第2話
前は、貴方の優しさが嬉しかった。
でも、今は嬉しくない。
そんな優しさ、欲しくないよ。
◇◆◇
私が通っているのは、中高一貫の女子校。この春から私は中学三年生。
朝早い時間に登校して、って言っても結構ギリギリなんだけど、所属してる陸上部の朝練に参加するために更衣室で着替えを済ました。
「おはようございます、先輩!」
「ああ、おはよう」
「瀬奈先輩、おはようございます!」
「はい、おはよー」
後輩の子が挨拶してくれる。それに返事をしていき、グラウンドに出た。
グラウンドには既にマネージャーの
「おはよ、志帆」
「おはよう。ったく、部長が一番最後ってどうなのよ」
「ゴメンって。しょうがないじゃん、お兄ちゃんが起きてくれないんだもん」
「叩き起こせよ」
「叩き起こそうとはしたよ」
志帆、見た目は超お嬢様っぽいのに口が悪いんだもんな。
まぁいいや。私はジャージの上を脱いで髪を一つに括り、トラックを一周する。さすがにまだちょっと肌寒いかな。でも、こうして走ってるのは好き。
なんていうか、冷静になれる。無心になれる。
今までは、ね。
今の私は嫌なことばかり考えちゃう。勿論、浩也さんとのことだ。
丁度一年前、私から告白して付き合うようになったんだけど、浩也さんの私への接し方は今までと変わらない。親友の妹としか、見られていない気がする。
正直、不安でしかない。最初のうちは嬉しかったよ。ずっと好きだった人と付き合えるんだもん。喜ばない訳がない。
でも、段々と悲しくなってきた。
だって、彼は私に触れてこない。頭を撫でるとかはしてくれる。デートのときは手も繋いでくれる。
それだけ。たったのそれだけ。こんなの、今までと何も変わらない。
もしかして、私が親友の、お兄ちゃんの妹だから仕方なく付き合ってるのかな。もしそうだったら、どうしよう。
いつ別れてもいいように、手を出さないでいるのかな。
ヤダ、イヤだ。どうしようどうしよう、どうしよう!
一周して、志帆がストップウォッチを押す。
そのタイムを記録しながら、私の元に歩み寄ってきた。
「うーん。最近、ちょっとタイム落ちてるわね」
「マジ?」
「まぁ、そこまで酷く落ちてるとかじゃないけど……」
迷いとか悩みとかって走りにも出るのかな。
なんか、好きなものを楽しめないって嫌な感じだな。浩也さんのことも、こんな風に疑っちゃって……私って嫌な子。
ハッキリ聞いてみた方が良いのかな。私のこと、どう思ってるのって。
でも、それって何かウザくないかな。余計に嫌われちゃわないかな。
「……はぁ」
「せ、先輩。あの、これどうぞ!」
ジャージを羽織ると、後輩がタオルを差し出してくれた。それを笑顔で受け取ると、後輩は嬉しそうな顔で他の子のところに戻っていった。
可愛いな。私も、あんな風に可愛かったら……
「相変わらずモテるわね」
「志帆」
「ほら、今日も朝からギャラリーがわんさかいるじゃん」
確かにフェンスの向こうには沢山人がいるけど、別にみんながみんな私のこと見に来た訳じゃないでしょ。
とりあえず、「小早川先輩」って声が聞こえたから手を振ってみた。そしたら、ビックリするぐらい黄色い声が校庭に響いた。
思わず笑顔が引きつった私に、志帆が「ほらね」って。
な、なによ。何が言いたいの。
もしかして、私って男っぽいのかな。だから浩也さんも私のこと相手にしてくれないの!?
ダメだ。
マイナス思考から抜け出せない。考えれば考えるほど、悪いことばかり思いついてしまう。
もう、ヤダ……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます