47話【凶兆は直ぐ傍に】
◇
何事もなく数日が
ここ数日間、エドガーはアルベールやマークスに手伝ってもらって下町を
エミリアも、ロヴァルト家のメイド、特にナスタージャを使って貴族街を探していたが、目ぼしい情報は無かった。
唯一ローザだけが、毎日何かを考えているのか、
そしてある日。
「おいエドっ、ちょっといいか?」
「アルベール?――どうしたの?」
今日も手伝ってくれるはずのアルベールが、急いだ様子で宿屋【福音のマリス】へとやってきて、こう告げる。
「悪い……今日は無理そうだ。明日……俺、
「――あっ!そうか……そうだよね、ごめんアルベール……大事な日の前に、色々させちゃって」
「いいや。それはいいんだよ……俺も忘れてたぐらいだしな。フィルウェインに言われて、今朝気付いたんだ」
あははと笑うが、それはそれで駄目だろう。
【聖騎士】に成り、王家から正式に認められる大事な
「……あ、フィルウェインさん」
アルベールと会話中、宿の入り口でぺこりとお
「悪いフィルウェイン!今いくからもう少し待ってくれ!」
そういうアルベールは、ちらちらと
何を探しているのかを
「……メイリンさんなら二階だよ、多分サクヤとサクラの部屋だと思う」
アルベールはメイリンに会いに来たのだろうと考え、メイリンの居場所を教える。
「――!!ち、違うぞエドっ……俺はだな」
「はいはい。いいから行きなって……時間ないんでしょ?」
「くっ……悪かったな!」
顔を赤くして、エドガーに文句とお礼の意味を
「……ははは」
あの日以来、アルベールとメイリンはいい感じだ。
エドガーは
でもアルベールは貴族で、メイリンは下町民だ。
今後、色々なしがらみが出てくるだろう。
しかも、アルベールは【聖騎士】に成る。
つまり、この国の顔になるのだ。
もしかしたら、この先かなりの
その時は、幼馴染である自分が
◇
アルベールが帰り、エドガーはサクヤと
「
「……ど、どうしたんだい。急に」
窓を
少し離れた場所で床を
「……いえ。
ガシャァァァン!
フリーズするエドガーと。
離れた場所で
「――こ、こらぁぁぁ!馬鹿【忍者】ぁぁっ!!」
階段を掃除していたサクラが
「……痛いではないか、サクラよ」
「痛いのはあんたの頭の中でしょうがっ!
「も、もう……何があったか
床にぶちまけたゴミをせっせと
「ちょっとこっちに来なさい馬鹿【忍者】っ、エド君も来てっ!」
「う、うん」
「うむ」
メイリンに
◇
「で?何であんなこと言ったのよ馬鹿【忍者】……」
一階ロビーの階段の裏で正座させられているサクヤ。
この理由がいまいちわからないサクヤは、うむむと考え。
「いやしかし、
「エド君の「何でも」はそういう何でもじゃないってのっ!」
馬鹿【忍者】っ!と
「さ、
涙目になりながらサクラに言い
「ふっふ~ん。あたしだって異世界人なんだもの……この数日で、なんとなくだけど自分が出来る事が分かってきたのよね!」
上機嫌でサクヤに見せびらかす黒い物体は、この世界には存在しない【スタンガン】だった。
当然ながら、サクラが初めから持っていたものではなく。
サクラが
サクヤは
「あ、
サクヤは、新しく覚えた言葉を
「なにがチートよ、【忍者】の
そうしてサクラは、肩に掛けた
「あははっ!あたしはこの世界の猫型ロボットよっ!」
そう。サクラの
両手で【スタンガン】を持ち、笑いながらバリバリと音を鳴らすその姿は、完全にマッドサイエンティストだった。
「サクラサクラ……そのへんで。ほら、メイリンさんが見てるよ」
「えっ!?――あ。あははっ、冗談ですよ~、冗談」
階段上部から、目元だけを
「ならいいけど……あんまり怒っちゃだめよ?わ、私は大丈夫だから、
と、顔を赤くして言う。
「あ、そうなんですね。アハハ、仲いいですねー」
完全な
「……ばか」
サクラは、演技の下手なエドガーに
こっそりと《スタンガン》の音を鳴らした。
「――っあ!」
「へっ?――って!ぐえっ!!」
「えっと……なんかごめんエド君」
サクラの思い通りに驚いたサクヤは、逃げようと
痛がるエドガーと、気まずそうにするサクラ。
しかしサクヤだけが、この
まるで、何かを
◇
~【
倒れ
それを、リューネは
「……す、凄い」
この
「どうかしら?……リューネ。少しは慣れたかしら」
リューネに言葉を掛け、青いフードを取る。
その下からは、
腰まで伸びた青い髪は、
「は、はい。エリウス様」
このエリウスは、リューネの中で
それこそ、
「それよりも……その、殺す必要はあったのですか?」
中年の騎士から、昨年度の卒業生であろう若い騎士。
もしかしたら、リューネが知っている顔もあったかも知れない。
「――そうね。誰かに見られるわけにはいかなかったし、目的の
「――はい」
リューネは、このエリウスやレディルの目的を聞き
その上で解放するとまで言われたが。
リューネは、エリウスについていくと決めた。
「私は、エリウス様に
「――別に貸しだなんて思っていないわよ……レディルの
「……はい」
それでも、リューネが助けられた事には変わりはない。
レディルに
今のリューネには、それだけで充分だった。
「……ん?」
エリウスは先に進もうとするが。壁に寄りかかり、
「――ひぃっ!」
「あら……しぶといのがいたわね――リューネ?」
「は、はい……!」
これはいい機会だと、エリウスはリューネに剣を渡す。
今まさにエリウスが騎士達を斬った、
「これは……?」
「“魔道具”よ。【
ゾッとする程
「……」
ゴクリと、
「別にいいのよ、無理にやらなくても……強制じゃないから」
「――い、いえ!や、やりますっ!」
エリウスから【
「……これは、なんて……」
綺麗なのだろうか。しかしそう言いきる前に、生き残った騎士が最後の力を
「このっ!
力の入らない腕で剣を持ち上げ、切っ先をリューネに向けるも、負傷で力が入らずにカタカタと震えていた。
「……その国が
「――は、はいっ!」
エリウスの覚悟ある言葉に、リューネも決意する。
「
「そ……その構え――貴様っ……!」
騎士学校で
当然、この騎士も知っている。
「――貴様っ……貴様ぁぁぁぁ!!」
「くっ!」
騎士の
「
エリウスは、リューネが
「ぅっ。――うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
――最後。最後だった。リューネが引き返す、最後のチャンス。
そのチャンスは、リューネの
――ザシュッ!!っと、騎士の首と
リューネは、聖王国の人間では無くなった。
「よくやったわね……
「はぁ、はぁ……は、はい……エリウス様」
血に
「さぁ行きましょう……目的の人物は、すぐそこよ」
そう言って。エリウスとリューネは、
◇
「ここね。
そこは、
窓は
「一体、誰が……?」
「
「……彼」
一人だけ心当たりがある。リューネもよく彼の
しかし彼は。
「――死んではいないし、我が帝国に
リューネの考えを見越したエリウスが、そう言いながら【
「――!」
鍵も扉も無視して、エリウスが一閃する。
――ガッシャァァァン!!
――そして、その奥には。
「……誰だ」
大量の“魔道具”
【リフベイン聖王国】最後の英雄。
【
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