第32話 よりセンセーショナルな方が
舞香の手を借りることになった。
だが、そのためにはいつもの十分間では、相談する時間すら取れない。
「むしろ、この時間は好きなことの話だけしていたいの! だから、協力して、稲垣くん!」
力強く舞香にお願いされてしまったのだから仕方がない。
俺は三度、米倉邸にやって来ていた。
そして、再び清香さんとの対面。
今回は家の中にいた彼女を、舞香が強引に引っ張ってきたのだ。
舞香、強くなったなあ。
「なんですか? 私もそれなりに忙しいのですけど」
「あの、一つだけお願いを聞いていただければと思って!」
「お願い? やぶからぼうに何ですか」
ちょっと冷たい感じの清香さんの物言いだが、表情は険しくない。
あれ?
むしろ優しい顔をしてる?
「あの……舞香さんに、FINEの使用を許してほしいんです」
「FINEというと、クラス間でのカーストや仲間はずれが横行するアプリですね? なりません」
ぴしゃりと言われた。
「それは闇の部分なので……! 今回のは、麦野さんや俺、舞香さんだけでつながる小規模のもので。そちらで舞香さんのスマートフォンは管理できてるんでしょう?」
「それはそうですが。もちろん、ごくプライベートなところは深くは見ませんが、リストアップした有害なサーバへの接触は切断しています」
米倉の技術力……。
「じゃあ、仲間内でのFINEは許してもらえると」
「……一度きりですよ? それから、あなたにはまたやってもらうことがありますから」
「は、はい。じゃあ良いということで?」
「ええ、許します」
俺は舞香に向けて、拳を握ってみせた。
だが、なぜか舞香が恥ずかしそうな顔をしているではないか。
どうしてだろう?
「名前で何回も呼ぶんだもの……! 不意打ちだよー」
そっちかあ。
でも、赤くなってもじもじする舞香がかわいい。
俺はまたへんてこな仕事をしなきゃいけなくなったけど、それだけの価値はあった。
と、いうことで!
稲穂『今日からFINE会議に彼女も参加します』
おこめ『よろしくね』
むぎゅ『げえー舞ちゃん!? どうやって許可とったの』
おこめ『稲垣くんががんばったの』
むぎゅ『また、またお前かー!!』
しゅんぎく『早く付き合っちゃいなよ君たち』
おこめ『ふぁー』
むぎゅ『はあー!?それはだめでしょーだめだめー』
稲穂『二人とも落ち着いて。会議会議』
このチャットも、ついに四人になってしまった。
賑やかだなあ。
最初は舞香をヒーローショーに誘うための相談チャットが、舞香を助けるためのチャットになって麦野が加わり、そして舞香が麦野と俺を助けるために加わってきた。
なかなかエモい流れだ。
ちなみに舞香からは、こっそりと特撮会話専用のチャットを作ろうと持ちかけられているが、このFINEは米倉家によって監視されているのだ。
下手なことはできないのだぞ……!
ネット環境は人の欲望を開放してしまう。恐ろしいな。
舞香が一瞬で堕落しかけたからな。
俺が物思う間にも、会議は進んでいた。
会議は会議でも、井戸端会議だ。
しゅんぎく『私がおもうにー噂は強烈だから広まるわけよ』
むぎゅ『きょうれつだったよ!なんで春菜があいつと付き合ってることになるの!春菜の初彼氏あいつになるじゃん!!111』
おこめ『春ちゃんちょっとおちつこうか?おくちちゃっく』
むぎゅ『はいごめんなさい』
舞香怖いぞ!
なんかよく分からないけど、怒っていることだけは伝わってくる。
一瞬だけチャットが静かになった。
しゅんぎく『いいかにゃー』
おこめ『どうぞどうぞ』
むぎゅ『(しょんぼりしてるアイコン)』
稲穂『芹沢さんにアイディアがあるんですね』
しゅんぎく『さっきそれを話すところだったんだけどねえ。ええとね舞香さんが入ってきたから実行に移せるようになったんだけど』
おこめ『私がいないとできないことなの』
しゅんぎく『そうなの。センセーショナルなのが一番でしょ。なら答えは一つで舞香さんと稲垣くんが付き合っちゃえばいいじゃん』
おこめ『ふぁー』
稲穂『待ってください冷静になりましょう。それは清香さんにころされてしまいそうな気がします』
しゅんぎく『そっかまだそこまで攻略できてないもんね』
攻略ってなんだよ!
おこめ『じゃあ私にいい考えがあります』
おっ、ここで舞香が発言を……!
おこめ『私の本意じゃないですけど、春ちゃんが親衛隊をしてくれてるじゃないですか』
むぎゅ『うんがんばってる!』
おこめ『稲垣くんも親衛隊にしちゃえばいいんです』
な、なんだって!?
この会議、どっちに転んでもとんでもない意見ばかりでてくるような気がするぞ……!!
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