case28.高遠逢来

第1話




 ずっと君の隣にいられるなら、友達で構わない。



 僕は、君の傍にいたいだけなんだ。






 ◆◇◆



「逢来、おはよう」

「おはよう、シン」


 朝から僕、高遠逢来に元気にあいさつしてきたのは、幼なじみの佐原慎一郎。

 ここ最近、慎一郎は真面目に学校に来ている。今までは昼から登校して来たり、授業もちゃんと受けている。

 先月の奈々実お姉さんの結婚式があってからシンは変わった。いや、元のシンに戻ったって言った方が正しいかな。高校に入る前のシンは、比較的真面目な方だったから。奈々実さんに好かれるため、だけどね。


 でも、奈々実さんに告白して、相手にされなくてグレちゃった。

 でも、ちゃんと話をして、自分の気持ちにケジメをつけることができた。だからシンは、派手な女遊びを止めた。声を掛けてくる人にはちゃんと断って、告白されても断っている。

 最初はみんなビックリしていた。何があったんだ、本命でも出来たのかってちょっとした騒ぎになったくらいだ。

 僕からすれば、これが元のシンなんだけどね。

 真面目で、繊細で、一途で。そんなシンだから、僕は彼が好きだった。別に、ゲイとかそういうんじゃないと思う。男が好きとかそういうんじゃないから。

 ただ、シンだけは昔から特別だった。いつも僕の近くにいて、幼なじみの中でも特に仲が良くて。気付けば、惹かれていたんだ。

 友達とか、親友とか、そういう枠に留まるような気持ちじゃない。

 本気で、好きになった。


 でもシンは昔から奈々実お姉さんが好きだった。入り込む隙間なんてないくらい。

 だから僕は、彼の良き理解者であり続けた。どんな話でも聞いたし、相談にも乗った。シンが色んな人と付き合うようになったときは、結構精神的にツラかったけど。


 まぁ、そんな心配ももういらない。

 僕はただただ彼の親友として接していけばいいだけだ。


「ねぇ、ほーくん」

「……っ!?」


 急にシンが僕の長い前髪を掻き上げてきた。

 な、なに? なんで、そんなに顔近付けてるの?


「ほーくん、髪切らないの?」

「え、え?」

「だって、ほーくんカッコいいのに隠しちゃうの勿体ないじゃん」

「あ、それ私も思うー」


 シンの隣にいた萌々ちゃんが身を乗り出してきた。

 切れる訳ないよ。だって、顔隠してないと、僕がシンのことばっかり見てるのがバレる。目が合ったとき、顔赤くしてるのがバレる。

 てゆうか、今も段々顔が熱くなってるんだけど。ヤバい、ヤバいって。

 僕はそっとシンの腕を払って、髪を元に戻した。


「ほーちゃん、そんなんでよく転ばないね。ちゃんと前見えてるの?」

「見えてるよ」

「せめて分けるとかしようよ。あ、萌々ちゃん、ピン止めない?」

「あるよー」


 二人が笑顔で僕の髪をイジリだした。

 シンも持っていたワックス使い始めるし。僕の顔なんて誰も見たくないよ。本当に勘弁してよ。


 なんて、僕は抵抗したってこの二人には適わない。

 昔からそうなんだよな。萌々ちゃんは勿論だけど、シンにお願いされたら断れない。

 あとで水で流そう。ワックス、落ちるかな。





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