【KAC20203】Uターンできない

須藤二村

車屋にて


 ジョナサンは車を買うためにディーラーに来ていた。ピカピカの新車を眺めて悩んでいるとセールスマンが寄ってきて耳元でこう囁いた。


「お客様、大変耳よりな話がございます。今ならこのスポーツカーと同じ速度が出て、このセダンと同じ燃費で、なおかつハイグレードな内装の車が手に入ります」


 ジョナサンは俄然興味が出てきたのでセールスマンに尋ねることにした。


「ほほう、それはきっと最新型なのですね。さぞ値段も高いのでしょう」

「いえいえ、値段はこれらと同じです」


 そんなうまい話はないだろうといぶかしむジョナサンを見て、セールスマンはカタログを見せつつこう続けた。


「ただし、この車はUターンができません」

「えっ、それは不便なんじゃないですか?」


「お客様、速度が出る車はトルクが弱くなってしまいますし、トルクのある車は速度が出なくなってしまいます。機能と言いますのは、どんな場合でも何かを得るために他の何かを犠牲にして成り立っているものなのですよ」


 セールスマンは、それぞれの車を手のひらで示しながら説明を続けた。


「この車は、Uターンの機能を犠牲にすることで、かわりにそれ以外の全ての機能を持っているのです」


 なるほど、ジョナサンはそういうものかも知れないなと思った。


「しかし、道でUターンが必要になったらどうしますか?」


「その場合は、まず右折して、次をまた右折して、さらに次を右折すれば元の道に出られますので何の問題もございません」


 それもそうだ。考えてみれば、今までにUターンが必要な場面はそんなに多いわけではなかった。それさえ我慢すれば、最新型の性能が手に入るのだと思えば悪い選択ではない気がしてきた。


「しかし、一本道でUターンが必要になったら流石に困りますよね」

「お客様、お言葉ですが普通そんな場所ではバックして戻るのでは」


 それもそうだ、世の中は何事もトレードオフの関係で成り立っている。あれも欲しいこれも欲しいと望んでおきながら、でも金は出せないと言うのでは辻褄が合わない。


「ドライブスルーに入ると、そのまま出てこられなくなりませんか?」

「お客様、ここだけの話、そんな所を利用するのは貧乏人だけでございます。このようなハイソな車に乗られるのであれば、きちんと駐車場に停められた方がよろしいかと」


 なるほど、言われてみれば車の中で物を食うのはいかにも慌ただしくて上品とは言い難い。

 しばらく悩んでから、ジョナサンはその車を購入することにした。


「さすがお目が高い、私もお声がけした甲斐があったというものです」


 ジョナサンはいくつかの注意事項を聞いて、そのまま車に乗って帰ることにした。

 それから数ヶ月乗ってみたが快適そのものだ。これは良い買い物をしたと非常に満足していた。


    ◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇


 

 三ヶ月後、セールスマンは、自動車メーカーの社長から表彰を受けることになった。

 ハンドルの切れない欠陥品の車をリコールすることなく、2割の値引きだけで全台を売り切った功労によるものだ。



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