第2話 ローゼンデリアの閃剣①

 頑丈な鉄格子が錆を引きずって開く。その音はさながら獣の叫び声のように地下牢全体を駆け巡った。


「さあ入れ。アウグスト」


 か細い腕の衛兵はそう言って檻への入場を促すと、アウグストは少し屈んで鉄格子をくぐり抜け、檻の中へ文句無く収まった。

 ──また、けたたましく叫び声をあげて、鉄の柵が閉まり、少しすると『がちゃり』と、錠前に魔術による封が施される音がした。


「次の対戦は3日後だ。相手はおって知らせる。鈍るなよ」


 衛兵は冷徹にそう言うと、地下牢へ続く階段を上っていった。監視室とは名ばかりの、兵士たちの休憩室がある場所だ。

 ここは地下牢ではあるが、ここから先は誰もいない。コロシアムに繋がれた囚人は全てを決闘の果てに屍になった。

 ただ、ある一人、いや、を除いて──


「おかえりなさい、アウグストさん」


 中性的な声が鈴のように響く。ため息をついて部屋の中を見ると、にっこりと屈託の無い笑みを浮かべたエルフがそこにいた。


「ごはんにします?お風呂にします?といってもごはんは配給制で、お風呂は決闘後と週一の湯浴みだけですけど」


 じゃあなにもないですね。なんて明るそうに言って、透き通った緑髪の少女はベッドに座るように促した。


「お疲れ様です。今日の相手はあのローゼンデリア王国の広告塔──もとい、英雄と名高いレヴン氏だったようですが」

「ああ、運良く勝てた。今日こそ命運が尽きたと思ったがな」


 アウグストはベッドに腰掛け、手にしていた剣を縁に掛けた。


「その剣は……?」

「折れた剣の代わりだ」

「あー、遂に壊れたんですねーあれ──って、んん? これレヴン氏の閃剣では?」

「わかるのか?」

「はい!」


 軽快に答える少女が言う、ずっと地下牢にいる奴隷が言うのだ。この剣はさぞ有名なのだろう。アウグストは今更ながら初めて、敵将から奪い取った戦利品つるぎを観察した。

 ──巨大な獣の牙を1本、まるまる加工して作った鞘と、それの余剰分を剣の背にして、極限まで磨がれた鉄の刃が嵌め込まれた、剣と言うより飾りのような加工品。

 なるほど、鉄を破壊したときは驚いたが、これは道理だ。細剣というものの利点として、鋭く早い突きがある。この剣は鉄を切断面と刺突面にしか使用しておらず、あとは白亜のような牙でできている。

 軽く、頑丈で、かつ鋭い。見た目の美しさも相まって、戦場では一線の閃きがさぞ映えるであろう。これには檻の外を知らぬアウグストも思わず感心していた。

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