131話【魂の器】
◇
――ローザが苦しむ、少し前。
【召喚の間】では、エドガー達がフィルヴィーネを“召喚”する為の
サクラが通訳となり、あーでもないこーでもないと言いながら、様々な“魔道具”を集めていたのだが。
「こんなものかな。どう?フィルヴィーネ……さん」
サクラがフィルヴィーネに、【召喚の間】の中央付近に置かれた数個の“魔道具”で大丈夫かと確認する。
『ウ~ム。確カニ相当良質ナモノガ多イ……シカシダナァ……我ハ魔王ゾ……肝心ノ魔具ガナケレバナ……』
「魔具って、“魔道具”と同じですよね……?何が足りないんですか?」
『……
「そんなもの用意しようがないですよ……
「……
サクラは無理でしょと、
フィルヴィーネに何か言われているようで、ムッとしながらサクヤの手を取って
だがエドガーは、
「マスター。何か考えがあるのですか?」
「……まぁね。でも……
「そんなもの……?」
エドガーは、
しかし確信がないのか、考えがまとまらないのか、
見かねた《石》のフィルヴィーネが、サクヤの手にくっついたまま無理矢理移動を開始し。
「――ぬあぁっ!ちょっ!……勝手に……」
フィルヴィーネに引っ張られるように身体を走らせるサクヤ。
エドガーに迫ってくるサクヤの手は、波を打つように上下に揺れながら近付く。
どうやらフィルヴィーネが
「こらこらぁっ。あたしがいないと伝わらないっての!」
現状フィルヴィーネの通訳、サクラもついてきて。
全員が左の
『
「だってさ」
サクラが伝える。
「……ええ。一つだけ。【
「――こわっ!!」
驚くサクラに対し「ほぼ同じではないのですか?」と、サクヤは
エドガーは「ははは、まあね」と笑いながら。
『【
「それで、どこにあるんだ?だって……」
サクラが通訳。そしてエドガーは、
「……うん。“魔道具”は、この地下と同じ場所にあるよ。父さん……先代【召喚師】の部屋の向かいにある部屋……そこにあるんだ。その
【召喚の間】の入り口を見つめて、エドガーはフィルヴィーネに聞く。
「とりあえず見てみませんか?どんなものか確かめて見て、使えるかどうかを判断してください」
『……イイダロウ』
「オッケーだって」
サクラの通訳はニュアンスが同じだが、フィルヴィーネの言葉そのままを通訳していない。
『オイ小娘……キチント伝エヌカ……』
「いいでしょ。意味は一緒」
『……ムゥゥゥ……ワ、我ノ
サクラの、《現代日本》の言葉使いに。
異世界の魔王は
◇
「……ここです」
「いや、ここって
「うん。そうだよ」
サクラの心配そうな
ジト目で見てくるサクラからの
『
先程【召喚の間】でも思っていたが。
国宝級とも言える“魔道具”の数々を、エドガーは
フィルヴィーネの世界では考えられない事だ。
「ねぇエド君……なんかフィルヴィーネさんが
「……だろうね。そう言えば、ローザも同じだったな……」
エドガーは
キィィィィ――と、扉が
「わたしはここに入るのは初めてです……
「あたしもだって……っていうか、なんか……怖くない?」
エドガーの両腕にひしっと
「……――っ」
「……――うあっ!?……って、メルティナ!?なにして……」
エドガーの背に、のしかかる重み。
一人でエドガーの後ろにいたメルティナが、両脇にいるサクヤとサクラを見てやきもちを焼いたのだ。
「えぇっ!?メ、メル!?」
「メル殿……やりおるな……」
と、驚いていたが。一番驚いたのはエドガーだったし、それに地味に重かった。
決して口にはしないが。
「ワタシもー、怖いのですー」
目線も
『オヌシラ……チャントセイヨ……我ノ身体ヲ
通訳サクラは、それを無視した。
本当に
しかし、伝えたいと思った事を軽々とスルーするその性格は、
その人物を思い出して、フィルヴィーネは。
『……不安ダ……』
◇
暗い部屋でランプに火を
ランプはうまい具合に部屋を明るくして、
『……フザケテオル……何トイウ事ダ』
サクヤに持たれた
『――アッ!コラ小娘ェェ!』
「――ふみゅっ!!……痛ったいなぁ!」
『痛イデハナイ!ソノ手ハナンダッ!!離スガイイ……』
サクラの手には、指でつまんだ布切れが。
それを見たフィルヴィーネが怒っているのだが。
エドガーには、
(そう言えば、ローザもエミリアに怒ってたな……)
どうも、フィルヴィーネは“魔道具”に
それはつまり、ローザの世界と似た世界の人物な可能性が高い。
「あ~もう、分かった分かった……ごめんって」
サクラは、手に持った布切れを元に戻す。
しかし、エドガーは。
「――あ、ごめんサクラ。フィルヴィーネさんの話を聞きたいから、頭につけといてくれるかな?」
「ええぇ……」
実に嫌そうに、口をへの字にしながら元に戻す。
『
「ははは……フィルヴィーネさん。この中にあるんですけど、分かりますか?」
『――ン?アア、【
フィルヴィーネが言う“そこ”には、何重にも重ねられた本がある。
何とも
「よっと、これ……ですね……」
エドガーが取り出して、テーブルの上に置く。
「……マスター。今後はここの
「そ、そうだね……そうしようか」
メルティナが、
エドガーに頼むメルティナの姿は、とても真剣だった。
それだけサクヤ達の事を考えていてくれているのかと、エドガーは嬉しくなった。のだが。
「
「……う、うん。そうだよね」
やはり、自分の事を考えていたらしい。
それでも、
◇
テーブルの上に置かれた木箱のサイズは、縦45センツ(cm)横30センツ(cm)の大きなものだった。
奥行きは15センツ(cm)程で、【
サクヤは、皿が入っているのだと思っているのだろう。
メルティナに「話を聞いていましたか?」と言われて、顔を
「――【
ごくりと
ホラーはあまり好きではないので、
ただキチンと
『ソレガドウカハ、我ガ決メヨウ……サァ、封ヲ開ケヨ……エドガー』
「分かりました。確認をお願いします」
そう言って、エドガーは木箱の封を切る。
「エド君……あたしの世界だと、そう言うお札は
「――あ、それは同じだね。よかった」
何がだろうか。
「ノー。サクラ、安心してください……この札に、そう言った効力はありません」
「マジで……?信じるよ!?」
「イエス。大丈夫です」
どうやら、わざわざ
『ハヨウセイ。エドガー』
エドガーはフィルヴィーネに急かされながら、木箱の
その中には。
「……うわ、ぁぁぁ……」
サクラの
メルティナはそうでもないっぽいが。
『……
「【
『――アア。ソウダ……
どうしてこんな
だが結論は出ない。当然だ。フィルヴィーネは、長い年月をこうして
元の世界から、
それも、盗まれた【
身体は、今も元の世界にある。
しかし、こんなに面白そうな世界は初めてだった。
そして、自分の見知った世界の、
――
『決メタ……決メタゾ……エドガーヨ』
「決めた?いったい何をですか……?」
自分の中で考えがまとまったフィルヴィーネは、《石》の身でありながら
『――決マッテイル……我ガ求メルノハ、
「ええっ……!?」
魔王が求める熱中という
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