間話【天使奔走】



天使奔走てんしほんそう


 朝焼けで赤くられた聖王国に、一人の旅人が到着した。

 転移てんいと飛行で最速を目指し、魔力を消費しょうひしてでも急がなければいけなかった人物。

 “天使”スノードロップ・ガブリエル。

 彼女は、その目立つ白銀はくぎんの髪をフードで隠し、【王都リドチュア】の東、【下町第五区画メルターニン】の大門から王都入りした。


「……相変わらず門番もんばんすら無し……警備けいびしている兵も極少数ごくしょうすう……正直言って、ふざけているとしか思えませんが」


 目的地は、宿屋【福音のマリス】。

 【召喚師】エドガー・レオマリスのいる、この国でもっと安全な場所・・・・・だ。

 以前、転移てんいで【召喚の間】に《石》を配置はいちした場所だ。

 その事実はスノードロップとノイン、そしてシュルツ・アトラクシアしか知る事は無いが。

 その結果は、異世界人メルティナが“召喚”されると言うものだった。


 【召喚師】の戦力増強をねらった結果、それは予想のななめ上を行った。

 しかも、“魔王”フィルヴィーネの《石》である【女神の紫水晶ネメシス・アメジスト】を配置はいちしていたのも、スノードロップだ。


「……王都自体、来るのは十数年振りですか……」


 まさか、戻って来る事が出来るとは。

 嫌な別れ方をして、スノードロップとノイン、そして【魔女】ポラリスはこの聖王国を離れた。

 それから十数年、前回は王都には入らずに、北の荒野こうやで少し場をかき混ぜる事をした程度。

 王都内に足をみ入れたのは、実に十五年振りだった。


「彼が、2歳の時以来ですか……」


 姿自体は、前回確認した。

 実際じっさいこれから会いに行くとなると、なんだか緊張きんちょうしてしまう。


「問題は……ニイフ様ですね。彼女は《空間魔法》を得意とくいとしていますし……その後は、もう一人――緑の彼女・・・・にかけた《魔法》が生きているかどうか……確認しなくてはなりません」


 同じ世界の知り合いである“魔王”フィルヴィーネ。

 そして前回戦闘し、《魔法》をかけたメルティナがどうなっているのかを確認するために、スノードロップは早速行動を開始した。





 スノードロップはまず真っ先に、自分の認識にんしきらす《魔法》をかける為に動いた。

 路地裏ろじうらに入り誰もいない事を確認すると、フードを脱ぎ捨てて。


「……屈折くっせつする光の結晶けっしょうよ、天の加護かごのもとに集まれ……【消え去る認識バニッシング】」


 光に包まれ、白銀はくぎんだった髪は茶色に。

 身長も少しちぢみ、表情かおすらも優し気に変わる。

 服装も、一般的な旅人の軽装けいそうとなるように魔力をめた。


「ふぅ……充分でしょうか……それにしても、い、意識しぎましたか?」


 深層的しんそうてきに、彼女を意識いしきしてしまったかもしれない。

 やはり、この国は思い出の場所。最愛の友である彼女が愛した国と、その子供たちがいる場所。

 偶然ぐうぜんとはいえ、やりぎかも知れないと反省はんせいしつつ。

 次はみずからの《石》である【運命の水晶デスティニー・クォーツ】の隠蔽いんぺいだ。


「……【魔封光シール・ブライト】」


 一瞬だけ発光はっこうした右手を、胸元に持っていく。

 そして胸についていた《石》を外し、しまう。

 この《魔法》、得意なジャンルなだけに、効果は完璧なはずだ。

 確認のすべも、【福音のマリス】へ行けば分かる。

 地下室の【召喚の間】へ行けば、もう一つの《石》が今も眠っている筈だ。


「――さぁ、これでいいでしょう。後は【召喚師】に……エドに会いに行けば、彼の物語は進むのです」


 そうして、スノードロップはドロシーとなって、エドガー・レオマリスと出逢う。

 彼の知らない十五年ぶりの再会は、この後ぐにおとずれるのだった。

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