27話【お風呂の遭遇】
◇お風呂の
~宿屋【福音のマリス】・夜~
「は!?だから……なんでっ?」
「だからさっきも言ったけど、しょうがないでしょ!決まっちゃったんだから!」
エドガーは、突然やって来たエミリアと
「いや、しょうがないじゃなくて……決まった理由を聞かせてくれないと!」
「むぐぐっ」
リューネが仕組んだ事とは言えだ。
エドガーの妹であるリエレーネが
あの後、エミリアはリューネを問い
結局、
しかも
『今日は彼の宿に泊まるから。
と、さも決定事項のように言われ、更に言葉をなくしたエミリアは。
流されるままにここにいる訳だが。
勿論。それを聞いたエミリアも当然
一方そのリューネは、
「フンフ~ン」と鼻歌
「エミリアっ……!」
「い、いいでしょ!?私もリューネも、お客様よ!お・きゃ・く・さ・ま!!」
これは、エミリアが出した
客として【福音のマリス】に
「いやいやっ……だからってさ」
そんな
「でも、久しぶりだよね。エドガー君!」
「え、えっと……リューグネルトさん……一年振り、ですかね……?」
グイっと来られて、つい
「いきなり名前呼び!?」と言い、エミリアが睨んでくる。
「で、ここの
「あ、はい……二階の部屋で一泊食事なし、銅貨3枚です……」
「「やっす!?」」
リューネはともかく、エミリアも驚いていた。
「はいどうぞ」
「あ、毎度どうも――えっ!?」
銅貨6枚を受け取り。エドガーが気付く。
「ちょっ!まだ泊めるなんてっ――」
スタスタと歩き、
「ご案内、お願いできますでしょうか?」
「……は、はい」
どうやら、何を言っても無駄なようだった。
エミリアも頭が痛そうにしている。エドガーがエミリアを見ると、ばつが悪そうに目を
「……じゃ、じゃあ。私も行くね」
階段を上がっていくエミリアの姿は、とてもお疲れのご様子だった。
(はぁ……エミリアも大変なんだな)
「エドガーく~ん、案内~」
リューネ。もといお客様に
「た、
こうして、宿屋【福音のマリス】に。
なんとも久しぶりの客が来店した。
◇
「へぇ。結構いい部屋ね」
「でしょっ!」
「なんでエミリアが言うのさ……」
自慢じゃないが、客は来なくても
母が残したこの宿。母マリスが経営者だったころは、毎日客が入り
おそらく、区画一だっただろう。
それが今では、経営者が息子のエドガーに代わっただけで、このざまだ。
理由は単純、エドガーが【召喚師】だからだ。
「ではお客様……何か
エドガーはハンドベルを入口付近の
「うん!ありがとうエドガー君……じゃあ、後で部屋に行くね~」
パタンとドアを閉めて。
「――ん……今、なんて?」
物凄く不吉な言葉が聞こえた気がする。
◇
エドガーが部屋を出て、ドアが閉められてから直ぐ。
「ちょちょっ!リュ、リューネ!何言ってんの!?」
ベッドに座ろうとしたエミリアは、思い切り足を
「何って……私は用があるから来たんだよ?」
笑いながらエミリアに答えるリューネ。
その考えは、本当に読めない。
「ねぇエミリア。このベル、鳴らしたらエドガー君来るのかしら……」
気が気ではないエミリアとはまるで正反対だ。
「そりゃ来るわよ、だってそれは“魔道具”――ってそれはどうでもいいわよっ!」
一瞬
それは置いといてっ!のポーズを取り。
エミリアはリューネに近付き言う。
「一体なんなのリューネっ!……エドに話?あんなことまでしてっ?」
あんなこと。とは管理室の時計の事だ。
「それはゴメンって。でも大丈夫だよ?あの子達にも、ちゃんと説明しておいたから」
「――は、はぁっ!?」
後輩達四人にも
「やだなぁ。ちゃんとあの後だよ?時計が
「何でそれを私に言わないわけ!?」
「だからゴメンってば」
両手を合わせて
そのどこか悪びれていない仕草に、エミリアは更にヒートアップする。
「だからっ!そういう事言ってるんじゃなくて!」
「じゃあなに?」
リューネは
「だから……その。エドは私の、幼馴染だし……」
「うん。だから……
「――っ!!」
ズキリと、胸が
なんで、こんな事を言ったんだろう?
――嫌い。――嫌いだっ!私は、私が嫌いだ。
「あ、そう言えば、私お風呂まだなんだ。――おっきいお風呂、あるんでしょう?」
「……うん、ある。案内するよ……」
明らかにシュンとするエミリアに、リューネは悪びれない仕草で言う。
「おねが~い」
この話をしていたら、私はもっと私を嫌いになる。
早く、この場の空気を変えたかった。
だから、こんな事を言ったんだと思う。
◇
宿屋【福音のマリス】の目玉の一つ、それが大浴場だ。
エドガーの父エドワードが自作した特殊なお湯を出す“魔道具”を設置しているこの大浴場は、天然温泉になっており。
常にお湯が
残念なのは、“魔道具”が
毎日綺麗なお風呂に入れるのはいいのだが、水が不足がちな下町の住人からしてみれば、実に
最近はローザとメイリンの一家、そしてエドガーしか入っていない。客がいないから。
「うわ~。意外と広いわね~」
「……転ぶよ?」
エミリアも服を脱ぎ、
「ほら、エミリアも早く早くっ」
「……分かったから」
リューネに手を引かれて浴室に入る。
大量の湯気で、この温泉がかなりの高温なのが分かる。
「――あれ……こんなに湯気あったっけ……?」
エミリアが前回入った時はは、普通に周りが見えていた気がするが。
今は周りが見えない程の湯気で溢れて視界が
そしてその浴場から、二人以外の先客の声が耳に入った。
「――ん?誰か来たのかしら……メイリン?――は、もう帰ったわよね」
この高温の温泉に、
低温が
二人は浴場内を進み、声の人物を
まるで全く熱さを感じていないかのような涼しい声を出して、高温でぐつぐつと煮え切る温泉を
「あ、他にもお客さんいたんだね~」
リューネは先客に挨拶しようと前に出ようとするが、顔色を青くさせたエミリアに止められる。
「エミリア?」
「……」
(あれ?これ、やばくない?)
リューネの手首をギューッと
エミリアが、必死に隠そうとした張本人。――異世界人、ローザが目の前にいた。
「あ。ああぁぁっ!」
「え?なに?どうしたのエミリア!」
手を口元に持って来て、ガクガクと震えだすエミリア。
そんなエミリアの感情を知らない異世界人は。
「……なんだ、エミリアだったのね。三日振り……だったかしら」
湯船から上がり、子鹿のように震えるエミリアの元にやって来たローザ。
「どうしたのエミリア……?」
何も知らず、エミリアとリューネに話しかけたローザは、
束ねられた髪から解れた分が肌に張り付いて、妙に
「うわぁ。凄い美人ね、エミリア――んん?」
今日の
珍しい赤毛の女性。無駄に大きな胸がプルンと水を
「ローザ……私の苦労……」
無駄に終わったエミリアの今日の苦労。
「――どーしてくれるぅ!」
リューネの手を放し、その勢いのままペチンとローザの胸をはたく。
プルルンと揺れるローザの胸、その動きに
「……エミリア、何なの?」
ペチン!たぷん!ペチン!ぽよん!
「――うなぁーーーっ!!」
重力に逆らうローザの胸に、逆らうものがないエミリアは色々な意味でペチペチする。
が、
「――ほっ!!」
綺麗なフォームからエミリアを背負い、そして。
――投げた。
「えっ!――ふあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
急撃な浮遊感に
湯船に落ちた。ローザに腕を
ザバァァァァン!!と波を立てて、高温の湯船にぶち込まれたエミリアは。
「――ぷはぁっ……あつっ!あっつい!あっっっついぃ!!」
エミリアが落ちた湯船は、先程までローザが入っていたのでかなりの高温になっていた。
必死に湯船から上がって、手作り感のあるタイルに身体を付けて全身を冷やす。
エミリアの体は真っ赤になり、
「な、何するのよぉ……」
半泣きでローザに文句を言う。
「こっちのセリフよ。それに、今のはエミリアの
「わ、私もそう思うよ。エミリア……」
初めて会ったばかりのリューネも、ローザに同意していた。
熱くなっていない反対側の湯船に
「あの……初めまして。リューグネルト・ジャルバンと申します」
「ああ。ロザリームよ、ローザで構わないわ……」
壁に背を預け、胸をプカプカ浮かせるローザにリューネは
(なっ、何この人っ。こんなにだらけてるのに、
リューネの視線は、右手に光る赤い宝石に。
(どうして、《石》なんて身につけて……)
この国での宝石の価値は皆無だ。夏になれば【浮遊島】から毎日のように落ちてくる《石》。
例えどんな綺麗な宝石であろうとも、
つまりは、リューネから見えるローザの《石》も、
「――気になる?」
「あっ……す、すみません」
「いいのよ別に。エドガーからも聞いているしね」
ローザはこの世界に“召喚”される前から、近しい人物にしか心を開かない性格だった。
と言う事は「妹だけだった」と言う事になるわけで。
現に、先程からローザに話しかけているリューネには、話しかけるなオーラを出している。
“契約者”のエドガーは当然なのだが、
実は、メイリンもあと少しでと言う所だが、不思議とローザがメイリンに苦手意識を持っているのだ。
このローザの
そう、人見知りなのだ。
関係性の無い全くの赤の他人には簡単に話せても、今後関係を
「……ふぅ~。そろそろね」
ローザが入浴を開始してから、もう
かなりの高温を好むローザの入浴時間は、いつも最後だ。
昨日、ローザの後にメイリンが入った
それからは、ローザの入浴時間の番は最後。と決まった。
何せ、【消えない種火】で温度を増している。それは熱いはずだ。
ローザは《石》の効果で、
更には汗を
発汗する前に、【消えない種火】が汗を
脱水症状にならないのか。と、思われるが、体内魔力の
【消えない種火】の加護は、その他にも多くの効果を持っており、ローザの魔力と合わせて、最大の効果を発揮する。
「それじゃあ私は上がるから……エミリアも
ローザがざばっと立ち上がると、素肌に付いた
効果が分からない人から見れば、
「――うあっと。待ってローザ!ちょっと話が……」
まだ体を冷やしていたエミリアが、身体を寝ころばしたまま手を伸ばしてローザを引き止める。足を
「なに?」
「あ、え~っと」
エミリアの見る先には、湯船に
エミリアとリューネは目が合い。
「あ……何か大切な話?――大丈夫よ、私はもう上がるから」
すぐさま立ち上がり出ていこうとする。
「あ、違うよリューネ……」
「うん。分かってるよ~」
そう言いつつも。素早く出て行ってしまった。
「気を使わせたかしら……」
「ど、どうかな?そんなタイプじゃないと思うけど」
パタンとドアを閉めて、リューネは
(エミリアのおかげね。なんか怖い……あの人)
今すぐにでも彼女から離れたかった。
(でも……これはチャンスっ!)
「……今行くから……エドガー・レオマリスっ!」
リューグネルト・ジャルバンの最大の目標。
それは、エドガーへの接近。これが、
リューネに残された時間は、残り少ない。
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