50話【猛犬注意】
◇
【
「皆さん落ち着いてっ!大丈夫ですっ。
大きく手を振りながら、慌てないようにと声を出す少女。エミリアだ。
エドガーの家に向かっていたエミリアは、道中で
揺れ自身は大したことが無かったはずだが。
一人、女性がパニックになって大声を出したところで、下町一区は大騒ぎになっていた。
「押さないでっ!ゆっくり移動して下さい!走らなくてもっ!あ!――大丈夫?おじいさん!」
この
逃げ
ただ皆が向かっている方角に、流されているだけではないのか。
(みんなきっと【
確かに、北門から出られれば、大きく広がる街道と【ルド川】しかない。その先は荒野だ。
逃げるためだけなら正解なのだろうが、なにせ北門は
人通りの多い下町の人間と、高台から逃げてくる貴族の人数が合わされば、門に押し寄せたところで、押しつぶされてしまうだけになるはずだ。
「落ち着いて!北門からこの人数は出られないわっ!
「――うるせぇぞっ!そんなこと言って、お前が一番に逃げる気だろうっ!」
男が叫ぶ。それにつられてか、他の男達も
「そ、そうだ!逃げるのになんでお前の言うことを聞かなきゃならねぇんだ!」
「違いますっ!私は――」
エミリアは下町の
何とか理解してもらおうと声を出そうとするが。
「俺は知ってるぞ!……この嬢ちゃん、そこんトコの【召喚師】によく会いに来てる
――ざわり、と。【召喚師】。
たったそれだけの一言で、住民たちの
――パシンッ。
「――えっ……?」
エミリアに助けられた老人ですら、【召喚師】と聞いただけでエミリアの手を
「違うなら
「そうだっ!
今にも襲い掛かりそうな男達。男の一人が、どさくさの勢いで小さな女の子を突き飛ばし、門に逃げようとする。
「――
エミリアはその男に
「おっ!?な、なんだよ、手を上げんのか?
大げさに両腕を上げながらエミリアを
「――くっ、
(この人……あの時の!!)
エドガーのどこをどう見れば
しかし当然手を出すことも、それを口に出すこともしてはならない。
エドガーに道具の修理を何度も依頼していた、あの
エミリアがエドガーの“不遇”を知るきっかけになった男。
その男のあからさまな
「おいおいっ――怖ぇ顔すんなよ
エミリアがラドックに集中していたせいか、背後の男に気付かなかった。
「なっ!――なにをっ!?」
突然
「は――
ジタバタと足をバタつかせるも、この大きな男の力はエミリアよりも上だった。
「おーおー。
男達からは酒の
それも、相当
「このっ……!」
この状況をただ見ているだけの男達。
無視をして門へ急ぐ人達。
「――エドっ……!」
エミリアは、迫る男の手が近づいた
しかし、くぐもった声と苦しそうな声が耳に入り、
男達は全く変わっていない。エミリアを
しかしその男達は、指一本を動かすことが出来ず、ただ苦しそうにするだけだった。
「――な、なに……?」
身体を動かさず、声も出さずに苦しむ男達。
一つ違うのは、エミリアの
「サ、サクヤ!?」
「エミリア殿……こ奴らは、死んでも
やけに明るく。けれども冷たく。
氷を
口元だけを隠す【赤い仮面】を着けたこの少女は、本当にエミリアが知っているサクヤなのだろうか。
エミリア本人にも自信がない程、
それに気付いたエミリアが、
「ま、まってサクヤ!!殺しちゃダメっ!」
「――どうしてだ?……この
左眼の【魔眼】をギラつかせ、
「ま、まってくれぇ……
目を細めて、
短刀は首元にあてがわれたままだ。
「ほぅ……どれ、どんな家族だ?……言ってみろ。内容によっては、首を飛ばされずに済むぞ?」
「――つ、つ、妻と……もうすぐ子供が生まれるんだっ……!」
「……」
男の言い分に、ため息を
冷めきった
「……そうか。それはめでたいな。しかし、
短刀を
「――ひっ、ひぃぃぃぃぃっ!!」
ラドックのズボンが、温かいもので
見ていた
男は死へのショックと、失禁した恥ずかしさで白目を
「――ふんっ!……
(しかし、周りの奴らも理解していないようだな……一歩間違えば、自分が同じ目に
「サ……サクヤ……?」
心配そうに見るエミリアに、サクヤは笑う。口元は見えないが。
「あんずられよエミリア殿。死んではいない……まあ、今後この
サクヤは、そう言うと
「――!!」
エミリアは追う事すらも出来なかった、だがそう思った時には背後から声がした。
「――さぁ、次はお主だぞ……大柄なお主は、少し刺しても死なぬであろう?」
エミリアの背後。
つまり、エミリアを
「なんだ。お主はまだ【魔眼】の効果が
エミリアを
「おお!なんと~、
「――っ!!」
腹部に感じる熱い痛み。
しかし、謎の力で
「あはははははっ!出ておる出ておるっ、お主は少し
「――ぁ――あっ!」
自分が流した温かい血の熱さを下半身に感じる
「それもう一度……ブスリ。もう一度だ、ブスリ……っと」
二度、三度と腹部に感じる刺された
ぐらりと揺れエミリアを離すと、そのまま後ろへ大の字にドスンと倒れる。
「サ、サクヤ……」
見えていなかった為、男は死んだと思ったエミリア。
が、
男は大の字のまま気を失い、自分のズボンを
「……い、きてる?」
「うむ――エミリア殿が殺すなと言ったのではないか」
「で、でも……」
「では説明しようか」
答えは簡単だった。
サクヤは、
腹部の痛みは、サクヤが全力でつねり上げた痛み。血の熱さは自らの
ただそれだけだった。本当に、それだけだったのだ。
言葉と
「……」
「簡単であろう?」
エミリアはガックリとし、サクヤはにこりと笑う。仮面で見えないが。
「エミリア殿を
サクヤはそう言いつつ、エミリアに手を差し出す。
「……サクヤ――ありがとっ」
エミリアは感謝を告げると、サクヤの手を取り立ち上がった。
「ふふふ、なぁに。気にすることではないさ……わたし達は、
「は、はぃ?」
まさか、サクヤとサクラが“召喚”された初日にローザが言った言葉を、
「ふはは!わたしは、
「ちょっとぉ!声が大きいって!」
エミリアの制止を無視して「しかしな」と、ここに居る
「……わたしは犬だ。だが犬は犬でも、
んふーっ!と鼻息荒く、サクヤはエドガーを守る決意を宣言する。
多くの住民はキョトンとしつつも、その言葉を耳に入れた。
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