52話【逃亡者「その2」】
◇逃亡者「その2」◇
静かに降り続けていた雨は、
ガタゴトと走る馬車の中で、帝国
そんな中。
「お姫様、そろそろ【コルドー村】付近ですけど。ヘルゲンがこの近くでレイスが倒れたと言っていますが」
「――!」
白馬ヘルゲンは、ここが黒馬レイスと別れた場所だと覚えていたらしい。
それを、
ノインは動物と会話が出来るらしく、ヘルゲンの言葉を
「
「ごめん」とノインは
雨のせいで泥の
「そんなことは無いわ……ここまでこられたのも、あなたとヘルゲンのお陰。本当にありがたい事よ、でももう少し……もう少しだけ、頑張ってくれる?」
リューネだったらどうするか、それは
付き合いはまだ浅いが、
もしかしなくても、黒馬レイスは
それは、悲しいかな理解出来てしまう。
それならば、その後のリューネがどう行動するか。
「ノイン。【コルドー村】へ向かってくれるかしら」
「
「……まだ、戻らないわ」
“天使”スノードロップは、後ろの
「様子を見てきます~」と飛んでいったのだが、もう
「そっかぁ……追手に見つかってなきゃいいけど」
「……そうね」
心配そうに、外を見る。
雨はますます
(嫌な
音を
まるで、逃亡するエリウスの
◇
馬車がゆっくりと
もう
しかし追手が先回りしている可能性も考え、少し遠めに馬車を
ヘルゲンを雨に当たらない様に
「リューネ……」
予想が正しければ、リューネは村に居るはずだ。
「大丈夫だよお姫様、ヘルゲンも言ってるから」
レイスについてもリューネについても、心配はいらないと言うノインはフードを被る。
獣耳を隠す為だ。
エリウスも、その青い髪を隠す為にフードを被った。
「じゃあ行きましょうか……それとノイン、お姫様は
「うん、お姫様」
「いや……だから」
言った
帝国の
この村には
それだけに、簡単に知られるわけにはいかない。
「いっくぞ~、おお~!」
「あの……話……」
(大人の姿の時と、本当に別人のようね……
ノインは
エリウスはため息を
ノインのような明るい性格の人が苦手なタイプなのだと、この時初めて思ったエリウスだった。
◇
草を
目に見えるのは数件の家と小屋、それに
「
「……ダメだね。雨で完全に流されてる……」
ノインは、
リューネがエリウスと一緒にいる事が多いからだ。
それにレイスが生きているとすれば、ヘルゲンの
しかし、降り続ける雨はその
「まぁいいわ……それに兵もいないようだし……ね」
「そーだね」
草むらから顔だけ出すマヌケな格好だが、
ポンポンと草を
「村長の所に行きましょう。彼なら何か知っているかもしれないわ」
「うん、分かった」
村長とは、
気さくで優しい普通の老人だったが、もしラインハルトの追手に先手を打たれていれば、それもどうか。
エリウスは緊張しながらも、ゆっくりと歩き出した。
◇
雨のお陰か、外に出ている村人はほぼいなかった。
ノインは
もしこの村にリューネが
それだけは
エリウスは
ましてや
「宿屋ないね、おひ……エリウ……え、えっと……」
この子は本当にあの時のお姉さんと
エリウスは本気でそう思った。
「シャルでいいわ」
「シャル?」
「ええ。シャルミリアだから」
エリウス・シャルミリア・レダニエス、それが本名だ。
シャルでもミリアでも、呼びやすければ何でもいい。
この村の人が分からなければいいのだ。
「――分かった、シャル!次はどうする?」
「しっ、声が大きいわ……
「ぅ……ごめん」
ノインはフードの中の獣耳をシュンとさせて、とぼとぼとエリウスに付いて行く。
エリウスはゆっくりだが、
一軒一軒の窓、入り口、小屋、しっかりと確かめながらリューネを探す。
「あそこが一番大きいね」
この村で一番大きく、屋根が一軒だけ青い。
他の家は全て統一されて屋根の色は茶色だった。
それはつまり、特別だという事だろう。
「ええ、あれが村長宅よ……居てくれるといいけれど」
確認すると。雨とは言え、昼間なのにカーテンは閉め切られていた。
村長宅は
「……」
「二階に
リューネがいるのだろうか。
村長の家族は、夫人、娘夫婦がいたと記憶している。
三人では一人足りないが。
「行ってみましょう……ノイン、悪いけれど……
「うん。任せて、シャル」
◇
コンコン。と、エリウスはフードが
これで、
見えるのは
「……は、はい……」
ノックに対応したのは、一人の女性だった。
ガチャリと、
エリウスも緊張気味に。
「――申し訳ない……ここに人が来ていないかしら。わたく……私と同じ年頃の、緑っぽい金髪の女の子なんだけど……」
同じ年頃というのは少し間違えたかもしれない。
エリウスは15歳だ。リューネは17歳。
もし、見た目で
「……えっと……もしかして……
「!――……い、いえ……違う、違います……」
女性は明らかに
そりゃあ顔も見せない、言葉もたどたどしい者など、
エリウスは初動のミスをカバーするため、リューネの名を出す。
「さ、探しているのは、リューネと言う少女なのだけれど……いないかしら。その……本当に探していて」
「……あなた、その子とは?」
関係性だろうか。しかしそれを聞くという事は。
「……」
関係性を正直に言うべきか。
リューネが居なかったとして、もし罠だったら完全なる失敗だ。
しかしエリウスは、意を決する。
「と……友達、です」
それは
リューネなら、もしかしたらと。
女性は――フッと優しく笑うと。
手を差し出して。
「――どうぞ。そちらの方も」
ノインにも声をかけて、ドアを大きく開けてくれた。
「し、失礼します」
「おじゃましまーす!」
内心「コラぁっ!」と思ったが。
エリウスは
ドアの先にはテーブルがあり、一人の男性が座っていた。
「ようこそ。【コルドー村】へ……
「……
「――エリウス様っっ!!」
その声に、エリウスは振り返った。
二階の階段から顔を出して、今にも泣き出しそうな少女が、そこにいた。
「リューネっ!?」
階段を駆け下り、リューネは真っ先にエリウスに
「エリウス様!よくぞご無事で……本当に、本当に良かった……!」
ファサっとフードが
エリウスもまた、泣きそうな顔をしていた。
相当心配してくれていたのだろう。目の下にはクマがあり、眠れてもいなかったのだと分かった。
「心配、かけたわね……」
自分よりも背の高い年上の少女の頭を
「いえ……いえっ……!エリウス様、レイスは……最後まで頑張りました、何度も、何度も立ち上がろうと
「ええ、ええ。分かっているわ……本当にありがとう。レイスは幸せ者だわ……」
別れた後の事を話し始めるリューネだが、村長が。
「エリウス
「あ……ごめんなさい、ありがとう」
エリウスは泣くリューネをいったん
村長からタオルを受け取った。ふと見れば、先程の女性が二階から下りてきた。
リューネに知らせに行ってくれていたのだろう。
ありがたい言葉と、
まるで、何年もかかっていた
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