第4章《残虐の女王が求めるもの》

プロローグ【喧騒の薄紫】



喧騒けんそう薄紫うすむらさき


 エミリア・ロヴァルトと、セイドリック・シュダイハの結婚をけた決闘から二十日。ロヴァルト兄妹の【聖騎士】昇格正式発表はっぴょうから数えて、十三日後の今日。

 【火の月54日】(約5月24日前後)。


 【リフレイン聖王国】の夜空にはじける、火炎。

 霧散むさんする炎弾は、チリチリと光って落ちていく。


 ここは、【王都リドチュア】から北に少し出た場所【ルド川】。

 更に北東に抜けた先にある【ルノアース荒野こうや】。

 夜になったこの場所で、異世界人ローザとメルティナが、ある人物と戦っていた。


「――フハハハハハ!そんなものか!?【滅殺紅姫アナイアレイション・プリンセス】!!効かぬぞ!そんなへなちょこな炎は!!」


「――ちょっ!!……へ、へん、変な名前で呼ばないでっ!!」


 地にいるローザを長ったらしい名で呼び、上空から見下みおろす人影。

 その人物の言葉に、ローザがめずしく狼狽ろうばいしていた。 


 紫紺しこんの髪を膝元ひざもとまで伸ばし。

 露出ろしゅつはげしいボンテージ服を着た妖艶ようえんな女性。

 右手のこうには、薄紫うすむらさきの宝石【女神の紫水晶ネメシス・アメジスト】を付けた新たな異世界人・・・・・・・

 ローザと同じ位置・・・・に《石》を持つ女性は、ひどくさわぎ立つように笑う。


「アッハッハッハァ!――こっちの緑の鳥の方が、幾分いくぶんマシではない、かっ!!」


 そう言って、その女性は背後からせまりを受け止める。


「――そ、そんな……完全に裏を――あぁっ!!」


 ローザに集中していたと思われた女性、その背後を完全に取ったメルティナだったが、その女性は片手一本でいなし、足をつか投げ飛ばす。




 ドッシーーーン!!とぶつかるローザとメルティナを、遠目から見る黒髪の少女二人は、飲み物を飲みながらおしゃべりをする。


「……すっごいわね、あのドエロい人……」


「エロ……そう言う言い方はやめた方がよいのではないか?サクラよ……」


 エロの意味をおぼえた《戦国時代》の少女は――ハムッと焼き菓子がしを口にしながら言う。

 二人は、少し離れた場所で吞気のんきにお菓子かしを食べていた。

 上空の戦闘は“魔道具”【簡易かんいフォトンスフィア】で見ている。

 一般いっぱんには普及ふきゅうしていない、小型のもので。


「だってさぁ……どう見ても女王様でしょ……あれ」


 きわどい水着の様なボンテージに、片手にはむち

 笑いながらローザとメルティナを手玉に取るさまは、確かに女王様のようだった。

 ――SMの。


「女王なのは確かなのだろう?……ではいいではないか、好きにさせたら」


「だから~!あんな服着てエド君の横に居られてみなさいよ……バカ【忍者】!」


「――はっ!……そ、そういうことか……」


 サクラの考えにやっと気づいたサクヤ。

 お菓子かしを食べながらうなる。


「うむむ……」


「――何を言ってるんだい……二人共」


 かわいたみを浮かべながら、異世界人の“契約者”。

 エドガー・レオマリスが、まきを持って帰って来た。


「――ぬわぁっ!!主殿あるじどの!」

「あ、おかえりエド君」


「ただいま……――まだやってたんだね。あの三人」


 エドガーは、【簡易かんいフォトンスフィア】の映像えいぞうを見ると、疲れたようにつぶやく。

 エドガーもサクヤとサクラの隣に座り、自分でれた紅茶を飲む。


 しばら観戦かんせんしていると、戦いが終わったのかしずかになった。

 そして歩いてくる、紫紺しこんの髪の女性。


「は~、スッキリした」


 にこやかに笑う女性の両肩には、ローザとメルティナ。

 女性は、グロッキー状態の二人を投げ飛ばすと、ドカッと座る。


「――では、話をしようか……我を呼び出した・・・・・――【召喚師】エドガーよ……」


 この女性は、異世界の魔王・・

 ――フィルヴィーネ・サタナキア。

 エドガーに好意的こういてき態度たいどをとる、新たな異世界人。

 そんな喧騒けんそうなる彼女との出逢いは、それはもう簡単に始まってしまったのだった。

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