この物語は常に美しい色に満ちている

 優月は美しい光を放つ満月を見上げ意識を失うと、彼女の世界・時代とは違う日本にいることに気づいた。平安時代に近いその「日本」において大君の中宮である千夜(ちや)に預けられ、そして同級生であった晴とも出会う。優月は陽の存在として舞手となり、晴は陰の存在として大君を守ることになる‥‥。物語の内容と結末についてはぜひ本作を読んで欲しい。ここでは私が特に印象深かった、この物語を彩る色について紹介したいと思う。

 この物語は常に美しい色に満ちている。赤い牛車、桔梗の襲色目の二藍(青紫)と濃青(緑)、薄桃色で染められた布でできた桜の簪、鮮やかな赤と蘇芳の紅梅襲、白拍子の鮮やかな桃の色、桜の押し花、若草色の珠の帯飾り、桜火の夜(詳細は本作で)等、日本の伝統色が華やかに物語を彩るのだ。そして最終話ではため息の出るような色の拡がりが主人公たちを包み込んでいく。
 読者は平安から続く日本の色の美しさを思い描きながら本作を読んでほしい。美しい話が色彩を以って脳裏に再現され、より印象深くなるはずだ。

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