドに会いたい、エドぉぉ……」
(この子が怖いのは、戦う事じゃない。自分が死ぬことじゃない……きっと、エドガーに会えなくなる事だわ……一瞬でもそれを考えてしまえば、一度
エミリアがエドガーに特別な思いを
初めて会った時に
「うぅぅ……ぐすっ……」
回されたローザの腕を
(普段のこの子なら、きっと
一度思ってしまったネガティブな
普段どこに行ったか分からない顔をして、その
きっと、エミリアの心が弱いのではない。
だから、ローザに出来る事。それは。
「――エミリア。会いに行きましょう……」
エドガーに、エミリアを合わせなくてはいけない。
「……え……?」
この子を、このままにはしておけない。
「少し早いけれど……ローマリアに言ってくるわ。少し待っていなさい」
ローザは腕を
エドガーにするようにエミリアの頭をポンと叩き、ローザは笑顔で言う。
「――私は、親友を泣かせたままにしておくつもりはないから……」
「……ローザ……?」
部屋を出ていくローザの手には、赤く
一人になったエミリアは、ぺたんと座り込み、その時を待つ。
それしか、今のエミリアには出来なかった。
◇
ローザは城内を
ここはローマリアの
「――お止まり下さい、ローザ・シャル殿」
二人の騎士が、槍を合わせてローザの進行を
「悪いけれど、通してくれないかしら」
「出来かねます。普段ならともかく……残念ながら今日からは
おそらくローマリアと面会させないつもりだろう。それだけ、セルエリスはローザを
「どうしても?」
「「どうしてもです」」
仕方が無い。と、ローザが手を出そうとした瞬間。
「――
「「!」」
「――メイド騎士……」
「――ノエルディアよ!いい加減覚えて!……ゴホン。まぁいいから、ローマリア様も待っているから。いいわね?」
メイド服の【聖騎士】ノエルディアは二人の騎士に、そっと
そしてぼそりと何かを
「……どうぞ、私は何も見ておりません」
「私もです……」
「いい心がけね。いきましょう、ローザ・シャル」
「……」
少し歩き、ローマリアの部屋に近づいてきた二人。するとローザがノエルディアに。
「
「一番簡単でしょ?それにあいつらは、元々第二王女
「何か言ったみたいだけれど」
「あ~。あの騎士、最近子供が生まれたのよ。んでもう一人は……その
「……もしかして……」
あの騎士二人は、デキていたのだ。
片方は
しかし実態は同性愛を
「言わないであげてね?」
「そんな
恋も愛も、人それぞれなのだ。それが
「それならいいけど。んじゃ、
「ええ。そうね」
ノエルディアはどうやら、ローザが城の衛兵を倒してしまう事を恐れたらしい。
実際、ローザは強行をするつもりだったのだから、何も言えないが。
ノエルディアからそう言って貰えて、ローザとしても実に
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