キングスネーク
キナコ
キングスネーク
春一番に乗って、近所の公民館から笛や太鼓を練習する雅な音が聞こえてくる。祭りが近い。
「ちょうどこんな季節だった」窓から外を眺めていた老人は、ディレクターのキューを合図に静かに語り始めた。
「あのウイルスをどこが作ったかって? 中国か米国の研究所だろうが、今となってはどうでもいいことさ。問題はたくさんの人が感染したってことだ。あれは虫や動物を媒介にして感染る。コウモリやクモやハチなんかだ。イカやタコなんてのもいたな。私の場合はヘビ。九歳の時だった。噛まれてすぐ症状があらわれた。どういうわけかジャジャジャジャジャ~と言ってからでないと喋れなくなって参ったが、体調はすこぶる良かったよ。寝ている必要なんてなかったんだ。まるで地の底からパワーが湧いて来るような気がして、世界だって征服できるような気がしたもんだ」
記憶を呼び起こすように老人は目を細めた。
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「おいおい、まだガキだぜ」
「ここで間違い無いんだろうな」
「だからアポ電入れとけって言ったんだよ」
全身カラータイツにビキニの海パンを重ねて穿いたような五人組が、窓を破って少年の部屋に押し入り、もめている。話がまとまったのか、レッドがベッドに横たわった少年に話しかけた。
「いいか、坊主、よく聞け。おれたちゃおまえが憎いわけじゃないんだ。だた、なんていうか、失敗なんだよ、おまえみたいなのは。あのウイルスは強い兵隊を作るために開発されたんだ。でもウイルスに適性がないとひどいことになっちまう。わかるだろ? そんなおっかないもんをうちの研究所のバカがうっかりバラ撒いちまったんだ。だからおたくらはいわば被害者ってことになるんだけど、そうはいっても放っておくわけにもいかなくて、こうして後始末してるわけさ」
「治療は不可能。だからこうするしかないわけ。悪く思わないでね」
「結局のところ、この実験で成功したのはおれたち五人しかいないんだ。つまりスーパーエリート五人組ってことだな」そう言うと真ん中のレッドが一歩前に出ていきなりキレのあるステップを踏み、拳を握って「地球の平和を守るため!」と叫んだ。
ブルーが「どこからともなくやって来た!」と続き「正義の味方がやってきた!」とグリーンがかぶせる。「命と暮らしを私が守る!」ピンクの中身は女のようだ。「根性!」太めのイエローが四股を踏む。五人はてんでに妙なポーズを決めると「五レンジャー参上!」と声を合わせた。
その時、まるでタイミングを合わせたかのように黒いボディスーツを着た集団が「ケー」とかなんとか叫びながらドアを蹴破ってなだれ込んで来た。あっという間に六畳の子供部屋がラッシュの通勤電車並みに混みあって誰も身動きとれない。部屋に入れなかった指揮官のカエル軍曹がドアの外から大声で威嚇する。
「ゲロゲ~ロゲロゲ~ロ、今日が五レンジャーの最後だ、覚悟しろ」
「おまえらちっとは考えろよ、これじゃ戦闘もクソもないだろ」とレッドが怒鳴る。
「ザコは感染不適合者だからゾンビみたいなもんだ。考える頭なんかありゃしねえよ」とブルーが反応する。
「仕方ない。まとめて吹っ飛ばすわよ」ピンクがベルトから爆弾を取り出して、いきなり起爆スイッチを入れた。それを合図に五レンジャーが揃って天井を突き破り外に飛び出す。追いかけるように大爆発が起こって、向こう三軒両隣を巻き添えにした大惨事となった。
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「大勢いた戦闘員が盾になってくれて小さな私は大怪我だったが命拾いした。気がついた時は秘密基地のベッドに寝かせられていて、トカゲとクワガタが心配そうに私を見ていた。二人は親代わりになってよくしてくれたよ」
カメラが古い写真を捉える。写真の中でクワガタ博士とトカゲ夫人にはさまれて少年が笑っていた。
「十五になってすぐ、私は志願して改造を受けた。長い長い戦いだった。正義という暴力に対するレジスタンス活動と言っていい」
祭りの練習が熱を帯びてきて、笛の音がひときわ高く響く。
「人は見た目がどんなであろうと自由に仲良く生きられるはずだ、そういう世界を我々は目指した。次々と新しいレンジャーが現れた。それをことごとく倒し、そして、ついにレンジャー組織と和平協定を結んだのだ」
記念館として修復された生家の窓辺に座り、懐かしい祭囃子に耳を澄ますキングスネーク総統の目に、うっすらと涙が浮かぶ。
--ありがとうございました。素晴らしいお話でした。
六回シリーズ『総統に聞く』第三回「平和への道のり」を終わります。次回はシリーズ第四回「変身は必要か」お楽しみに。
キングスネーク キナコ @wacico
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