case27.佐原慎一郎

第1話






 期待なんてしないで。



 僕はそれに見合うだけのものを返せないから。





 ◆◇◆



「おはよー」

「おはようじゃねーよ! 今何時だと思ってんだ」

「あはは」

「服、乱れてるぞ。また女とイチャついてたんだろ」

「朝、急に呼ばれちゃってさ。あ、ネクタイ置いてきちゃった」

「脱ぐようなことしてたのかよ!?」



 昼過ぎになって教室に顔を出した俺、佐原慎一郎さはらしんいちろうに幼なじみである風戸蓮かざとれんが声を荒げて言った。

 彼の傍には、いつものように友人たちが集まっている。幼稚園のときからの、幼なじみ。いつも一緒にいる、みんなが。


「いちいちうっさいのよ、蓮は」

「なっ!?」

「そんなんだからモテないのよ、バーカ」

「ぐ、ぐぐぐ」


 蓮をからかってるのは、琴宮萌々ことみやもも

 俺ら幼なじみの中では紅一点。だからだろうか、萌々ちゃんは俺らの姫的な存在だ。可愛いけど言葉に棘があって、姫って言うより女王だな。

 それで、彼女の隣にいるのが西澤雅弥にしざわまさや


「萌々ちゃん、あまり蓮くんをいじめたらダメだよ」

「いじめてないわよ。事実を言ったまでよ。現にこの前もフラれてたし」

「な、なんで知ってるんだよ!?」

「そりゃ知ってるわよ。だって部活の後輩だもん。彼女言ってたわよ、生徒会長に告白されたんですけどーって」

「のおおおおお!!」

「も、萌々ちゃん……そのくらいに……」


 雅弥はいつでも落ち着いていて、優しい。ちょっと気が弱いところもあるんだけど、でも怒ると無駄に怖いんだよ。

 あ、ちなみに蓮は生徒会長だ。

 そしてもう一人。


「シン、おはよう」

「おはよう、ほーくん」


 我々の良心とも言える存在、高遠逢来たかとうほうき。寡黙で口数は少ないけど、周りのことよく見てて、いつでもみんなのことを支えてくれる。

 俺達は、いつもこの五人で行動することが多い。こうして揃って同じ高校に受験して、高3になって初めてみんな同じクラスになった。


「そういえば、お前知ってるか?」

「何を?」


 蓮が涙目になりながら訊いてきた。

 コイツ、打たれ弱いんだよな。昔から萌々ちゃんにいじめられて泣いてたっけ。


「何をって、お前なら知ってると思ったけどな。奈々実さんが結婚すること」

「……ああ、うん」

「今度、みんなで婚約のお祝いになにかしようかって話していたのよ」

「へぇ、いいね」


 俺は、みんなから少しだけ離れた。

 それに気付いたほーくんが、俺の傍に寄ってくれる。


「大丈夫?」

「平気だよ」


 小声で聞いてきた彼に、俺も小声で返す。

 大丈夫。

 大丈夫、じゃないよ。本当は。

 相手にされないまま、失恋しちゃったよ。

 奈々実さんは、俺らが小さい頃によく遊んでくれたお姉さん。俺は小さい頃から奈々実さんが好きだったわけだけど……


 結局、相手にされなかった。

 告白もしたけど、子供扱いされただけ。



 おかげで俺、グレました。



 もう、どうでもいいよね。




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