第92話 思わず声が出ちゃうよね

 ドラマパートから、最初の戦闘パートになったところで、ちびっこ達がうわーっと盛り上がる。

 そうそう。

 戦隊ものの華はやっぱりバトルだもんな。


 劇場版だからか、戦闘のエフェクトにも力が入っている。

 毎年毎年、レベルが上っていくなあ。


 感心しながらポップコーンに手を突っ込んだら、何か柔らかいものを握ってしまった。

 あれ?


 ……舞香の手だ。

 だが、彼女は映画に夢中で、全然気付いていない。


 ま……まさか映画館で初めて手を握る、的なイベントが、ポップコーンを同時に取ることで消化されてしまうとは……!

 しかもポップコーンがカラだし!


 すごい速度で食べたな、舞香。

 見ながら食べちゃうと幾らでも入る派だな……?

 食べても太らない勢、恐ろしい。


 周囲は子ども達の大歓声。

 ライスジャーがやられると悲鳴をあげて、頑張れコールが巻き起こる。


 この規模は、親でも止められないよね。

 これもまた、戦隊もの映画の楽しみでもある。


 隣の舞香も、固唾を呑んで見守っているようだ。

 その唇が、何か動いていた。


 あっ、もしや……応援したい?


「応援しちゃえばいいよ」


 俺が囁いたら、ちらっとこっちを見てから、恥ずかしそうな顔をした。

 すぐに映画に目線を戻すところはさすが。


 やがて、物語はまたドラマパートに入った。


 俺はちょこちょこ舞香の反応を確認しているのだけれど、実はこんな余裕があるのにも理由がある。


 それは……俺が前もって、この映画を下見しておいたからだ……!

 エスコートする立場の人間として、やはり一度現場に足を運び、シミュレートしておかないと不安で仕方なかったのだ。


 なので、今日はこうして落ち着いてエスコートできる。


 以前の俺だったら、初めての衝撃を大事にするために、未経験で望んだと思う。

 だけど、度重なるインターンや、一竜さんや芹沢さん、トモロウとの出会いが俺を変えたのだ……!


 この先の展開を分かってるからこそ、舞香やちびっこ達の反応に気を割いていられる。


 うんうん、みんな楽しんでる。

 メタルヒーローは、ちょっと背伸びしたちびっこ達にちょうどいい。 

 戦隊は等身大だ。


 等身大だと、全力で感情移入して楽しめるよな。


 やがて物語は終盤へ。

 45分なんてあっという間だ。


 舞香の別荘でノンストップ上映会をやったことに比べたら、瞬くほどの間。

 だけど、それは濃密な瞬間なのだ。


 宇宙バッタがついに本当の姿を現す。

 空を覆い隠していた雲の正体は、宇宙バッタの大軍だったのだ。

 そして、宇宙バッタは一つに合体して、巨大バッタロボになる。


 なんで一つになるんだ、バラバラの方が強いじゃないかというのは禁句。


 わざわざ倒しやすい形にまとまってくれるのが、様式美というものだ。


「がんばれ……ライスジャー、がんばれ……!」


 舞香の呟きが大きくなってきた。


 俺は、手すりをギュッと握りしめている、彼女の手に手のひらを重ねた。


 ビクッとする舞香。


「声出しちゃおう! がんばれ、ライスジャー!」


 俺が吠えると、周囲のちびっこ達がヒートアップした。

 響き渡る、「がんばえー!!」の大合唱。

 舞香は一瞬びっくりしたように目をしばたかせて、すぐに笑顔になった。


 すうっと、息を吸い込む音が聞こえる。


「がんばれーっ、ライスジャーっ!!」


 グランドコンバイナーVが、その威容をスクリーンいっぱいに映し出す。

 手にしたのは、スペースバトル耕運機が変形した武器……虫取り網だ。


『グランドキャプチャー……エンド!!』


 虫取り網が、縦から、横から、画面に光の軌跡を描く。


『ス、スペースバッターッ!!』


 宇宙バッタはそう叫びながら、仰向けに倒れていき……爆発した。


 振り返り、見得を切るグランドコンバイナーV。

 十体合体の超大型着ぐるみのはずだが、関節部分とか気を遣って作られていて、大変動きがいいんだよなこいつ。

 素直にかっこいいぜ。


 やがて、おなじみのEDソングが流れて映画は終了となった。

 とても賑やかな映画体験だった。


 特に、俺の隣が賑やかだった。


 舞香は頬を紅潮させながら、


「すごかった! 家で見たりはしていたけれど、映画館で見ると臨場感がぜんぜん違う……! 次も来る……絶対……」


 腕をぶんぶんさせて主張する。

 かわいい。


 そうだな、絶対にまた来よう。

 その時も、二人一緒だ。



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