case20.石蕗浩也

第1話




 君は、日に日に綺麗になる。




 そんな君を前にしていつまでも我慢が出来るほど、


 俺は、大人じゃないよ。





 ◇◆◇




「瀬奈に手ぇ出してないだろうな?」

「ああ。悲しくなるくらいにね」


 俺の彼女、瀬奈ちゃんの兄であり親友の小早川湊の問いに、俺は溜め息交じりに答える。

 湊とは小学校に上がったときからの親友。そして、その妹の瀬奈ちゃんとは一昨年から付き合ってる訳なんだけど、未だに俺はキスすらしていない。

 それもこれも、兄の目が厳しすぎるためだ。


「あのさぁ、親友の頼みだから我慢してるけどさ……もう良いでしょ?」

「よかねーよ。俺は父さんや母さんの代わりに弟と妹を見守ってやらなきゃいけねーの。わかる?」

「だからってさー」


 さすがに厳しいよ。厳しすぎるよ。

 今まではお互いにまだまだ子供で、それなりに我慢も出来ていたよ。

 でもさ、瀬奈ちゃんはドンドン綺麗になっていく。可愛かった彼女だったけど、少しずつ大人の女性になっていくんだ。

 そんな彼女を前にして我慢が出来るほど、俺は大人じゃない。俺は聖人なんかじゃないんだ。


「……湊って実はシスコンだよね」

「はぁ!?」


 今は女子校だからいいけど、卒業したら色んな出逢いがある。そしたら俺なんかより良い人に出逢って、その人のこと好きになってしまうかもしれないじゃないか。

 そしたら俺、相当落ち込むんですけど。そうなったら湊、お前のせいにするからな。

 もしこれが原因で嫌われたりしたらどうすんだよ。

 全然手も出さないヘタレ扱いされたら、俺傷付くぞ。トラウマになるぞ。


「お前は良いよな。今日もデートだろ?」

「まぁなー」

「なんかズルくね? なんでお前は彼女とデートしてイチャついてくるくせに、なんで俺はダメなんだよ」

「俺の妹だからだ」

「……お前、絶縁しない?」

「しねえよ!?」


 不公平だ。

 俺、初めてお前に殺意を覚えたよ。親友だけど、本気で嫌いになりそうだよ。


「じゃあ、いつになったらいいんだよ」

「せめて高校生になってからだな」

「あと一年も!?」

「当たり前だ。中学生のときは清く正しくだな……」

「……中3のとき、先生にキスしたとか言ってなかったっけ?」

「…………」

「なぁ、夜中に俺に電話してきたよな」

「……」

「嫌われたらどうしようって泣きついてきたよな」

「うっせーよ!! とにかく、中学卒業まではダメったらダメだ!!」

「なんでだよ!?」


 理不尽だ!

 そりゃあ妹を心配する気持ちが分からないわけじゃないけど、これは理不尽にもほどがあるだろ。



 俺、我慢しすぎておかしくなりそうだよ。


 いつか悟りを開けそうだ。




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