第48話 覇王の後継者

「ぐわあああ」


いきなり、いきなりです。


頭が割れるような激しい頭痛が僕を襲います。

余りの痛さに僕はのたうち回ります。

そして、頭の中に言葉が響き渡ります。


「古龍の討伐により、レベルアップと古龍の持つスキルの移管が始まります」


その声と共に僕は意識を手放したのでした。


そう、僕は気絶したはずです。

でも僕は今白い部屋にいます。


「来てくれたか、無理に呼び出してすまなかったな」


気が付けば、目の前におじいさんが佇んでいます。

長く白い髭がおじいさんの生きた年月を表しているようです。


「ええっと、ここはどこですか?

僕は荒野に居たはずなんですが」


「ああ、ここは儂の精神世界だ。

もっとも、儂は死んでしまったので後一時間もすれば消滅する場所じゃがな」


「精神世界?、死んでしまった?」


不思議なことを言うおじいさんです。

でも、もしかして?


「それって、僕も死んでしまったって言う事ですか」


自分で言った死と言う言葉に胸が締め付けられて気分が悪くなります。


「いや、お前は死んでいないぞ。

もっとも、お前が正々堂々と儂に挑んでいれば儂では無くてお前が死んでいたと思うがな」


冗談なのでしょうか?

でもおじいさんの剣呑な雰囲気はとても冗談とは思えません。


「僕がおじいさんに挑むんですか」


年寄りと戦う趣味は無いんですがね。


「そうじゃな、あんな規格外の魔法を不意打ちのようにぶつけるのではなく、ちゃんと挑んでほしかったのじゃがな」


「ええっと、おじいさんって」


「なんじゃ、儂の名前も知らないのか。

ふざけた子供に殺されたものじゃな。

儂の名は黒龍、お前たち人族は儂の事を古龍と呼ぶがな」


どう見ても人にしか見えないんですが、この人は龍なのでしょうか。

そう言えば、頭の中で声がしてますし、この空間も尋常じゃないですね。


「もしかして、黒龍さんは僕が魔法の実験をした荒れ地に住んでいたんですか」


「なんだ、その不思議そうな問いかけは。

お主、もしかして儂の事を知らずに殺したと言うのか」


底冷えのする声でおじいさんは僕に問い掛けてきます。

部屋の温度が急激に下がった気がします。


「多分そうです、ごめんなさい」


僕は土下座をして謝ります。

これぐらいの事しか僕には出来ませんから。


「ふん、儂は随分とつまらん死に方をしたようだな」


「黒龍さんは僕を殺しますか」


「お前を殺すのは簡単じゃ」


そう言ったおじいさんの姿は掻き消えて代わりに巨大な黒い龍が現れます。

僕はこの龍と戦うべきでしょうか?

それとも贖罪としてこの龍に殺されるべきでしょうか?


「坊主、儂のこの姿を見ても取り乱さんとは期待通りの胆力だな。

さて、お前には死ぬ以外の償いの道もある、聞きたいか」


「はい、知らなかったとはいえ、僕は黒龍さんを殺してしまいました。

その償いが出来るのなら死を賭して努めたいと思います」


「ふん、随分と大言壮語を言うやつだ。

まあ、儂を殺したんだからそれぐらいの心意気は持ってもらわんとな。

さて、お前がなすべき償いは儂のねぐらに残されている龍の卵を持ち帰り保護する事じゃ」


「黒龍さんのねぐらにある卵ですか?」


「そうじゃ、龍の卵が2つある。

それを持ち帰り孵化した後、龍として独り立ちするまでお主が育てるのだ」


龍の卵ですか。でも黒龍さんの寝床に有るんですよね。


「卵を保護して育てろとの事ですが、そこって黒龍さんが死んだところですよね?

卵が無事とは思えないんですが」


こんなごっつい龍が死んだのに卵が無事とはとても思えないんです。


「儂の寿命は尽きようとしていたので弱っていた。

だから、卵を守るのに全力を投じ、結果として儂自身までは守れなかった。

だから卵は無事だが儂は死んでしまったという事じゃ。

それにしてもなんじゃあの訳の分からん粒子は。

目に見えん微小な粒子の癖をして信じられん速度で身体を突き抜けたぞ」


ああ、物質と反物質の対消滅で発生したガンマ線を浴びてしまったんですね。

黒龍さんのねぐらは爆心地の近くにあったみたいです。


「その粒子はガンマ線と言って岩とかも突き抜けて身体を壊してしまうんです。

よく卵は無事でしたね」


「小僧、古龍を舐めるなよ。

元気であればあんなもの簡単に防いだのだがな。

老いとは詰まらんものだな」


寂しげな言葉の後、黒龍さんは僕を見据えます。


「よく見ると、お前は不思議な奴じゃな。

ふたつの魂が融合しているではないか。

それに、ほう、マナを全く扱えんとは

代わりに不思議な力がある様だな」


凄い、黒龍さんは一瞬で僕を看破します。


「だが、今のお前では儂のスキルが移管されるだけで身体と魂が耐えきれずに死んでしまうぞ。

どれ、少しお前の身体と魂を成長させるとするか」


そのとたん、僕の体が光だし急激に成長を始めます。

手足が伸びて服がキツくなります。

お腹が強く締め付けられるので急いでズボンのボタンを外してズボンを緩めます。

シャツも弾け飛びそうですがボタンを外す事でキツキツですが何とかなりました。


そして、身体の成長と共に心も育ってゆくようです。

社会人だった前世の僕の感情が今世のオイゲンの感情に混ざり込んできます。

他者や社会に対する考え方が理知的で打算を含んだ物に変わります。

何よりも無邪気に触れていた女の身体に対して別の感情が芽生えています。


「こんなものじゃな。

前の身体では子供の魂が勝っていたが今では大人の魂が主となったぞ。

まあ、それでも人の歳で言えば12歳程度だがな」


俺の身体と心が12歳程度にまで育っている?

自分はまだ前と同じオイゲンと言えるのか?

前世の大人の感情がここそこから噴き出して自分のあり姿を変えているようだ。


「ああ、爺さん判るよ。俺は変わったみたいだな」


もう、前のようには話せない。


「そうじゃな、そしてこの後、お前はレベルアップと儂のスキルの移管がされることになる。

だが、レベルアップはその体の耐えられる範囲までじゃ。

スキルの移管はされるがマナを扱えないお前では上手く発動は出来んじゃろう」


爺さんが嫌なことを言う。


「まあ、レベルはしょうがないが移管されたスキルが使えないのでは意味が無いぞ」


俺は爺さんに不満をぶつける。


「そうだな、お前には卵を無事に成龍まで育ててもらう必要もあるしな。

おまけで、お前の不思議な魔力を変換して儂のスキルを使えるようにしてやろう。

もっとも、それで使えるスキルは移管されるスキルの中の一部だけじゃがな」


一部でも古龍のスキルが使えるようになるのは凄い事だ。

卵の後見をすることで俺にも恩恵はあるようだな。


「それで、爺さんのスキルの内、何が使えるんだ」


俺は湧き上がる興奮を抑えて爺さんに尋ねる。


「微々たるものじゃがな。

亜空間倉庫、身体強化、感知の3つだけじゃな」


直接的な戦闘のスキルではないが随分と役に立ちそうだ。

荷物の運搬に困らずに、まだ育ちきっていないこの体でも大人顔負けに動けて、周りの敵を感知でき不意打ちを喰らわない。

ある意味、理想的だな。


「ああ、それで十分だ」


「後、お前は儂の称号を引き継ぐことになる。

その称号は『覇王』じゃな」


「覇王?」


「そうじゃ、望めばこの世界に覇を唱える事も叶うじゃろう」


俺がこの世界に覇を唱えるだと。


「それじゃあ、儂はそろそろ行くぞ。

そうそう、儂の身体はくれてやる。

それと洞窟にある儂の財産もな。

儂のねぐらは感知を使って見つける事じゃ」


「爺さん...」


そしてこの部屋に来た時と同じように一瞬で視界が変わる。

俺は荒野に戻ったみたいだ。


そして始まった。


「古龍の討伐でレベルが上がります」


「古龍の討伐でレベルが上がります」


「古龍の討伐でレベルが上がります」


「古龍の討伐でレベルが上がります」


       ・

       ・ 

       ・


「この身体でのレベルの上限に達しました」


「スキル龍のブレスが移管されます、アクティベートに失敗しました」


「スキル龍の咆哮が移管されます。アクティベートに失敗しました」


「スキル龍の飛翔が移管されます、アクティベートに失敗しました」


「スキル龍の防御が移管されます、アクティベートに失敗しました」


「スキル龍の威圧が移管されます、アクティベートに失敗しました」


「スキル亜空間倉庫が移管されます、スキルはアクティベートされました」


「スキル身体強化が移管されます、スキルはアクティベートされました」


「スキル感知が移管されます、スキルはアクティベートされました」


そして頭の中に響いていた言葉が終わりを告げる。


「主様、その身体はいったい」


気が付けば銀とサミーが心配そうに俺を見ているな。


「2人とも心配するな。少し成長しただけだ」


「それが少しか?

それにオイゲンお前の雰囲気が随分と変わったぞ」


「ああ、身体と心が少し成長したからな。

それよりも反物質を使った大量破壊兵器の実験は大成功じゃないか」


「主様、それですが、これは本当に主様がおこなったことなのですか」


銀は未だに成長するキノコ雲を怯えるように見ながら俺に聞いてくる。


「そうだ、俺がやったんだ。

この力が有れば帝国を滅ぼすことも可能だな」


帝国を滅ぼす。

軍の最大動員数20万を誇る帝国を滅ぼす。

それは多くの兵士の命を奪う事で初めて実現できる事だ。

今の俺はそれを口にできる程度の覚悟は持てるようだ。


目の前に広がるキノコ雲は戦場で有れば多くの死体を生み出す雲だ。

俺はそれを見つめながら自分が得た力を噛みしめる。


覇王の称号か、この力はそれにふさわしいな。

焼けただれた荒野に燃え上がる死体の幻影を見ながら俺はそう考えるのだった。

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