31話【石魔獣《ガリュグス》】
◇
エドガーの家。宿屋【福音のマリス】から早々に逃げ出したリューネは、急ぎレディルに
人目に付かないように、人通りが少ない道を選んでいるリューネだが。
「もう結構離れたけど……追って、こないわね……」
エミリアかあのローザって人が、
追ってくる気配すらない状況に、リューネは逃げることが出来た。
――そう思ったのだが。
「なに?あれ。え……?まさか――こっちに来るのっ!?」
グングンと近付く赤い光。リューネは逃げることも忘れて、ただ立ち尽くしていた。
赤く
急接近してきた赤い
「――ぁぁああああああああっ!!」
一つは空き家の屋根に落ち。一つはその更に上に重なり落ちた。
そして一つの影は二つの影と反対側、リューネを
「イダッ!……――ぐえっ!」
「きゃふ……」
「……っと」
「……エミリア、エドガー君……」
リューネは、落下してきた人物達の名を呼ぶ。落下してきたのは。
――【召喚師】エドガー達だった。
「いったぁ……ゴメン、エド」
エドガーの上に落ちたエミリアは、すぐに身体を起こしてエドガーから
「……いや。だ、大丈夫だよ」
本当は少し痛かっただろうに、強がるエドガー。
「ローザ!何も投げなくてもいいでしょっ!!着地できるんならさっ!」
リューネを追ってきた。はずなのだろうが、エミリアは
「――バランスが悪かったのよ。無事だったのだし、いいでしょう……?」
ローザは、リューネを
「――っ!」
リューネを見るローザの
今までの人生で、こんなにも威圧感のある女性は初めてだ。
騎士の先輩達にも、指導に来る【聖騎士】にも、こんなに恐怖を感じたことは無い。
(お風呂の時とは別人ね……でも……やらないと)
弟の
「――リューグネルトさん……持ってますよね、《化石》」
起き上がりながらお腹を
「何のこと……なんて意味ないわよね。そうよ、私が
エドガーから顔を
「どうしてなの、リューネっ!?」
信じたくはないが、事実は目の前にある。
「さあ……なんででしょうね」
リューネは逃げる
だがローザの威圧に身体が
「リューグネルトさん、返して下さい……それは、
「危険……?」
(やっぱりこれが“魔道具”なんだわ……だったら、これを持っていけば……)
リューネの感は当たっていた。これは確実に“魔道具”だ。
これをあの男に渡せば、弟を開放してもらえる。
その
「そうだエドガー君。忘れたの?本当はこれ、エドガー君がくれたんだよ?――って言ったら、見逃してくれるかな?」
絶対に通用しないと分かっていながらも。
どんな小さい可能性にも
「エドはそんなことしないよ……」
「無理があるわね」
「「“魔道具”バカ
エミリアとローザが、即否定する。
付き合いの長いエミリアも、まだ日の浅いローザでも、エドガーのコレクション
大事なコレクションを、簡単に手放すわけはないのだ。
「確かにそうだけど……バカって……」
事実なのだ。仕方がない。
「やっぱり
どこか
「リューネ!目的はなにっ!?」
「言うとでも思ってるの……?」
「――嫌でも言ってもらうよっ……!」
エミリアは屋根から飛び降り、赤い槍を構える。
それにエドガーも続く。
「エミリア、なるべく
ここは【
それでなくても、ローザの炎を見た人はたくさんいたはずだし、やじ馬が集まってきたら
「うん。分かってる」
腰を低く構え、突撃体制を
「――本当に分かってる!?」
戦う気満々のエミリアにエドガーがツッコむ。
「好きにさせなさい。エドガー」
ローザはエミリアに
「私達も行くわよ。すぐにケリを付けましょう」
「――させると思いますか……?」
「なんですって?」
三対一。圧倒的に不利なこの状況で、リューネは
リューネは
取り出したのは数個の《石》だ。《石》と言っても、その大きさは非常に小さく、
しかし紫色のその《石》は、エドガー達にも見覚えがあり。
「……そ、それは!」
「……小さいけれど、あの《石》に似ているわね」
あの《石》。イグナリオ達と戦った時の、あの紫に発光する【
「なんでそんなもの持ってるのよっ!?リューネ……!」
「エミリアには関係ないわっ!」
そう言って、リューネは小さな紫石を地面に投げた。
「「「――!」」」
紫石は、独りでに地面にめり込んでいき、どんどん
そして、地面から産まれ出るように。一つ眼の怪物が現れた。
「あ、“悪魔”……!?」
「――!!……違うわエミリア。あれは……【
(……どうして私の世界の
「「
「な、なに……コレ」
エドガーもエミリアも、《石》の
リューネの反応からして、何が起こるかは分からなかったようだ。
しかし先日に続いてまた、
数日前に感じた“悪魔”への恐怖心がよみがえり、身を
ローザは、エミリアを安心させるように言う。
「大丈夫よ……あれは“悪魔”じゃないわ。冷静に戦えば何とでもな――あ、
(魔力が少ないこの国で、どうして
【
異世界であるはずのここで、どうしてこの世界に。と考えるも。
「――今不吉な事言ったぁ!?」
エミリアの大きな声に、考えを消し飛ばされた。
「それだけ元気なら大丈夫ね……エドガーは?――エドガー?」
エミリアをスルーしてエドガーに声をかけるが、当のエドガーは。
「大丈夫です……」
石と土で出来た
それを
(何……?――エドガーのこの
――怒り。ローザがエドガーから感じた、初めての感情だった。
「いけるのね……?
「――はい」
《石》の
そして、リューネとの戦いが始まった。
◇
戦いが始まり。真っ先に動いたのはエミリアだった。
まるで初めから決まっていたかのように、リューネに向かっていく。
「エド!ローザ!そのガリなんとかはよろしくねっ!」
「――
【
燃え広がることの無い魔力で出来た矢。その矢を、《石》の身体を丸めて
「……ちっ!」
【
大きさは人間の半分だが、
更には魔力を
「
急ブレーキをかけて、槍を構える。
「――エドっ!?」
「はぁぁぁぁっ!!」
気合と共に、赤い刀身の剣を振り下ろすエドガー。
「……!?」
一番驚いたのはリューネだろう。二年前まで
「
「――エ、エドっ!」
エドガーの持つ赤い剣は、エミリアの持つ槍と同じくエドガーが
熱を発っする両刃の剣。筋力の
「ダメだっ!――こんなの、ダメなんだよっ!」
エドガーは、この状況に悲痛な声を上げて、
「リューグネルトさん。あなたがどんな思いでこんな事をしたのかは分からないです……何か
リューネは、エドガーの言葉に
そう。分かっている。
リューネが使ったこの《石》の
とは言えまさか、こんな
「エドガー君に言われなくても、そんなこと――」
「分かってないですよっ!!」
エドガーは、リューネのセリフを
「――っ!?」
「簡単に死ぬっ……人は、簡単にっ――死ぬんだっ!!」
エドガーは母親が死んだ時、妹のリエレーネと共に騎士学校にいた。
帰ってきた時、母は地下室で
死因もなにも分からないまま、母は眠っているようなままに死んでいた。
だが、死は死だ。もう母はこの世界には居ない。簡単に、人はいなくなる。
リューネにはリューネの事情があるのだろう。でも
「エド……」
「エドガー……」
そんなエドガーの心情を
確かにエドガーは、国に
けれども、決してこの国を嫌いな訳じゃない。
――そして、ローザ。
悲しい別れがあっても新しい出会いがあった。それだけで、今いる場所を好きになれる。
この国の騎士達が、この
戦いとかけ離れたこの国。それがこの【リフベイン聖王国】という国だ。
「分かっているのよ……分かってる」
リューネは悲しそうに
「リューグネルトさんっ……!」
「それでも!――この国を
「そんな事っ!」
それはきっと、とても身勝手なことかもしれない。それでも、弟を助けたい。
もしリューネが
「……」
(――あなた達は、助けてくれるの……?)
「リューネ……」
エミリアは、エドガーに思いをぶつけられるリューネを見つめるが。
「――エミリア……――ゴメンっ!」
リューネは更に《石》の
計四つの
「リューグネルトさんっ!!」
「エドガー。やるしかないわ、行くわよ……!」
「くそっ……」
【消えない種火】から二本の剣を作り出して構え、生まれたばかりの
◇
エドガーの
「来なさいよ、エミリア!」
リューネが剣を構える。
それに合わせるようにエミリアも槍を構えるが、視線はエドガーに。
「……エド」
「分かってる、
エミリアの視線に、エドガーは答える。
「――うん!ありがとうっ!」
エミリアは構えた槍を大きく振る。赤い
リューネは向き合う。エドガーの言葉に。エミリアの疑念に。
そして、弟の未来の
「――気に入らないわねエミリア。
しかしエミリアは、その
「勝つよ……勝ってリューネを止める」
――止める。
先程。エドガーが
◇
『エミリア……あの子、家族は?』
『家族?……リューネは王都外の出身だから
ローザの
そしてローザは。
『もしかしたらだけど……あの子、人質か何かを取られてるかも知れない』
『えっ!?』
『もし、よ……さっきからちらちらとあっちの方を気にしてる』
ローザが
『【
商業区画である【
もしかしたらの可能性を、ローザが言う。
『あの《石》の
《石》の
今回の事に、“悪魔”グレムリンを通して聞こえた声。
少年とも少女とも取れる声の持ち主。その人物が関わっている可能性があると、ローザは思っているのだ。
その可能性があるならば、リューネも。
『まさかっ……操られてるっ!?』
『決めつけはよくないから、頭の
『う、うん。エドには?』
『言わなくてもいいわ。
◇
ローザとの会話を思い出しながら、リューネとの戦いを始めるエミリア。
「はぁぁぁっ!」
エミリアは助走を付けて飛び込んでいく。
暗い
「ふっ!」
ガギンっ!!と、槍と剣の
「ぐっ!」
「――熱っ!?」
エミリアの槍から
「その槍どこで手に入れたの、エミリア?」
最もな
「関係ないよ。戦いには!」
「っく!――なっ!?」
エミリアは槍を引き、前のめりになったリューネに
「――ぐぅっ!!」
リューネは左手で
「まだよっ!」
追い打ちをかけようとするエミリアは
「ちぃっ!」
回転して飛び
その勢いで、近くのゴミ置き場に突っ込んだ。
「……」
(な、なんだろう……いつもよりもめちゃくちゃ身体が軽い……!それに威力も!)
エミリアが好調の理由。それは、ローザの炎の防衣とエドガーの炎の槍。
この装備が、エミリアの
エミリアは、消えてしまうその装備の効果をすっかり忘れて、全力で攻撃する。
「――くっ、この!!」
リューネも、
(ひ、左腕が……っ!)
エミリアの
「リューネ……」
「エミリア……
「勝った事ないもんね、
エミリアも
◇
一方、エミリアとリューネが戦っている
ローザとエドガーは
二体目の【
するとそこに。
「――おいおいっ……遅せぇと思って来てみれば――中々面白い事してんじゃねえかっ!!」
「――っ誰!?」
ローザは、屋根の上からかけられた声にすぐさま反応し、【炎の矢】を
声の主は、ひらりと
「おっとあぶねぇ」
声の主はジャンプし屋根から降りると、リューネの前に降り立った。
「――っ!?」
「よお……遅せぇからきてやったぜ?感謝しろよグズ」
「……レディル、さん」
リューネの青ざめた顔。これを確認し、ローザとエミリアは確信する。
エミリアはバックステップでローザの場所まで距離を取り、小声で。
「ローザ……!」
「ええ、確定ね」
「二人共っ!」
最後の
「エ、エド……あの
「え。……そうだけど……なんで?」
やはり、まだ慣れないのだ。エドガーが強い事(戦えている事自体)が。
「当然よ、私の“契約者”なんだから」
ふふんと、
「
レディルと呼ばれた男は、エドガー達を
「レディル……さん」
リューネは男の手を取り立ち上がろうとする、が。
「あ?……おいゴラっ!!誰がてめぇの手を出せと言ったぁ!」
男はリューネの手を
「あぐっ!!」
リューネは吹き飛ばされ、再びゴミ置き場に
「リューグネルトさん!」
「リューネっ!!」
レディルはリューネの頭を
「
「――あ、あんたぁっ!!」
男の
「うぐっ……は、離してローザっ!!」
「う。ぇ……お、落ち着きなさいエミリア!」
エミリアの怒りのパワーに、引っ張られそうになるローザ。
力では天と地の差がある二人だが、このエミリアの力はローザにも意外だったらしい。
「でもぉ!!」
「近寄ったらダメよ……っ!さっきの話を思い出しなさい」
思いっ切りエミリアを引っ張り、耳元で
「……くぅ。――わ、かった、から……首っ、首ぃ!」
ローザに引っ張られた勢いで、首がしまってしまう。
しかしリューネの様子を見て、落ち着かせようとした心がまたざわつく。
「す、すみま……せん」
「ったく……使えねぇなぁ!」
レディルはしゃがみ込んでリューネのポーチを
「あ、待っ……」
リューネはレディルの手を
「おら、あんじゃねぇかよっ!」
「――あぁっ!」
リューネを吹き飛ばし、ポーチから《化石》を取り出すレディル。
「……へぇ」
手に持った《化石》を
「フハっ、フハハハハっ!!やるじゃねぇか、まさかこんな
リューネはレディルの足にしがみつき
「レディルさん!約束、約束は果たしましたっ!!だから弟を、デュードを返してっ!!」
「――弟!?」
「やはり……」
「……!」
エドガーは驚き、ローザは納得する。
エミリアは無言で、ただレディルを
その視線に気付いたレディルは、無理矢理リューネを振り
「おーおー、怖いねぇ」
「絶対――許さないっ!!」
槍を構えるエミリア。
ローザは、
「貴様がその子の弟を……?」
エミリアは怒りを前面に、今にも
ローザは冷静にレディルの真意を問おうとする。
「ん……?あー、どうだっけなぁ……ククク、もう死んでんじゃねぇか?」
「――!!……そん、なっ……」
リューネは
「それよりもお前だよ……
リューネを無視し、ローザを見る。
「まさかお前みたいな奴がいるとはなぁ……
一人で耳を
「ちっ!おい、行くぞ!弟に合わせてやる」
「――は、はいっ!!」
レディルは
「じゃあな、
「――なっ、待てっ!!」
レディル、そしてリューネも
エドガーは、二人を追おうとするも。
「待ってエド!魔物が……!」
《石》の
エミリアがそれを食い止めようと駆け出していた。
「エドガー、今はまずアレを……いいわねっ」
「くっ……はい!」
エドガー達三人は、
◇
熱を
「これで最後だ!!」
赤い剣は、
それと同時に赤い剣も、魔力を無くして消えていく。
「――ああっ!私の槍がっ!?」
エミリアの槍も、当然消えた。
「魔力を使い果たしたのよ。私もキツイわ……二人分だし使ったのだし」
そう言って。汗を
「そうか……だから、追うなって」
ローザの
「そういう事よ。エミリアも……
「……うん。ありがとうローザ……――ん?」
ローザに礼を言うエミリアだが、あることに気付いた。
「私もキツイって言った……?」
「……言ったわね」
つまり、ローザが作ったこの防衣も。エドガーが
エミリアが嫌な予感に身を震わせた――その瞬間、ローザとエミリアの服は、赤い粒子をまき散らしながら。
――消え去った。
「き、きゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「わあぁぁぁぁぁぁっ!!」
ここが
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