case26.井上唯

第1話



 ずっと、気になっていた。




 貴女は、十分可愛い人です。




 ◆◇◆



 ずっと前から、気になってる人がいた。

 僕がまだ小学生のとき、よく駅前のショッピングモールで見掛ける人がいた。その人は姉と同じ制服を着ていて、いつもショーウィンドウの前でジッと何かを見てた。

 それは、可愛い洋服。マネキンに着せられた洋服を、その人はキラキラとした目で見ていたんだ。

 その人は背が高くて、モデルみたいだなって素直に思った。カッコいいなって思ったけど、すぐに可愛いって思うようになった。

 可愛い服をジッと見てるあの人は、幼い子供みたい。

 僕と一緒だ。憧れてるんだ。理想の、自分に。

 そんな貴女が、愛おしいと思うようになった。


 話がしたいって、思った。

 名前が知りたいって思った。


 彼女のことを知って数年。

 あまり良い展開ではないけど、僕は彼女と知り合えた。

 姉の忘れ物を届けに、姉の中学の時の制服を着て、女子校に行って、あの人に逢えた。まぁ、結果オーライだよね。


 そして、休みの日に偶然彼女に会って、名前を知った。

 彼女の名前は佐々木純さん。

 純さんのお願いで僕は女の子の服を着せられまくったんだけど、純さんが楽しそうだったし、とても嬉しそうだったからいいや。

 そのあと、別れ際にアドレスも交換できたし、メールでのやり取りも日に日に増えていった。

 僕は、純さんのことを知れて、もっともっと好きになった。

 もっと好きになりたいって、そう思った。

 この気持ちを、知ってほしいって思った。


 だから、言っちゃったんだ。

 好きですって。

 放課後、彼女の通う女子校の前で。


「……」

「……」

「あ、あの……純さん?」

「えっと……え、え?」


 混乱してる。そうだよね、急にこんなこと言ったら迷惑だよね。

 僕は前から純さんのこと知っていたけど、純さんはつい最近知り合ったんだもんね。

 どうしよう。つい気持ちが先走って告白しちゃったけど、もっと親しくなってからの方が良かったかな……

 で、でも、多分だけど純さんは僕のこと男として見てないと思うんだ。会っても可愛いしか言ってくれないし。だったら先に僕の気持ちを知ってもらった方が、意識してもらえるんじゃないかな。


 ……大丈夫、かな。



「じ、純さん?」



 ずっと黙ったままなんだけど、どうしたんだろう。

 そんなに困らせちゃったのかな。迷惑だったのかな。


「あの?」

「あの」

「は、はい……」

「私、女だよ?」

「え? はい、知ってます」

「あ、だよね。ゴメン、私……今まで女子にしか告白されたことないんだ」

「え?」

「だから、つい……」


 そういうの、本当にあるんですね。

 純さん、顔が真っ赤になってる。照れてる、とか? ちょっとは僕のこと意識してくれてるのかな。


「ゆ、唯君……私、こんなだよ?」

「はい」

「背も無駄に高いし、女らしくもないし……」

「そんなことないです。純さんは素敵な人です。十分可愛いです」

「なっ!?」


 本当です。

 純さんは可愛い人です。僕は、そんな貴女が好きなんです。


「返事は、今じゃなくていいです……急にこんなこと言ってごめんなさい」

「え、あ……」

「でも僕、本当に純さんのことが好きです。本気、です」


 そう伝えて、僕はその場を去った。

 恥ずかしいけど、僕は急いで家に帰った。


 純さん、どう思ったかな。

 僕のこと、どう思ったかな。



 はぁー……


 ドキドキした。




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