第27話 さあ、作ろう
「お邪魔しまーす……」
妙な緊張感を伴い、米倉邸に入った。
「あら、いらっしゃいませ」
メイドさんだ!!
あ、いや、作業用の服を着たおばちゃんだ。
彼女はニコニコしながら俺に頭を下げた。
「ど、ども」
俺も頭を下げる。
「家が広いでしょう? 昼の間は、掃除の業者の方に常駐してもらってるの」
事も無げに舞香が答えるのをみて、やはり生きている世界が違うなあと実感する。
ちなみに、料理は清香さんがやらず、コックがいるらしい。
「お父様の考えで、立場ある者は人を使う義務を有する、というの。自分たちで何でもやらず、こうして人を雇って仕事をしてもらうことで、自分たちの富を皆に分けていくんだって。難しいよね」
舞香には、まだ父の豊彦さんの考えが分からないらしい。
あえて人を使うことが大事、というのは俺もびっくり。
世の中だと、自分でできることは自分でって言われるもんな。
舞香は家の中のルールと外のルールで、ちょっとこんがらがっているみたいだ。
「この辺は俺も分かんないや。難しいよなあ……」
二人で首を傾げながら、用意された部屋へ。
ちなみに本日、俺の来訪は清香さん了解済みなんだそうだ。
俺ならばいい、と言っていたそうで、特別扱いされたみたいでちょっと……いやかなり嬉しい。
ただし、舞香の部屋に行くことは禁止。
用意された客間で過ごすこと、だそうだ。
客間には、既にカラフルな紙の箱が積み上げてあった。
スーパーミニプラモ、コンバイナーゼット……!!
食玩サイズにするには、合体ロボは複雑すぎるしパーツが多すぎる。
そのため、シロコンバイナー、アカコンバイナー、クロコンバイナーの三つがそれぞれの箱に収まっているのだ。
シロコンバイナーが頭と胸になり、アカコンバイナーが両腕と腹になる。クロコンバイナーは腰から下だ。
脅威の三体合体!
普段なら、リーダーが乗るマシンが胴体の半分以上を占めたりするのだが、ライスジャーはそれぞれのメンバーでロボの体の同じくらいの範囲を担当している。
「クロから作ろう」
俺は提案した。
一番モチベーションが高まるところは最後に取っておく。
まずは足元から固めていくのだ。
「分かったよ。えーと、まずは箱から出して……。これ、初めてだとどうしていいか全然分からないんだよね……」
何枚かのランナーを取り出して、舞香が困った顔をする。
プラモの基礎知識がないと、たしかに分かりづらいかもしれない。
そのために俺がいるのだ。
幸い、スーパーミニプラモはあまりパーツ数が多くない。
可動部分がさほど多くないから、変形するところだけ動けばいいのだ。
ってことで、大きなパーツがわんさか。
「じゃあ、作っていこうか。クロコンバイナーだけなら今日中に終わると思う」
「えっ、一日で全部作れないの!?」
「プラモは結構時間がかかるんだよ。焦らず、一歩一歩やっていこう!」
「はい、先生!」
舞香がいいお返事をした。
ということで、二人でのプラモ作りスタートだ!
……とは言っても、基本、作るのは舞香。
俺はそれを見ながら、色々アドバイスする役割になる。
何しろ、彼女の手付きが危なっかしい。
「あ、米倉さんそこは切っちゃだめ! それ、合体の時につなぐパーツだから!」
「きゃ!」
慌ててニッパーを離す舞香。
足元に落ちるニッパー。
危ない!
「ニッパーを手放してもだめ……」
「はい、先生……」
しゅんとなる舞香。
だけど、彼女は飲み込みが良かった。
どんどんプラモの作り方を覚えていく。
丁寧にニッパーで部品を切り離して、残ったバリや、ランナーとつながっていたゲート跡と呼ばれる切り取られた跡を削り落としていく。
ヤスリがけでも、本体に傷はつかないよう、丁寧に丁寧に。
そして組み立て。
接着剤がいらないスナップフィットというプラモだけど、逆を言うとこれって一度はめ込むとリカバリーが難しい。
そこも、説明書を見ながらパーツの形などを指差し確認。
丁寧に丁寧に組み上げる。
完全に日が暮れた頃……。
クロコンバイナーが完成していた。
「こ、これで完成?」
「完成だよ。おめでとう!」
そこには、堂々たる黒いコンバインの姿が。
「や、やったあーっ!」
舞香が頭上に両拳を突き上げた。
「よーし、それじゃあ変形させてみようか」
「う、うん!」
説明書を裏返すと、変形の仕方が書いてある。
クロコンバイナーは下半身に変形するのだ。
「うんしょ……」
「米倉さん、そっと、そーっと……」
「わ、分かってるけど、硬い……」
「ちょっと見せて」
クロコンバイナーを受け取る。
組み立てでおかしいところは……パッと見ではない。
てことは、力の掛け方かな?
「米倉さん、ここを持って。テコの原理でそーっと」
「う、うん。こう……そーっと……」
キシキシと音を立てて、収納されていた足の部分が展開していく。
両足を展開すると、それでクロコンバイナーの変形は終わりだ。
広い足の裏をテーブルの上に設置させると、それは堂々と直立した。
「や、やった……! 立った! 立ったー!!」
舞香がはしゃぐ。
凄いテンションだ。
俺も嬉しい。
「私にもできたよー! ありがとう、稲垣くん!」
喜びの声とともに、柔らかいものが俺にくっついてきた。
「えっ!?」
舞香がすぐ近くにいる。
こ、これはまさか、抱きつきかけている……?
「あっ!」
舞香も我に返ったようだ。
すすすっと距離を取った。
「しまったー。春ちゃんの時の癖で抱きついちゃうところだったー……」
舞香、抱きつき癖がある……?
麦野め、いつも舞香に抱きつかれているというのか!?
羨ましい……!!
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