第26話 僕の必殺魔法が出来たんだよ

僕は銀とサミーと共に、広場に木の的を置いて魔法の訓練をしているんです。


そして、今日の訓練のテーマはと言うと、銀とサミーに二人の得意な攻撃魔法を使ってもらい、僕がそれを見て出来れば模倣するというものです。


でも銀が僕に見せてくれたファイアーボールと、僕が木の的を燃やした魔法は全く別の物でした。


そこで、僕は銀に質問します。

銀が使う魔法を理解したいんです。


「ねえ、銀、炎って何だと思います」


僕の質問に銀は戸惑っています。


「主様、申し訳ないが、炎は炎だろう。それ以外の何物でもない」


銀は戸惑いながらも僕の質問に答えてくれます。

でも、銀にとっては当たり前すぎることを、僕がなぜ質問するかは分かっていない様です。


「炎はそれだけでは生まれないはずなんだ。物が燃えるから炎は生まれるんだ。

でも、銀のファイアーボールでは何も燃えていないのに炎だけがあるんだよ。

僕にはそれがよく判らないんだよ」


「う~ん、主様の話は難しいな。

逆に、私は主様の魔法がさっぱりわからないぞ。

いきなり木が燃えるほどに熱い空気こそ、大きな炎が無ければ生まれないのではないのか?」


確かにね。銀にとっては不思議な事なんだろうな。

きっと、木が燃えるほどに熱い空気なんて大規模な山火事でも無いと見れないだろうしね。

銀に分子運動とか原子振動とか言っても判るわけがないしね。

ぼくだってちゃんとは判っていないんだから。


これでは互いに相手の魔法を理解することは到底無理なんじゃないかな?


「そうだね、銀は僕の魔法が、僕は銀の魔法が良く判らないよね。

うん、無理に判ろうとするのは止めようか」


「じゃあ、次の質問だけど、ファイアーボールって銀の体のそばにしか作れないのかな?

別の場所、そう的の直ぐそばには作れないのかな」


「出来なくはない気がするが、主様、それに意味があるのか」


「的のそばに作れれば的に百発百中だと思うんだよね」


おっ、それは盲点だったって顔になったね。


「なるほど、やってみよう」


銀がもう一度ファイアーボールの魔法を唱えます。

今度は的のすぐ前に小さなファイアーボールが浮かんで徐々に大きくなってゆきます。


「あたれ」


ひときわ大きく銀が声を上げるとファイアーボールは少し動いて的に当たります。


「ぽふん」


ファイヤーボールが的に当たるととても間抜けな音が出て消えました。

音から分かる通り的も壊れません。


「なあ、主様、やっぱり投げつけないと当たっても爆発しないぞ。

良い考えかと思ったが、威力が無いし、そもそもファイアーボールが出来るまでに当てようと思う敵は逃げてしまうな」


おかしいですね?

炎が加速すると爆発しますか......しないと思うんだよね。

まあ、これが魔法はイメージって話ですかね。

でも科学とは相反しますよね。


よく発達した科学は魔法と区別が付かなくなると言いますが、魔法はよく発達した科学とは相入れないでしょうか?


確かに物理や化学を知らない人がイメージで魔法を発動するんですから、それは物理や化学の理から逸脱する事もあるんでしょう。

一方で、この世界だって物理や化学の理で出来ているんですよね。

僕にはやっぱりこの矛盾は気持ち悪いですね。


「そうだね、銀、変なことをお願いして悪かったね」


「なあなあ、オイゲン。私の魔法は見てくれないのか」


サミーが気を利かせて話題を変えてくれます。

意外に良いやつですね。


「そうですね。今度はサミーさんの魔法が見たいです。

サミーさんは風属性の魔法を見せてくれるんですよね」


「ああ、ウインドカッターの魔法を見せてやるぞ。

いいか、よく見てろよ」


サミーさんが魔法の発動の準備に入ります。

うーん、動きは銀と一緒ですね。

腕を天に向け詠唱をしています。

そろそろ、詠唱が終わりますね。


「ウインドカッター」


魔法名を唱えると同時に手を振り下ろします。

空気を切り裂いて、何かが的に向かいます。

そして的が切り裂かれます。


「さすがです、凄いです。

サミーさん、これって風の刃ってやつですか」


「そう、風で刃を作り、その刃が飛んで敵を切り裂くんだ」


う~ん、これも僕には出来る気がしませんね。

近いのは衝撃波のような気がしますね。

一方向にだけ衝撃波を出すのは出来そうですが、衝撃波の軌道を曲げたりとかできる気がしませんね。

それに、なんで減衰しないんですかね?


でも衝撃波、衝撃波、こんなのはどうですかね。


「サミーさん、僕のウインドカッターもどきの魔法を見てくれますか」


「ああ、オイゲンがどんな魔法を見せてくれるか、楽しみだな」


サミーさん、あまりハードルを上げないでくださいよ。やり難くなるじゃないですか


「では、やります」


僕は空気をひたすらに圧縮して小さな玉にすることをイメージします。

高圧に、高圧に、そう心の中で唱えます


そして魔力を奉じて、イメージ通りの高圧の空気の玉を的の前に出現させます

すると、高圧の空気の玉は、激しく膨張し衝撃波が生まれます。


「バアアアン」


イメージ通りに的が吹き飛びましたね。


「えええ、なんでいきなり大きな音が出て的が吹っ飛ぶんだ?

こんなのウインドカッターじゃないぞ」


「考え方は近いですよ。サミーさんが風で刃を作ったように僕は高圧縮した空気を解放する事で衝撃波を作ったんですから」


サミーさんがジト目で僕を見ています。


「衝撃波ってなんだ?

知らない言葉だぞ」


「う~ん、そうですよね」


「チェ、やっぱりエルフと人は分かり合えないんだな」


「サミーさん、言葉はかっこよいけど、使いどころは違うと思いますよ」


「まあ、そうだね」


「それで、この魔法、上手く行くか判らないんですけど、応用編が有るんです」


「応用編、それは見てみたいな」


「主様、銀も見たいです」


「では、やってみますね。

そうですね、的はあの切り株にしますか」


今から僕がやることが上手くいけば、対人攻撃用の魔法としては無敵な魔法になるはずです。

絶対に誰にも防げません。


「では、いきます」


やることはさっきと一緒、でも圧力はさっきの10倍にします。

その圧力で作られた極小な空気の玉の出現場所は切り株の中です。


「さあ、いっけえええ」


「バアアアアアン」


切り株が中から弾けます


「うひゃあ、これはなんですか」


上手くいきました。

切り株の中に出現した高圧の空気が膨張して、その圧力で切り株がはじけました。


「なあ、銀、銀には見えたか」


「いいえ、見えませんでした。

ねえ、主様、いったい何をしたんですか?」


「そうだな、これは判るか」


僕は手の上で少し圧縮した空気を開放します

すると僕の手を中心に軽い風がひろがってゆきます


「これはそよ風だけど、一点を中心に空気が広がってゆくだろう」


「はい、なんとなくわかります」


「これが暴風雨のような強さになったら」


「きっと、凄い力になりますね」


「それを切り株に中に出したんだ」


「だから、切り株は空気に押させて弾けたんですか」


「そう、正解だ」


空気が広がって物が弾ける。

このイメージは2人と共有出来るんですね。


「なあ、銀、これを敵の頭の中でやったらどうなると思う」


「主様、そんな恐ろしいことを考えてるんですか?

ききなり頭が弾けますよね。

逃れようがありません」


「そうだよね。どんなに身体を鍛えても、どんなに立派な防具を纏っても

防ぎようが無いんだ」


銀とサミーが目を見張った顔で僕を見つめます。


「主様、恐ろしい魔法です」


「オイゲンが怖いぞ」


2人の瞳には怯えが有りますね。


「ええ、だからこの魔法のことは秘密でお願いしますね」


「「ああ」」


2人とも惚けたような返事ですね。


でも、物は考えようですね。

ポーション一本分の魔力で一円玉1つ、1グラムの物しか出せないって分かった時は、僕の魔法では大した事は出来ないんだとがっかりしたんです。

でも高圧の酸素1グラムなら立派な武器になりますね。


さて、この魔法、どう使いますかね?

出来れば連続して使いたいですね。


では、訓練のポイントは連続使用ですね。


秒何件の発動が可能なんでしょうか?


避けられない帝国との戦いに向けて、僕はこの魔法を究めることにしました。

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