第62話チャラ男とパーティー
「「「「「お誕生日おめでとう!」」」」」
「はぇ?」
聡にしては可愛らしい声を出し驚いているところに悪いがさっさとリビングに入るように勧める。
「嘘、マジ?……すっげぇ嬉しい」
リビングに入るなり、用意された料理や、飾り付けを見てやっと状況を理解したようで聡は本当に嬉しそうに言葉をこぼす。
そんなやっと状況の理解出来た主役に咲良がニコッと太陽のような笑顔を向けて言う。
「みんなに協力してもらって聡の誕生日パーティーをすることにしました!」
聡は膝から崩れ落ちる。
「マジで嬉しい。俺の家、こんなことしないからさ……」
聡はいつもはヘラヘラしているがこういうサプライズだったりに弱い。
本気で喜んでくれるので仕掛ける側としてもとても嬉しい気持ちになる。
正直最初はいきなりすぎて少しめんどくさいと思ってしまったが、こうやって人が本気で喜んで、笑顔になる瞬間を見てしまうとそんな気持ちも吹き飛ぶ。
こうやってサプライズをして本当に良かったと心から思える。
「ほら、そんなとこ座ってないでこっち来いよ」
陽がその場で座り込んだ聡をテーブルの真ん中に来るように勧める。
「ほらほら、咲良さぁ、彼氏の誕生日なんだから聡の横に行ってあげなよー」
優心が咲良に聡の隣に行くように勧める。
聡と咲良は顔を見合わせた後で恥ずかしいそうに真ん中に座った。
「雫?コンロ弱火にしといて」
「わかったわ」
雫に指示を出して今回の目玉。チーズフォンデュをテーブルに持っていく。
超弱火のコンロにトロトロになったチーズがたっぷり入った鍋をセットする。
そして料理、主役が揃ったところで咲良が、
「それでは聡の誕生日パーティーを始めます!聡お誕生日おめでとう!」
と言う。それに続いてみんなも聡に声をかける。
聡が照れくさそうに『ありがとう』と言っている姿がなんだかいつものチャラ男という感じではなくて、少しおかしく感じる。
それじゃあと聡は、
「いただきます」
と言うとみんなも『いただきます』と合わせる。なんだか小学校の給食を思い出す。
それぞれ料理に手をつけていく。
「うまぁー。黒兎本当に料理上手いじゃん!」
優心がローストビーフをほおばりながら言ってくる。
「ほんと。黒兎料理上手だねー。また教えてよ!聡に作ってあげようかな?」
「ん?別に咲良が作る料理ならなんでも喜んで食べるぞ?」
「もう、そういう事じゃなくて!せっかくなら美味しいご飯がいいでしょ?」
「だから、咲良の作った料理はなんでも美味いって」
「……ほんと、聡には敵わないよ」
なんだか恥ずかしいそうにけどそれを上回る程嬉しそうに頬を赤らめながら咲良言う。
『まあまあ、また教えてやるから』と、一応咲良に教えてあげると言っておく。
そんな中黙々と食べる人が2人。
本当にモグモグという効果音が似合うほどに黙々と食べている。
「ほら、せっかくなんだから喋ったら?雫も陽も」
その2人というのは雫と珍しく陽だ。
いつもは良く喋る陽が黙々と食べる。
「聡の誕生日会だぞ?なんかほら、言うことないの?」
「俺は黒兎のお嫁になる」
「は?」
よくわからんことを言う陽。
「いやー、こんな美味しいご飯を毎日食べれる雫さんは幸せだな」
「あら?そうでも無いわよ?最近はスーパーのお惣菜ばかりだし」
「うるせぇ、食べさしてやってるんだから文句言うな」
『相変わらず仲良いなぁ』と優心や咲良に言われてしまう。
陽や雫を含め聡に咲良に優心。このメンバーが自分の作った料理を美味しいと言って食べている。
今、テーブルを囲うみんなの顔には笑顔が浮かんでいる。
黒兎はこの光景を見て少し父が料理人になった理由がわかった気がする。
こんなにも人に料理を食べてもらえる。こんなにも人を笑顔にできる。こんなにも楽しい空間を作ることができる。
学校の空気とまで言われた自分が、学校の人気者達を笑顔にできる。こんなにも嬉しいことは無い。
そんな楽しい時間が1時間半程進んだ頃。
黒兎の用意した料理はすっかり食べ尽くし、テーブルの上には何も乗っていない皿や鍋が並んである。
今回の料理は少し少なめにしておいた。
それは……
「それじゃいきますか」
陽と優心が冷蔵庫の方へ向かう。
そして冷蔵庫から取り出したのはひとつの箱だ。
それを見て雫と黒兎はテーブルの上を片付ける。そして綺麗になったテーブルの上にはその箱が置いてある。
その箱を開けるように陽が聡に勧める。
「開けるぞ?」
そして、その中から出てきたのはケーキだ。
そう。ケーキを美味しく食べれる程度に料理の量を減らしておいたのだ。
こうやってケーキを見るとさらに誕生日パーティー感が増してくる。
「ケーキじゃん!うわっ、マジ?うぇー、ほんとありがとう」
聡の反応が面白いのなんの。
あんなリアクションを取ってくれる友人は聡以外にいないなと思いながら黒兎は部屋の電気を消した。
ケーキを出した時にロウソクを立てて火をつけていたので、電気が消えることで暖かい光がテーブルを照らす。
「それじゃハッピーバースデートゥ聡!」
咲良が歌うのを合図に聡がロウソクにふぅーと息をかける。
ロウソクが消え、電気をつけるのと同時に聡の笑顔が目に入ってくる。
それを見て咲良や陽たちも笑顔になる。
これでサプライズは終了。計画していた咲良も安堵の表情を浮かべる。
ケーキをとりわけみんなで食べる。
たった1日のことなのにこの1ヶ月近い夏休みの思い出の中でも、トップクラスに楽しい日になった。家族や雫と過ごす日々も十分刺激的で楽しかったが、それよりも友だちとワイワイする方が黒兎にとっては楽しかった。
本当に一生続けばいいと思った。けどそう言うものほど時間が経つのが早い。
時間は午後11時前。
ずいぶんと長い間喋っていたようだ。
そしておわりの時間が近づく。
「そろそろ帰ろうかな?」
優心が言う。
「俺もそろそろ帰らないとな」
「そーだね。もうこんな時間。はやいなー」
「ああ、今日は楽しかったよ」
皆も帰ろうという雰囲気になってくる時に黒兎は気づく。
(プレゼント!!)
忘れるところだった。プレゼントを渡さないと。
黒兎は聡と咲良を引き止める。
そして優心や陽もプレゼントを用意していたみたいで……。
「これ!プレゼント」
「ほい、俺からも」
「俺と雫からも」
各々がプレゼントを渡す。
「咲良は渡さないの?」
優心が咲良に聞いた。
すると咲良は恥ずかしいそうに、
「明日、その……渡すというかなんというか」
なんだか恥ずかしいにしている咲良を見て黒兎は察した。
(あー、プレゼントは明日一緒にいることか)
きっと咲良は明日一日聡と過ごすのだろう。
本当に仲がいいことだ。
「プレゼント見てもいい?」
聡が聞いてくるが時間も遅いのでみんなからは家に帰ってからのお楽しみということにしておいた。
「それじゃ、バイバイ」
「またな」
「あーそうそう」
優心が忘れていたと言わんばかりに、
「黒兎も雫も名前で呼び合うようになったんだね」
そう言ってきた。するとみんなが何やらニヤニヤし始めるので『うるせぇ!さっさと帰りやがれ!』と家を追い出した。
黒兎と雫は静かになったリビングで後片付けをしている。
「名前で呼ぶことなのだけれど」
雫が話し始める。やっぱりやめようとか何かかなと思っていると意外なことを口にする。
「あの4人の前ではいつも通りでいきましょう。私は黒兎と呼ぶわ。きっとあの4人の前では隠し事なんか通用しないでしょうし、それにもう、黒兎って呼ぶ方が慣れたわ」
黒兎は少し考えた後でいいよと答えた。
色んな意味で警戒することのなくなったあのメンバーの居心地はもっとよくなって行くと思う。もし、雫と自分の関係が変わってしまっても、あのメンバーならきっと受け入れてくれる。
静かなリビングに寂しさ感じながら片付けを進める黒兎だった。
なお、この話はその後に聞いたのだが、あの次の日。聡の誕生日には咲良とそれはもう、色んな意味で"あつい"一日を過ごしたようだ。
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