case17.椎名陸
第1話
弟が生まれたのは、俺が五歳のとき。
生まれてきたばかりの弟の小さな掌を見て、俺は思ったんだ。
俺が弟を、稜哉を守ってやろうって。
そう思ったんだ。
なのに、こんなことになるなんて。
◇◆◇
「リク兄。リク兄ってば」
「……」
「待ってって、置いてかないでよ」
「……」
俺の名前は
そして、後ろに付いてきてるのが弟の
正直言って、あんまり一緒にいたくない。てゆうか、並んでほしくない。その理由は、俺とコイツの身長差だ。
俺の身長は中学の頃で止まっちゃったのにも関わらず、弟は成長期か何かしらんがグングン伸びやがって、俺の身長をあっという間に抜かしやがった。
俺が157cmなのに対し、稜哉は170cmを越えたそうですよ。俺のときは成長期なんてなかったのに。俺、成長期に嫌われるようなことしただろうか?
いや、そんなことないだろう。毎日牛乳だって飲んでたし、好き嫌いだってほとんどない。てゆうか、同じもの食ってきたのに、なんで兄弟でこんなに差が出るんだよ。有り得ないだろ。有り得ちゃいけないんだよ。
「ったく、何なんだよ。俺とお前とで何が違うっていうんだ」
「なんでだろうね。遺伝?」
「同じ遺伝子継いでるはずなんですけど!?」
「じゃあ、あれだよ。リク兄は母さんに似たんだ。で、俺が父さん似」
なんか納得がいかないけど、確かに母さんは背が小さい。そして父さんはバカみたいにデカい。
なに、その遺伝の仕方。気に入らないんですけど。
「……はぁ。いいよな、お前は」
「うん、俺はまだまだ伸びるよ」
あーあ、成長期が憎たらしい。母親に似て童顔な俺はどっからどう見ても、コイツの弟みたいだ。よく間違えられるしな。
「この老け顔」
「ちょっ、八つ当たりやめてよ」
「うっせ、バーカ」
「リク兄のショタ顔!」
「てめぇ!?」
言ってはならないことを! 今、お前は俺の逆鱗に触れたぞ。
「お前なんかもう口利かない」
「あ、ゴメンって。今度プリン買ってきてあげるから」
「また子ども扱いして……!」
「いらない?」
「……いる」
好物で機嫌取ろうとするとか、汚い奴め。プリンに罪はないんだよ。
ったく、ニコニコしやがって。なんだよ、面白がってんのかよ。
そんなことを話してるうちに、分かれ道の前に来た。右に行けば中学。左に行けば駅。いつもここで俺らは別れる。
「リク兄、今日は何時に帰ってくるの?」
「さぁな。夕方には帰る?」
「わかんねーよ」
「早く帰れるようなら連絡してね」
「わかったよ」
「遅くなるときも連絡してね。迎えに行くから」
「いいから早く学校行けよ!」
稜哉のヤツ、いつもこうだ。
そろそろ兄離れしてほしいもんだよ。ま、俺も人のこと言えないんだけどさ。
本当は大学生になったら家を出る気だった。でもうちは両親が共働きだし、稜哉はまだ中学生。だから俺は家を出るのを止めた。稜哉を一人にしたくなかったから。
見た目はこんなだけど、俺は兄貴なんだ。弟を守ってやらなくちゃいけない。
それに、俺は稜哉のことが好きだ。本気で、恋愛対象として、稜哉が好きなんだ。
でも、俺は兄貴だし、家族だし、何より男だ。こんな風に思うこと自体、間違いだ。だからこそ、この想いを忘れるために家を出たかったんだけど。
出来なかった。俺は稜哉から離れられないんだ。
こんなんじゃダメだと思ってるのに。なんで、こうなっちゃったんだろう。
稜哉も稜哉だ。アイツの反抗期はどこいった。俺や親と喧嘩らしい喧嘩をしたこともないし、反発したりとか全くない。俺は中学のとき相当だったのに。
俺に成長期がなかったように、アイツには反抗期がないのか。そんな訳がないんだろうけど。
アイツに彼女でも出来てくれればいいのに。そうしたら、俺だって諦めがつく。
さっさと、俺から離れてくれ。
俺はお前から離れられないんだ。
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