第3話
離れないよ、ずっと。
貴方の傍にいるよ。
愛してるから。
◇◆◇
それからの日々は慌ただしく、俺は中々リク兄の部屋に遊びに行けなかった。
仕方ない。だって俺は受験生なんだ。夏休みも夏期講習とか部活が色々あったせいで他のこと何も出来なかった。
冬休みも似たようなもの。受験受験で大忙し。
つまり、だ。リク兄が家を出てからあっという間に一年が経っちゃった訳です。
そんなこんなで、俺は義務教育を卒業して高校生になった。
正しくは、高校生になる。今はまだ入学式前。春休み中だ。今のうちに俺はリク兄に会いに行こうと思う。
なんだかんだでリク兄は長期休暇のときに実家に帰ってきてくれたから、この一年間全く会わなかった訳ではない。ただ、あまり話はしてないだけ。
だから、ちゃんと話をするのは久し振り。
俺、また身長伸びちゃったんだよな。リク兄、どんな顔するかな。ショック受けちゃうかな。
電車を乗り継ぎ、俺はリク兄の暮らすアパートに向かった。
メールしたとき、駅まで迎えに行こうかって言ってくれたけど断った。何を話そうか、色々と考えたかったから。
と言っても駅からアパートまでは数分。そんなに考える時間もないんだけどね。
リク兄が住んでるのはアパートの二階の角部屋。部屋の前で俺は深呼吸して、インターホンを押した。
少しして、ドアが開いてリク兄が顔を出す。相変わらずリク兄が小さくて可愛いな。
「久しぶり、リク兄」
「……お前、また伸びただろ」
「うん。5センチ伸びた」
「帰れ」
「ええ!?」
「……嘘だよ。早く入れ」
リク兄は渋々といった顔で俺を部屋に入れてくれた。
リク兄の部屋は片付いてる。実家にいたときから几帳面だったから、今日だけって訳でもないんだろうな。
でも、キッチンにあったカップ麺のゴミを見逃しはしない。ちゃんと食べてるのかな。毎日コンビニとかで済ませてたりはしないだろうな。
リク兄、料理は出来なくないけど好きでもないからな。面倒臭がって自炊してないんじゃないか?
「リク兄、ちゃんとご飯食べてる?」
「え? あ、ああ」
「コンビニ弁当とかカップ麺?」
「え、いや……」
やっぱり図星だな。
「そんなんだからリク兄は小さいんだよ」
「なっ!? うっせバカ!!」
全く。母さんから持たされた野菜とか煮物の入った袋を渡した。
リク兄はもう身長伸びはしないだろうけど、健康には気を付けないとね。
「どう? 一人暮らし」
「ああ、上手くやってると思うよ。特に困ってることもないし」
「そっか」
「そっちは?」
「こっちも大丈夫。リク兄がいなくて寂しいってだけ」
「……」
リク兄は顔を赤くさせて、俺から顔を背けた。
可愛いな。照れちゃってさ。
リク兄は顔を赤くさせたまま、キッチンから飲み物を持ってきてくれた。俺が好きなジュース、買っておいてくれたんだ。優しいな。
俺はリク兄からグラスを受け取り、一口飲んだ。
「稜哉……」
「うん?」
グラスをテーブルに置くと、リク兄が何か躊躇いながらも口を開いた。
「……お、お前……あれから、何か変わったか?」
「身長が伸びたよ」
「そういうことじゃねーよ。てゆうか、お前はもう伸びるな」
「伸びちゃったんだから仕方ないよね」
「……それ以外は?」
「……気持ちの整理はついたんじゃないかな、多分」
そう言うと、リク兄は少し顔を強張らせた。
リク兄が家を出て一年。俺は受験勉強に追われながらも、ちゃんと考えたんだ。リク兄のことを。
俺はずっと、リク兄に甘え続けてた。俺のことを甘やかしてくれる兄の優しさに胡坐を掻いて、当の兄のことを考えられてなかった。
なんて自分勝手だったんだろう。これじゃあ嫌われてもおかしくない。
それでも、リク兄は優しかった。俺のこと考えてくれた。
そんな兄が、俺は今でも好きだ。離れても、この気持ちは変わらない。
そう告げると、リク兄は何だか泣きそうな顔をした。
やっぱり、迷惑だったかな。弟にいつまでも想われ続けるなんて、嫌だったかな。
「……リク兄、俺……」
「お、俺は……お前とずっと一緒にいたいって思った」
リク兄は顔を俯かせて、絞り出すような声で言う。
肩を震わせながら、自分の気持ちを打ち明けようとしてくれている。それを、俺はちゃんと聞かないといけない。
「お前のことが……稜哉のことが大事だから、好きだから、一生離れたくなくて……ずっと家族のままなら別れるとか嫌われることもないと思ったから……俺はお前の気持ちを受け入れることが出来なかった……」
「……」
「でも、それはお前から逃げてるだけなんだよな。お前の気持ち無視して……勝手に家出てさ……俺、お前に嫌われてもおかしくないって思ってた……」
「リク兄、それは……」
「俺!!」
「っ!?」
「俺、もうお前から逃げないから。お前の気持ち、受け入れたい。こんな俺でも、お前はまだ好きでいてくれるか?」
リク兄は顔を上げ、真っ直ぐ俺の目を見て言った。
ヤバい、今度は俺が泣きそうだ。リク兄が、兄としてでなく一人の人として俺と向き合ってくれてる。
俺は、堪らずリク兄を抱きしめた。ずっと、ずっと抱きしめたかった。
「好きだよ、リク兄……陸、陸……!」
「っ、稜哉……」
陸を押し倒し、俺は感情のままにキスをした。
唇に噛みつくように、陸の唇を貪る。
もう、陸は俺のもの。俺だけの陸。
「好きだよ、陸」
「俺も……お前が好きだよ」
大丈夫。
俺は、陸から離れたりしないから。
ずっと一緒にいよう。
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