不遇召喚師と異世界の少女達～呼び出したのは、各世界の重要キャラ！？～

141話【上を見上げれば】

◇上を見上げれば◇

　ハッキリと言おう。くしゃみをしたのはサクヤだった。

　今回ばかりは、空気を読まない事を褒（ほ）めてあげたくなったサクラは、何も言わずにデザートの果実（かじつ）をサクヤの皿に分けた。

「……」

　疑惑（ぎわく）の目でサクラを見返すサクヤ。

　この二人は、どちらも好きなものを最後に食べるタイプである。

　幾（いく）らデザートとは言え、サクラが自分の皿に物を分けたことを、それはもう猜疑心（さいぎしん）に満（み）ちた目で見るサクヤ。

　何だか怖くなったサクヤは、そっとサクラの皿に戻すが、もう一度帰って来た。

「……」

「……！」

「……――っ」

「「！！」」

　あげる。要（い）らぬ。あげるってば。要（い）らぬと言っている。貰いなさいよ！要（い）らぬわ！しつっこいわね！どっちがだ！

　と、何度目かの無言の応酬（おうしゅう）をしていると、メルティナとローマリアが戻って来た。

「――何をしているのですか。食べ物で遊んではいけません」

　メルティナが言うように、サクラはフォークに刺した果実（かじつ）を、半（なか）ば無理矢理サクヤに食べさせようとしていたが、サクヤは両手でそれを掴（つか）んで阻止（そし）していた。

「遊んでないっ！」

「遊んでなどいない！」

「そうですか。仲がよろしいのですね。では座ってください」

　揃（そろ）って反論（はんろん）する二人を、メルティナはあっさりと受け流してエドガーの隣に座る。

　ガルルと聞こえてきそうな二人は。

「「――フンっ！！」」

　シンクロして、お互（たが）いに背を向けた。

◇

　エドガーは静かに食事を摂（と）っていた。

　食べるではなく、摂（と）る。まさにそんな感じで、心ここにあらず。

　メルティナが隣に座っても、何のリアクションもなかった。

「――マスター。地下の処理……完了しました」

「――……え？あっ。そ、そうか……お疲れ様、メルティナ」

　声掛けされて、エドガーはようやく気付く。

　慌（あわ）ててメルティナに感謝をして、報告を聞いた。

「イエス。【召喚の間】の残存（ざんぞん）魔力の回収は滞（とどこお）りなく終了。魔法陣の消去も終わりました。それで、こちらが残った魔力を回収したもの……【マジック・アンプル】になります」

　テーブルに置かれたものを見て、サクラが言う。

「それって注射器（ちゅうしゃき）だよね……」

「イエス。針を収納（しゅうのう）した、使い勝手のいい強化プラスチックで出来ています。これが６本用意できました」

「以前と同じものなのか？」

「ノー。サクヤが言うのは、【解毒アンプル】になります。これは、“魔力を回復”するものですので、別物です」

「――！」

　その言葉（・・・・）に、一番の反応を示（しめ）したのはローザだった。

「へぇ」

「成程……便利なものだ」

　そんなローザの反応に気付かぬまま、サクラとサクヤは【マジック・アンプル】を手に取る。

　サクヤは一度、毒治療（ちりょう）の為に注射（ちゅうしゃ）を受けている。

　猛毒（もうどく）の矢を受けて死にそうになっていたが、幼少期から毒に慣（な）らされて来ていた事と、【解毒アンプル】のお陰で事無（ことな）きを得（え）ていた。

「う……うむ――そ、そうか、刺すのか……」

　ルーリア・シュダイハに無理矢理ブッ刺された事を思い出してか、少し引き気味のサクヤ。

　もしかしたら、注射（ちゅうしゃ）は嫌いなのかもしれない。

「それで、これをどうするの？メル」

「イエス。万が一の時に使用することが目的ですので、一人１本を所持（しょじ）していて下さい」

　そう言ってエドガー、ローザ、サクヤ、サクラに渡す。

「もう１本はワタシが。残りの１本の予備も……ワタシが保管（ほかん）しておきます」

「フィルヴィーネさんには？必要なんじゃないの？」

「……ノー。彼女には必要ないかと。このもう１本は、本当に万が一の時に取っておきたいと思います」

　サクラの問いに、メルティナは否定（ひてい）する。

　フィルヴィーネは、正直異常に強い。

　“魔王”と言われれば、誰でも強いイメージは持つだろうが。

「……」

　【解析（アナライズ）】をしなくても、異常（いじょう）なまでの魔力と覇気（はき）を感じた。もしかなくても、ローザより強いのではと、口にはせずとも皆が思い始めている筈だ。

　そしてそれはきっと、ローザ自身もが思っている事だ。

「メルティナ？」

「――いえ、申し訳ありません。とにかく、６本（これだけ）しかない以上、節約（せつやく）の為にワタシが管理します」

　頑（かたく）なと言う訳ではないが、パワーバランスを保（たも）つために、【マジック・アンプル】は渡さないでおくことにした。

　メルティナの独断で。

　――しかし。それを聞く“魔王”がいた。

「随分（ずいぶん）と楽しそうにしているではないか、我（われ）も混ぜよ――機人（マキナ）の民」

「――！……“魔王”」

「フィルヴィーネさん！？」

「――な、なんでこの人……そんな堂々（どうどう）としてんの……？――裸（・）で！！」

　食堂の入り口の扉に背を預（あず）けて、紫紺（しこん）の髪の“魔王”が、とても偉（えら）そうに立っていた。

「――ちょ！ちょっ！！フィルヴィーネさん！服！丸見えですけどぉ！？」

　サクラが椅子（いす）からガタンッ！と立ち上がって、フィルヴィーネの胸と股間（こかん）を隠す。

「――た、足りなぁぁぁぁい！！【忍者】ぁぁ！」

　手を乳房（ちぶさ）に当てるが、豊満（ほうまん）すぎてこぼれる。

　咄嗟（とっさ）にサクヤを呼ぶ。

「なんでわたしなのだっ……行くけども！」

　サクヤは、ササッと股間（こかん）を隠す。

　堂々（どうどう）と仁王立（におうだ）ちするフィルヴィーネは、恥ずかしさなど微塵（みじん）も感じてはいない。

　自分の恥部（ちぶ）を必死に隠す小娘二人を見て、フィルヴィーネは笑う。

「――フハハハハっ！我（われ）に羞恥心（しゅうちしん）などないぞ！」

「――そういう事じゃないし！！エド君に見せない為に決まってんでしょ！」

「そうではないぞ！主様（あるじさま）が……――って、乳でかっ！！」

　意味が違う！と嘆（なげ）くサクラとサクヤ。

　股間（こかん）を隠すサクヤは、フィルヴィーネの顔を見上げようとして、視界（しかい）を全部下乳に覆（おお）われて、驚（おどろ）いている。

「と、とにかく……何かしら着てください！！」

　目を隠すエドガーの願いで、フィルヴィーネはようやく頷（うなず）いてくれた。

　その間、ローザは一切言葉を発（はっ）せず、只々硬（かた）いパンをスープに付けて食べていた。