26話【騎士学校の少女達】
◇騎士学校の少女達◇
新年度となり、三年生に進級したエミリア・ロヴァルトは、早速仕事を任されていた。
本来ならば、成績上位者の中から選ばれた光栄な事なのだが。
「はぁ~~~~~~っ」
騎士学校の管理室で、エッグゴールドの金髪を
しかしエミリアは、盛大なため息を
普段はキラキラと
エミリアは、体をユラ~っと
机に、ゴンっと
「痛ったぁ」
【召喚師】エドガーの幼馴染であり、そのエドガーに恋をする乙女。
彼女はここ数日、エドガーに会っていない。正確には、会えていない。
今日は朝早くから、騎士学校【ナイトハート】の後輩達の
時刻は
本日終了していないのはあと一組。その一組が、中々に帰ってこない。
「……遅いし」
先日のグレムリンとの戦いの後エミリアも、兄アルベールと一緒に、王城の騎士から
(全部ローザが言ってた通りだったなぁ……「知らない関係ない」を通しただけで、あんなに簡単に
ロヴァルト兄妹を
(あの二人、コランディルとマルスが犯人として捕らえられてるから……私達は見逃された?……あ、疑われてたのは主に兄さんだけど)
エミリアは机に突っ
エミリアが
過去にコランディルがエミリアにちょっかいを出そうとしたことが、どこからか知れ渡ってしまったから。らしい。
(二人共、イグナリオに
父アーノルドから、おおよその状況は聞き
ロヴァルト家は伯爵家だ。城への出入りも多い。
ましてやアーノルドは【元・聖騎士】で、身分の高さは
それでも、イグナリオがあの《石》を使い、グレムリンに変身?して、襲ってきたことは、エミリアを始め数人しか知らない事だ。
ローザの
イグナリオは、灰になったグレムリンの
つまりは――死んだのだろう。
あの《石》、【
“悪魔”や“魔人”が
考えても考えても、分からないことだらけだ。
「あーもう。わっかんないなぁっ!」
エミリアのいきなりの独り言に、まさかの返答が帰ってきた。
「――何が?」
おっとりとした声に、ウェーブの掛かった長い髪。
緑掛かった薄い金髪をひらめかせて、一人の少女がエミリアの背後に立っていた。
「ひゃっ……!?」
ガタンと、思いっきり
「――って、リューネか。ビックリしたじゃない」
リューネと
リューグネルト・ジャルバン。
エミリアよりも強い騎士学生であり、【聖騎士】昇格間違いなし。と言われる実力者だ。
貴族ではない彼女が【聖騎士】に成るには、一敗の敗北も許されない。
イグナリオが事件を起こした理由も、一年前にアルベールに負け、【聖騎士】に成れなかったからだと聞いた。
大きな実績が有れば、成績に関係なく昇格できるのだが、その条件はとても
「あはは。ごめんねエミリア、少し散歩していたのよ。そしたらこの管理室からブツブツ何か聞こえるから来てみたの」
何者かの声を聞きつけたリューネが、気になって管理室を
「私、声に出してた?」
「うん。何を言ってたかは分からないけど、不気味な感じはしたかな」
「そ、そう。駄目ね、私ったら……あはは~」
倒れた
「そうよ、気を付けてね。――あら……?これって、今日の
「あ、うん。初回は私が
リューネが自ら話題を
話を合わせて乗り切れば、何とかなるかもしれない。
「ふ~ん。あら?まだ一組来てないわね?」
リューネは書類を見て、残り一組に
「そうね。まだ来てないわ……優秀な子達だから大丈夫だと思うけどね~」
新年度初めの
なにかハプニングがあったとは考えにくいが、万が一がある。
「はぁ……少し探してみようかな。なにかあったら大変だし」
エミリアは、夕暮れの管理室で書類の一部、ある人物の名前を指でなぞりながら言う。
「ん~。あ、大丈夫みたいよ。――ほら外に……」
リューネが窓から外を
新年度になり、新二年生となった後輩たちだ。
「……まったく、何してたんだか」
エミリアは席に着き、直ぐにやってくるであろう四人を待つことにした。
◇
「申し訳ありませんでしたっ!!」
管理室に着いて早々に頭を下げたのは、明るい茶髪の少女だ。
続けて他の三人も、エミリアに頭を下げる。
急いできたのが目に取れる茶髪の少女は、真面目そうな顔に汗を
「そうとう急いだみたいね、あなた達……」
「……そうらしいわね」
リューネとエミリアは、顔を見合わせて
「「「「……」」」」
頭を下げる四人組は
エミリアとリューネには見えないが。
(どどど、どうしようっリーちゃん!)
(いや……ピリカ。私に言われても……)
(まさか、エミリア先輩の他にリューグネルト先輩までいるとは思わないよなっ!!)
(――なんでラルンは楽しそうなの?)
(こんな……まさかこんな事になるなんて……)
(ごめんねレイラ。私が
四人は
「ゴホンっ!……遅れてきた自覚はあるの?あなた達は」
エミリアの言葉に、四人は
騎士学校の生徒や、この国の騎士がする
「「「「――申し訳ありませんでしたっ!」」」」
綺麗に声をそろえて、四人は
「まぁまぁエミリア……とにかく、何が理由かを聞かないとね。お仕置きはその後♪」
エミリアは、
リューネはその視線に気付き、大げさに身をよじり。
「まぁ、そんな顔で見つめないでエミリア!……私、
そう言って、リューネは自分の腰に下げた剣を
無意味に
「あー。うん。リューネは置いといて……じゃあ聞かせてもらおうかな……代表は?リーダーのレイラにする?」
エミリアは、ハァハァするリューネを無視して後輩達に向き直る。
「冗談じゃない……もう~」といじけるリューネ。
「あ、すみません……ここは私が」
そう言い手を
「リエちゃ――
リエレーネ・レオマリス。
エドガーの実妹で、エミリアの後輩。
当然、ここ最近のエドガーやエミリアの活動を知らない訳だが。
「は、はい……エミリア先輩。私が話します」
リエレーネは少しオドオドしながらも、
「言い訳になりますので。お見苦しいと思ったら
「ええ。分かったわ……どうぞ?」
エミリアは手を差し伸べて、話を
「はい。では……これは【
そうしてリエレーネは、ほんの少し前の話をし始めた。
◇
「これで以上です……改めて、申し訳ありませんでした……」
リエレーネが再び頭を下げると、後ろに
そして、話を聞き終えたエミリアはと言うと。
(あああぁぁぁっ!――もうっ!心当たりしかないっ!!)
どう聞いても知り合いとしか思えず、わなわなと頭を
「エミリア先輩!すみません!私が……」
「ああっ、待って違うの」
エミリアに頭を下げ続けるリエレーネ達を
「リエレーネ。も、もう一度聞くわよ?」
「は、はい」
「ど、どんな人だって……?」
「えっと――この国には珍しい赤毛で、やたらと胸の大きなお姉さん……です、けど」
「……」
(ローザだあぁぁぁっ!絶対ローザだっ!!)
「あの、エミリア先輩……?」
まさかの知り合いが、後輩達に助けられていた。
「あっ!なんでもないなんでもないっ!」
「エミリア~?」
流石に
(今ローザの
異世界からの
考えただけでも
ましてや、ローザはどうやら貴族を嫌っている
もし。もしもだ、ローザがこの国の敵になったとしたら。
一夜にしてこの国は
エミリアはリューネの肩をグッと
リエレーネ達に聞かれないように、リューネの耳元で
(お願いリューネ……この子達、今回だけは
(――は、はぃぃ!?)
耳を赤くし、エミリアから離れようとするリューネ。
しかしエミリアは、リューネを抱きしめて逃がさない。逃がすわけにはいかない。
どんなことであろうとも、今ローザの存在を国に知られてはいけないのだ。
(お願いお願いっ!何でもする、何でもするからっ!!)
まるでナンパ男のようなセリフを
「……ひゃぅっ!!」
少し
「――わ……分かったわ!――もうっ……あ、
「「「えっ!?」」」
「いいんですか?」
三人は驚き、リエレーネは
お願いした当のエミリアは、目をキラキラさせてリューネを見ている。
「ええっ、いいわ……エミリアに感謝しなさいね。まったく」
顔を赤くしてフワッと髪をはらうリューネ。
これではまるで、リューネが今回の
◇
「――もういいわよ。エミリア」
後輩達四人を
管理室には、再びエミリアとリューネの二人きりになった。
「ありがと~リューネ……あ、サイン書くね~」
「……ねぇエミリア?」
「――うん?」
(あぁ……取り
「さっきの話本当……?」
エミリアは
「うん……」
(でも後でローザにはキッチリ言っておかないとね。外に出るのは気を付けてって)
「じゃあ……さ、お願いがあるの」
エミリアは、後で死ぬほど
「うん……」
(あ~でも、絶対ローザは言う事聞かなそうだなぁ……)
「
自分の首を
「うん……――えっ!?」
ようやく生返事していた事に気付き、重大なワードに驚く。
(い、い、い、今。この子なんて言ったぁ!?)
「よかった~。実はね、一年の時に一度話したことがあるんだけど。彼、
「えっ……!?ちょ、待ってリューネ、なんで?なんでエド?」
エミリアは慌てる。
急に
「なんでって……それは。ま、エミリアには関係ないでしょ?」
恥ずかしそうに身を
何その可愛い仕草。
「そ、そうかも……だけどさっ」
「うん。なら決まりね……
「ちょ!!」
「駄目っていうなら、エミリアが後輩達を
「ぐっ……」
トドメだった。終始リューネに
というか一方的に話されて完結された。
「それじゃ、夜に
手をひらひらと振り、管理室から去っていくリューネ。
「――なんなのよ!――もぉ~っ!」
管理室には、一人納得のいかないエミリアだけが残された。
◇
「はぁ~……サイン完――了っと」
ズル。ではなくローザの
「……ん?」
――違和感。不意に感じた違和感に、
管理室にある、
「は?――ズレ、てる……?」
「え!?……じゃあ……リエちゃん達って」
タイムリミットは越えていなかった。初めから。
エミリアの時計がズレている可能性は低い。
グレムリンとの戦い後に修理に出し、昨日修理が終わったばかりで、この
「な、なんで……?」
がっくりと肩を落とし、管理室の時計を直そうと手を伸ばすエミリア。
「おっとと――ん?なにこれ?」
その紙には、ハートマーク付きで「ゴメンね」と書かれていた。
ご
「……リュ……」
「――リューネェェェェェェェェ!!」
エミリアの叫びが、夕方に差し掛かろうとする騎士学校に
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